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境界線の上で、立つ — Standing on the Line —  作者: 和泉發仙


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第二十九話 伝わらない選択

前書き


理解されない、という出来事は、

対立よりも静かに起こる。


否定されるわけでも、

叱られるわけでもない。


ただ、

「そういう意味じゃない」

と言われるだけだ。





翌日。


駅前は、

昨日と同じように

人が流れていた。


掲示も、

視線も、

特に変わらない。


変わったのは、

解釈だけだった。



三崎は、

上司に呼ばれていた。


個室ではない。

半開きの会議スペース。


「例の件だけど」


上司は、

資料を閉じたまま言う。


「対応が

少し消極的だった、

という声が

出ている」


三崎は、

頷いた。


「意図的です」


「守らなかった、

ということ?」


「はい」


上司は、

困ったように笑う。


「誤解があるな」


三崎は、

否定しなかった。


誤解がある、

という理解こそが、

ここでの

“正常”だった。


「放置ではない」


上司は続ける。


「だが、

外から見ると

区別がつかない」


三崎は、

静かに答える。


「区別できない形に

したからです」


上司は、

少し言葉に詰まった。


「それは……

責任を

回避しているように

見える」


三崎は、

初めて

視線を上げた。


「回避です」


即答。


「引き受けると、

囲います」


「囲うと、

彼女は

立てなくなる」


上司は、

深く息を吐いた。


「……理念は

分かった」


「だが、

現場では

“分かりやすさ”が

優先される」


三崎は、

それ以上

言わなかった。



同じ頃。


エリオットは、

トマスと

通話していた。


「日本では」


トマスの声は、

少し苛立っている。


「“守らない”が

“冷たい”に

変換される」


「ええ」


エリオットは

落ち着いていた。


「ここでは、

意図より

安心が

優先されます」


「安心は、

誰の?」


「場の」


トマスは、

短く笑った。


「……厄介だな」


「だから、

長く続いています」



夕方。


ミオは、

駅から

少し外れた場所にいた。


今日は、

人が少ない。


「……誰も

来ない」


独り言。


昨日の夜の

選択。


守られない、

という選択。


それは、

思っていたより

孤独だった。


でも、

嫌ではなかった。


「……立つ、

って

こういうことか」


座らない。

寄りかからない。


誰かの

許可も

借りない。



そのとき、

一人の女性が

通り過ぎる。


足を止め、

戻ってくる。


「……あの」


ミオは、

一瞬身構えた。


「大丈夫?」


問いかけは、

短い。


ミオは、

少し考えてから答える。


「大丈夫」


女性は、

それ以上

踏み込まなかった。


「そう」


それだけ言って、

去る。


ミオは、

息を吐いた。


「……それで

いいんだ」



夜。


コンビニの裏。


三人が

集まる。


今日は、

少し静かだった。


「理解、

されませんでした」


三崎が言う。


「予想通りです」


エリオットは

即答する。


トマスは、

少し苛立っている。


「分かってもらう

努力を――」


ミオが、

遮る。


「いい」


「分かって

もらわなくて」


トマスは、

言葉を止めた。


「私さ」


ミオは続ける。


「理解されると、

説明が

始まる気がする」


「説明されると、

役割が

決まる」


三崎は、

小さく頷いた。


「“理解”は、

管理と

近いです」


エリオットが

補足する。


「特に、

善意の理解は」


トマスは、

黙っていた。


彼は、

理解されるために

書いてきた人間だ。


だが今、

理解が

彼女を

狭くすることを

見ている。



「……じゃあ」


トマスが、

ゆっくり言う。


「俺は

どうすればいい」


ミオは、

即答しない。


少し考えて、

言う。


「間違えて」


「え?」


「間違えて

いいから」


「正しく

やろうと

しないで」


トマスは、

その言葉を

受け止めた。


重かった。

だが、

逃げなかった。


「……努力する」


ミオは、

肩をすくめる。


「期待してない」


その言い方が、

なぜか

救いだった。



別れ際。


ミオは、

振り返って言う。


「ね」


「理解されなくても

立ってて

いいんだよね」


三崎は、

はっきり答えた。


「いいです」


「それを

選んだ人は、

強い」


ミオは、

小さく笑った。


「じゃあ」


「今日も

立つ」


そう言って、

夜に溶けた。



後書き


理解されることは、

安心です。


けれど、

安心は

必ずしも

自由と

同じではありません。


この話で描いたのは、

伝わらない選択が

間違いではない、

という事実です。


次は、

この立ち方が

他人の行動を

変えてしまう話です。



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