2008年10月31日
「お菓子くれなきゃいたずらするぞー!」
「……仕事は?」
「はいっ、早退しました!」
10月31日。
世界ではハッピーハロウィン。
ハッピーかどうかは知らないし、イスラム圏内とかではきっと行われていないだろう行事が、仏教圏内の日本、しかも、帰宅した我が家で開催されていた。
……何物のつもりなのかは若干謎な仮装をした、サンタクロースの手によって。
「通りで……早々に帰宅したと思った。合点がいったわ」
「はい!」
決して褒めたつもりではないのに、何故か、うきうきで笑う千尋。
しつこいけど、褒めたつもりはないのに。
そもそも、どうしてわざわざあたしの家でやるのか。
これまたしつこいかもしれないが、うちの墓は寺にあって、土葬ではないし花葬でもなければ、だだっ広い敷地に十字架が立っているようなものでは決してない──決して。
それ以前にこの行事のルーツはキリスト教ではなかったような気がする。
いや、それより何より、自分の家でやって欲しいと思うあたしは、多分、きっと、間違ってない。
「流石はワールドワイドサンタ」
「?何ですか?」
「何でもない」
笑顔で首を傾げたサンタに、脱力して首を振った。
「朱美さん、ほら!」
それよりとばかりに、てっと手を出してうきうきと笑顔を浮かべる千尋に、意味がわからなくて、今度はあたしが玄関先で首を捻った。
何なんだ。
「自分んちで開催してよ」
「だって、こういうイベントはやっぱり一人より二人でやらないと」
まだ上がれてもいない自宅は、ちらと見えた限り、無駄に装飾がされていた。
玄関先には、かぼちゃ。
かぼちゃがいる……かぼちゃのランタンがいる。
「まさか、自作?」
「はい、苦労しました!」
苦労したんだ。
そりゃそうだろう、かぼちゃは綺麗に顔が刳り貫かれ、中には、ご丁寧にキャンドルが灯されている。
踏まなくてよかった。
火事になるところだった。
思考が逸れて足元を見詰めるあたしの視界に、ずいっと侵入してきた、千尋の手。
「ほら、朱美さん。例のものをください」
例のものが何かは嫌というほど理解出来るが、生憎あたしは、この行事にそれほど関心がなかった。
訪れた沈黙に、まさか、とばかりに眉の下がる千尋。
「……まさか、いや、やっぱり……」
「……あーごめん。まさかあんたが、こんなに盛り上がってると思わなくて」
と、いうか。
まさかサンタクロースが、ハロウィンにご執心とは思わなくて。
そう言わなかったあたしは、結構、大人だと思う。
悪かったかなと少しだけ思いながら、恐る恐る顔を上げたなら。
「あれ?」
満面の笑顔な、千尋がいた。
「お菓子くれなきゃ、いたずらするんですよ?」
「いたずらって……っ!?」
近づいてきたのは、思った以上に端正な顔。
金色の柔らかな髪が、あたしの鼻先を擦って。
頬に当たった、少し低めの温度。
「ハッピーハロウィン、朱美さん」
また目の前に戻っていた千尋の笑顔に、息を飲んで、固まった。
「さ、ご飯にしましょうか」
「……また、うちで作ったんだ」
「合鍵ありますもん」
「合鍵!?」
10月31日。
例え一部であろうとも、世界ではハッピーハロウィン。
二度びっくりして、それから、少しだけ、千尋を意識した。
そんなハロウィン。
「日本てあんまり悪魔とかに興味ないんですか?」
「は?」
「だって、案外盛り上がってないなあと思って」
「うーん……まあ、そうなんじゃない」
「仏教圏だからでしょうか。でも、クリスマスとかは盛り上がりますよね?」
「馴染みがないのは確かだと思うけど……妖怪とかだったら盛り上がったんじゃない?」
「豆腐小僧のコスプレとかですね!」
「いや、まあ、豆腐小僧メインてことはないと思うけど」
end?




