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緋色の島  作者: 都月 敬
5日目
20/46

大禿

気づけば、昼休みだった。

弁当を取ると、自然と中庭へ向かった。

午前中の授業は、ちっとも頭に入ってない。

それで、思った以上にショックを受けているんだと気付いた。


昨日、あのまま二人を見送った後。

適当に片付けをして、工藤さんを起こして、帰して。

それ以上はなにもする気が起きず、晩飯はアジフライの残りでごまかした。

思い出してみると、あれから何もしていないような気もする。


ふう、と。空へ大きくため息をついて。

自分に、なにがショックなのかを問いかける。

人ではないものと縁が切れたのだ。もう怖い思いをしなくてもいい。

そもそも、人だと思ったのだから、怖いと思う理由を否定するためだったのだから。

根本が間違っていた以上、素直に怖がって、遠ざければ済むはずだ。だけど。


ゆかり

「あ〜、また一人でお弁当食べてる」

修人

「まだ食べてません」


オレの弁当は蓋を取られることもなく、ただ膝に乗せられたまま。


ゆかり

「あれ? 元気、ない?」


中庭へ降りてきた先生が、仰向いたオレの顔を上から見下ろしてくる。

一発でツッコまれるほど弱ってるんだ、オレ。


修人

「鼻の穴見えるよ」

ゆかり

「え? ウソ、やめて」


ウソだけど。

慌てて一歩引いたゆかり先生は、少し迷ってから、オレの隣に腰を下ろした。


ゆかり

「なにか、話、聞く?」


生徒に親身な先生ぶってる。

これは、少し似合ってるか。


修人

「女子ときゃいきゃいしなくていいの?」

ゆかり

「いいかげん飽きられました。もう一週間だしね」


そうか、もう一週間か。


修人

「なら、そろそろ校長先生に呼び出されるか」

ゆかり

「そんな怪しい行動はとってません。一週間に二度のランチくらいは許容範囲内です」


誰が決めたんだか。


修人

「ねぇ、先生? この島に子どもの幽霊って出る?」

ゆかり

「へ?」


先生の、弁当の包みを開けていた手が止まる。

まぁ、予想外だろうな。流れを無視してぶち込んだんだし。


ゆかり

「えっと、なんの話?」


開きかけの包みを戻し、聞き直す先生。


修人

「幽霊じゃないか。お化けとか、妖怪なのかな」


大した話ではないから。

オレも包みを解きつつ、雑談風に話を進める。


ゆかり

「学校の七不思議とか、そういうヤツ?」


先生も再び弁当箱を開きながら、相づちを打ってくれて。


修人

「学校内じゃないんだよな。島で」


むしろ学校に来たことはない。


ゆかり

「なにか悪さとかするの?」


今までのことを思い出しながら、イメージをまとめていく。


修人

「悪さは、しないかな。ボールついて遊んだり、みかんを欲しがったり」


そこで、先生の箸がこちらを向いた。


ゆかり

「みかん? あの時の?」

修人

「あ。あの時のは、違うけど」


違わないけど。

なんとなく、意味もなくウソをつく。


修人

「あと、人に箸を向けちゃいけません」

ゆかり

「あぅ、ごめんなさい。でも、子どものお化けかぁ。聞いたことないなぁ」


箸を弁当に戻して、ゆかり先生が首を傾げる。


修人

「別に今の、じゃなくて、言い伝えとかでもいいんだけど」

ゆかり

「言い伝え、かぁ。。。」


よくはわからないけど、古そうな気はする。昔からいるような。

ややしばし考え込んだ先生は、しかしふるふると首を振って。


ゆかり

「そういう話は聞いたことないなぁ。図書室で、昔すごいお姫様がいた、というのは読んだけど」


『緋色の姫』か。


修人

「それじゃないんだよな。もっと子どもだし。おかっぱで」

ゆかり

「おかっぱ !?」


勢いよく、ゆかり先生がこちらを向いた。


修人

「……先生、飛んだ」

ゆかり

「ああ、ごめん。ちょっと、びっくりして」


慌ててハンカチを出して拭いてくれる。

それよりも。


修人

「何かあるの? おかっぱに」

ゆかり

「いいえ、何もないですよ」


うわぁ。ごまかすの、下手。

しかし先生は何事もなかったかのように、話を切り上げて弁当に集中してしまう。

そうなると、こちらも隠していることがある以上、さらに突っ込んでは聞けず。


修人

「——この魚も、うまいね」

ゆかり

「イサキだよ。これも煮ても美味しいの」


そんな雑談へと話題を流さざるをえない。


修人

「煮魚ってなんかハードル高いんだよなぁ」

ゆかり

「お母さんに聞いても、味付けは適当、とか言われるしね」

修人

「お母さんのいない生徒に、そのエピソードは NG だと思うな」

ゆかり

「あっ」


慌てて口を押さえても、もう遅いって。


ゆかり

「あ、あの。こういうのも、なんだけど、、、その、ごめんね」

修人

「まったく気にならないからいいです。言ってみただけ」


いや、ほんとに、まったく。だからこそ、こんなネタにもできるわけで。


ゆかり

「…………いじめてる?」

修人

「いじりは、いじめじゃないよね」

ゆかり

「された側の、感じ方の問題だと思います」


今度こそ本当に、黙々と二人、箸を動かす。

う〜ん、ちょっと、やりすぎちゃったかもしれません、お母さん。


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