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06 庭園にて

 今日は天気も良いし、風も強くない、散歩するには丁度良いと言えるでしょう。

 ロースソーン家の庭園は散歩するには十分なほど広く、それでいて綺麗に整備されています。

 私はアチコチうろつきながら、目についた花を愛でたり、香りをかいだりとしていました。

 そんな中、とある場所にたどり着く。

 そこには『現在整備中』との立札があり、申し訳程度の木の門と柵で囲われた一角でした。

 本来なら入るべきでない、そんな事は分かっていたのですが、つい、興味が湧いてしまい、粗末な木で作られた門をそっと開けて足を踏み入れた。

 中は整備中、とあった割りにそれほど荒れていませんね。

 ただ、花などは殆ど咲いていません。

 私はその一角をグルっと探検しはじめ、あと少しで全部見回れる、そう思った時の事。

 その区画の一番奥にあるベンチに誰かが座っているのに気がつきました。

 距離があるので最初は顔までは分かりませんでしたが、向こうも私に気が付いたらしく、顔をこちらに向けました。

 ……最初はそのままスルーしてしまおうかと思ったのですが、こうなった以上はキチンと挨拶をしなければなりません。

 私は小さく溜息を吐きながら、そちらに向かって足を進めたのでした。

 そして近づくにつれ、その人の容姿が徐々に明らかになります。

 最初に目についたのはその黄金色の美しい髪でした。

 時折風で前髪が靡くようすから、整髪料などで強固に固められていないのでしょうね。

 そして、その前髪の隙間からこちらをみつめる蒼く鋭い眼。

 その整った顔は、一見するととてもとても美形なのですが、そのするどい目付きがマイナス要因ですね。

 もっと優しい目付きなら、女性人気は跳ね上がるでしょうに。

 そんな失礼な事を思いながら歩いていた私に罰があたったのか、不意に強めの風が拭き付け、私は慌ててスカートを押さえつけますが、その拍子に足がもつれ石へとつまずいてしまったのです。


「あっ、ぁわわわわっ」


 そんな我ながら間抜けな声をあげると、そのまま地面にドスっと転んでしまった……。

 慌てて起き上がろうとする私ですが、頭の中は恥ずかしさで一杯になっていました。

 その方は静かに近寄ると、私にそっと手を差し伸べてくれる。

 その顔はクスリともせずに、鋭い目付きのままでした……。


「宜しかったら、お手をお取りください」


「……ハイ、アリガトウゴザイマス」


「こんな何でも無い場所でここまで派手に転ぶ人は初めて見ましたよ」


「……ソウデスネ、ワタシモソウオモイマス」


 恥ずかしさのあまり、思わず片言の喋り方になってしまいましたが、私は差し出された手を取り、指先を重ねました。

 するときゅっと握り返されて、ふいに私の胸がドキンと高鳴る。

 アレ、私、どうしたのかしら?

 初対面の男性にときめいてしまったのか、それとも初対面にも関わらず、恥ずかしい所を見せてしまった羞恥心によるものなのか。

 どっちなのか今の私には分かりませんが、手を差し伸べてくれたこの方に心が刎ねた事だけはたしかです。

 半ば顔を赤らめつつも立ち上がろうとした所で、不意に足がもつれてしまいました。


「あっ!?、きゃっ――」


 再び地面へと倒れ込む覚悟を決めた私でしたが、予想はハズレて転ぶ事は無かったのでした。

 なぜならば私が転びかけたその瞬間、抱きとめるように腕で腰を支えてくれたからです。


「……大丈夫ですか?」


「ハ、ハイ」


 目の前の男性は、力強く私の腰を支えてくれています。

 見た目はそれほどでも無いですが、結構力のある方のようです。

 そして、私の胸は再びドキンドキンと大きく高鳴りました。


「支えてますから、気を付けてお立ちください」


「ワ、ワカリマシタ」


 その方に支えられながら、今度は無事に立ちあがる事ができた。

 私が立ち上がったのを見て、その方は手を離されましたが、私の心臓は相変わらすドキンドキンと高鳴ったままです。


「あ、ありがとうございます。もう、大丈夫です。そ、それではごきげんよう」


 私は気恥ずかしさのあまり、それだけ言うと踵を返してその場から離れました。

 そうです、逃げ出したのです。

 見えなくなる距離まで、私は背中に視線を感じつつ、足早に屋敷まで戻るのでした。

 私は自身にあてがわれた部屋へと戻り、椅子に腰を下ろすと先程の出来事を思い返す。

 するとまた、心がドキンと高鳴った……ような気がしました。

 うーん、あの男性は一体何者なのだろーか。

 伯爵は数日戻らないと聞いているし、立ち振る舞いからしてこのお屋敷の使用人、という感じでもないです。

 とすると、伯爵に縁戚のある方?

 それとも、私の同じように招かれた客人なのかな?

 今の段階では情報が不足していて、結論が出せません。

 その時、私のお腹が「くぅ~」と小さく鳴りました。

 私は軽く苦笑して立ち上がると、食堂へと足を運びます。

 伯爵家では朝食を各々の好きな時間に食べるそうです。

 なんでも各自起きる時間がばらばらなのだそうだ。

 食堂ではすでに様々な朝食が用意されていて、私はどれも美味しく頂くのでした。

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