09.おでかけ
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冴えわたる鈍色の空の下、王都の街は色彩に溢れていて、目の前を流れゆく人や物に気を取られてしまう。だけど時おり、クロード様のきらきらと輝く金色の瞳がこちらを見ているのを感じてしまい心が落ち着かない。それなのに不思議と、クロード様が隣に居ると安心する。
「アデル、何か気になる物があったら言ってね」
「それでは敷物を見に行きましょう?」
「敷物もいいけど……新しいドレスを見に行くのはどうかな?」
「クロード様を待たせるわけにはいきませんので見に行かなくて大丈夫です。それに、私なんかがドレスをたくさん持っているともったいないですよ。必要最低限あればいいんです」
すでにクロード様とお義母様がドレスを用意してくれているから、むしろしばらくは買わなくていいくらいだ。
ウィンストン家にいた頃では考えられないくらいクローゼットが色とりどりになっていて、見る度に申し訳ない気持ちになっている。
ドレスは似合う人がたくさん持つべきなんだと、お父様はいつもそう言ってクレアにドレスを買ってあげていたから。
服に着られるような私がたくさん持つのは恐れ多くてしかたがない。
「そんなことないよ。アデルは何を着ても似合うから、どんどん新しいドレスを着てもらいたくなってしまうよ」
「いいえ、私は何を着ても似合わないんですから……」
「アデルは俺の美的感覚を疑ってるの?」
「ち、違います! 私の器量が悪いので……」
クロード様の美的感覚を否定しているのではなくて、ただ、事実を言っただけ。
クレアのようなぱっちりとした目も、波打つ金色の髪や宝石のような青い瞳も、人形を思わせるような白い肌も、ひとつとして持ち合わせていないから。
そんな私が綺麗なドレスを着ると絶対にドレスに着られてしまう。
そうなってしまうんだと、わかっているから、クロード様に失望されるのが怖くて、少しでも否定しておきたいのだ。
「いいや、アデルはこの世で一番美しい人だよ。綺麗で可愛いくて、そして心優しい自慢の妻さ」
そう言ったクロード様は片手で口元を覆う。
急にどうしたんだろうと見上げると、少し照れくさそうな顔をしていて、耳は微かに赤くなっている。
「妻って言うのは早すぎたかな?」
「い、いえ。もうすぐ結婚するのですし、早くないと……思います」
クロード様の赤くなった顔を見ていると私もつられて頬が熱くなってしまう。
自慢の妻。そう言ってもらえると嬉しくてこそばゆくなる一方で、この先、クロード様がそう思ってくれなくなったらどうしようかと、不安が顔を覗かせる。
いつか出来損ないの私に愛想を尽かしてしまうのではと考えてしまい、胸が痛くなるのだ。
クロード様に対してこんなことを考えてしまってはいけないのに、悪く考えてしまう癖を止められない。私のことを助けてくれて、大切にしてくれている人なのにも関わらず、いつか捨てられてしまうんじゃないかと思ってしまうのだ。こんな失礼な自分が嫌いになる。
苦い気持ちになっていると急に、クロード様の手が背中にまわされた。
「アデル、離れないでね」
「は、はい」
少しずつ、そっと、引き寄せられていく。安心するけど緊張してしまい、気を紛らわせるためにあちこちに視線を走らた。右を見ても左を見ても、クロード様に見惚れる視線と、私への敵意を滲ませた視線とぶつかってしまう。クロード様は存在感があるから、どこに行ってもこうやって人の注目が集まってしまうのだろう。
「クロード様とウィンストン嬢が一緒にいるわ」
「どうしてあんな地味な子を選んだのかしら?」
異様に大きな声で囁かれる言葉を聞いてまたもやいたたまれない気持ちになっていると、クロード様の金色の瞳が覗き込んできた。
その瞳はまっすぐに私を映してくれていて、蜂蜜のように甘い眼差しを向けてくれる。
「アデル、早くお店に入ろうか。ここは騒がしいから、アデルが疲れてしまわないか心配だ」
「それでは敷物店に行きましょう」
「本当にそこでいいの? アデルが好きなものを見に行きたいのに……」
「私が見たいものですよ? だって、クロード様を冷たい床の上に座らせたくないですもの。温かくて、クロード様が落ち着いてお仕事できる物を見つけたいんです」
私の事なんてどうでもいい。クロード様のために買い物をしたい。こんな出来損ないの私を必要としてくれる心優しいひとに、恩返しをしたいから。
どんなものにしようかずっと悩んでいて、リリーやジャスミンにも相談していた。炎熊の毛皮だとか、魔術師団が開発した保温糸から作られた敷物だと薄くても温かいらしい。
毛皮の方がふかふかしていて座り心地がいいけれど、圧倒的に温かいのは保温糸のようで、どちらにしようか迷っている。
クロード様が好きそうな一品を見つけられたら、クロード様は喜んでくれるかしら。
喜んでくれるクロード様を想像すると、自然と頬が緩んでしまう。
「なので、一緒に選ぶのを楽しみにしていたので早くお店に行きたくてしかたがないんです!」
「っアデル。その笑顔は反則だよ」
クロード様は急に胸の辺りを掴んで、息苦しそうな声を絞り出す。あまりにも強い力で掴んでいるものだから、クロード様のシャツはしわしわだ。帰ったらリリーとジャスミンに怒られそうで心配になる。
「こんなにも可愛いアデルの笑顔を誰にも見せたくない……」
クロード様はなにやら小さく呟くと、私の手にそっと唇を触れさせる。軽く触れているけどなかなか離れず、クロード様の唇の熱を感じ取ってしまうものだから心臓が早鐘を打つ。
「アデルがそう言ってくれるなら、先に敷物店に行こう。その後は俺の我儘を聞いて欲しいな」
「も、もちろんです!」
どんな我儘なのかわからないけど、蕩けるような笑顔でお願いされると叶えたいと思ってしまった。
アデルの笑顔で心臓発作を起こしそうになったクロードです。




