第1話 不謹慎極まりないスローガン『働かざるして喰っていこう』を 掲げ、私の旅の始まりです。(9)
トライセクルです。ぎゅうぎゅう詰めの車内で、ジョイの表情は上気付いていました。笑顔さえ浮かべています。
トライセクル再び・・・こんな具合で大量積載です。
我らの上部。つまりはバイクの側部に繋がったサイドカーの屋根には箱入りのプレイステーション3を2台。そしてXBOX360を1台。それに対応したゲームソフト及び周辺機器を積んでいます。
ジョイは満足気でした。
例えるならば、
収穫した大漁の獲物を抱えた、ツガイの男を迎える女の心境・・・!?
彼女の笑顔は本物でした。
確かに私が経営に加担したネットカフェ。頭上にある、これ等最新のゲームマシーン。これ等が大きな「売り」でした。言わば其のカフェには欠かせない存在です。
しかし、私は背に腹は代えられない。上司であるKさんとの計画及び約束。生活は保障すると約束してくれた言葉。私は其の言葉に縋り及び信じてカフェ経営に心血を注いできたつもりでした。それが果たされなかった今・・・
私は生きていく為にも、背に腹は代えられなかったのです。もちろん私は幾度となくKさんに電話やSNSで連絡を入れていました。梨の礫とはこの事です。返事も返信も無しでした。完全なる無視を決め込んだKさん。
・・・そして昨日。最後のメールを送りました。
「あなたの約束が果たされずにいる現在。私は強行せざる負えない状況です。生きていくための行動です。ゲーム機とその関連商品は私が企画し選択したモノです。3か月分の私の給料として頂きます」的な内容でした。
ジェネラルサントス。賑わいに沸くメイン通りの商店街です。ジョイに尋ねた最も立派なポーンショップ(質屋)。その入り口に乗り付けました。すべての店舗がそうでは無いのですが人気な店舗には必ず、ショットガンを携えた物々しい姿のガードマン。
(優しい笑顔ではありますが・・・物騒な姿は致し方なしのお国柄)
最初は若いスタッフが応対。彼は直ぐに動揺です。少々お待ちをの手振りの彼が、店の奥に姿を隠して半時間程の後です。オーナーも含めた三人の関係者が現れました。彼等は興奮気味で何事かをジョイに語らい、そしてジョイが私に通訳です。
「タロ。おめェ~が持って来たモン。『こいつはワシ達には、とても見積もれない』ってね。こいつ達ァそう~言ってんだワァ。タロ!」
「買い取れないって事!?」
私は激しく動揺です。正に質屋の関係者達以上の動揺です。
店舗玄関先の低いコンクリート作りのなだらかスローブ。その場に、それぞれに箱から取りだした3台の商品。昼日中の東南アジアの強い陽射しに黒々と輝くゲームマシーン。気付くと周囲は黒山の人だかりでした。
2008年のこの時期。本章第二回のページで報告済みの情報を今一度。
『・・・聞くところによると現地ジェネラルサントス。今だ(2006年の時点)プレイステーションの1が猛威を奮っているとの事。現地では高価な品であるらしく、一般には出回ってはいないとの情報。はて!?それではプレイステーション1。現地の皆さんどこでプレイするのかと申しますと・・・デパート店舗内等のゲームセンターに、荒々しく改造され硬貨投入口を無理矢理に備えたソレが、哀れな姿で出回っていました』本章第二回より抜粋です。
その時期。現地フィリピンでは存在しなかった商品だったのかもしれません。しかし質屋関係者は言いました。
2~3日待ってくれと・・・
その間にマニラの関係各所に連絡した後、見積もりを出しましょうとの事でした。そして彼等は最後に付け加えました。
『絶対に他所で売らないでほしい』
結論から言いますと1万8千ペソでプレステ3を一台のみ売りました。
日本円でおおよそ3万6千円。ジェネラルサントスの平均月収のおおよそ3倍弱に当たります。
私は其の後2か月間滞在の猶予を得ました。しかしノアの方舟は引き払う事となりました。何故なら残りのゲームマシーンは全てネットカフェに返してしまったからでした。