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365日のサンタクロース  作者: 鈴木真心
2008年のサンタクロース
10/17

2008年11月3日

世の中は三連休。

あっさりとした秋晴れとまではいかない今日、あたしは、わさわさとした部屋の雰囲気に目が覚めた。


何だかうるさい。

せっかくの連休最終日の今日は、昼過ぎまで惰眠を貪る予定だったというのに。



「……何してんの?」



目を開けたなら、サンタクロース。


まだ起き上がってもないあたしを覗き込んで、にこにこと、無邪気を飛び散らせていた。


何故ここにいるのか。


そんなことはもう、日常茶飯事なので、口にはしないけれど。

ついでに、新妻フリフリエプロンにも、もう突っ込まないけれど。


至近距離で目が合ったまま考える。

何となく今日という日の意味に気が付いて、小さく溜め息を零した。



「……文化の日か」

「はいっ」



嬉しげなこのサンタクロースはどうやら、もっぱらイベント好きらしい。


11月3日、文化の日。

ついでに言うなら、この日は明治天皇誕生日で、みどりの日は昭和天皇誕生日である。

サンタクロースに関係あるのかは、すでに愚問だ。

千尋の国籍は日本らしいので、無関係とまではいかないかもしれないが。


国籍って人種とは無関係なんだなと、それこそ、無関係なことを思った。



「ほらほら、起きてください」



ぐいぐいと腕を引っ張られ、思った以上の力で起き上がらされた。


さして広くもないマンション。

僅か開いた寝室のドア。

そこから覗く驚きの光景に、目を見張って絶句した。



「え」



にっこにっこと笑顔を振りまく千尋と対照的に、フリーズしたまま何も言えないあたし。


何か見えた。

今、明らかにおかしなものが見えた。


ぱちぱちと瞬きすること数回。

ああ、とばかりに、隣りの人物から衝撃の事実が明るみとなる。



「お引っ越ししてきました」

「お引っ越し!?」



がばっと起き上がって、ばたんっと勢いよくドアを開けた、その先──ダイニングには、先ほど覗いて見えた荷物達が、ちらほらと散乱していた。


多くはない、どちらかといえば、かなり少量なそれ。

ふうと安堵してから、はっと我に返る。



「な、何で……?」



ゆるりと振り返ったあたしに、千尋はきょとんと首を傾げる。



「文化の日って、お引っ越しする日なんですよね?」



違う。


誰にそんなよからぬ戯言を吹き込まれたのか。



「吉蔵さんがそうだって」

「またか、吉蔵さん」



我が雇い主元締めの暴挙に、げんなりと、肩を落とした。


そんなあたしの心情知ることなく、ああ、とか言いながら、がっさがっさと荷物を漁る千尋が、一枚の紙切れを取り出して、はいと笑顔であたしに渡した。


一通り目を通して、またもや絶句する。



「これ……まさか、吉蔵さんから?」

「はい」



無邪気な笑顔の知らないところで、あまり無邪気ではない、邪な取引が、今、なされようとしていた。



『家賃を全額負担しましょう。交換条件で、千尋をよろしく』



我が家の構造は、キッチン、ダイニング、寝室、そして、余り部屋一つ。


吉蔵さんの思惑はわからない。

ある意味、果てしなくて。

隣で無邪気に笑うは、世界を相手取るサンタクロース。

手の中の紙切れは、雇い主元締めからのおかしな交換条件。



「……仕方ないか」



だってこれ、お伺いじゃなくて強制だよね。

勅令みたいなものだよね。



「よろしくお願いします、朱美さん!」



世の中は文化の日。

この日あたしは、何が何だかわからない内に、サンタクロースを同居人に迎えたのだった。





「あ、ちなみにね」

「何ですか?」

「文化の日って、別に、お引っ越しする日じゃないから」

「ええっ!?」

「そもそも、お引っ越しする記念日って何よ」

「お引っ越しするからお休みなのかと……」

「まあ、理にかなってはいるかもだけど、違うものは違うから」





end?

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