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うつけ殿、秋の味覚を堪能する

拍手お礼画面の再掲です

 実りの秋というだけあって、秋に旬を迎える食べ物は多い。

 日本人は季節感を大事にするというが、戦国時代においては貴族の嗜みみたいなものだ。季節の移り変わりは死亡率が上がるか、下がるかの違いに直結する。

 そして秋は最大の繁忙期である。

「うーん、今年も実ったなあ」

 さやさやと揺れる金色の野原を眺めているだけで感無量だ。

 これを収穫し、計算し、年貢として納め、更に計算し、必要に応じて配分する。土地持ちの豪族は自分たちでやってくれるが、そうでない家臣は主君から給料をもらって米を買いつける。蔵に収められた年貢は、いざという時の備蓄品だ。

 災害時に配ったり、戦支度で兵糧として持ち出したりする。

 年貢に大豆を加える案は通ったものの、他の物に関してはなかなか難航していた。食べ物に拘らずとも、反物や道具類でも構わないという俺の主張が納得いかないらしい。

「どいつもこいつも頭が固ぇんだよ。石頭どもめ」

 最近、どうにも愚痴が増えた。

 前世の年齢と合わせたら齢七十越えの年寄りである。あっちの方はまだまだ元気なので、若い者には負けんっとか言ったら妙な顔をされた。誰に、とは言わないでおく。

「あいったああぁ!?」

 いつの間にか森へ入り込んでいて、俺は激痛に飛び上がった。

 鬱蒼とした大樹の集合体は、大騒ぎする人間を嘲笑うかのように揺れている。大いに茂った緑のおかげで、ちょっと暗い森林の風景にもすっかり慣れた。

 村のすぐ傍にある森は、食料の宝庫だ。

「毬栗か。あーくそ、思いっきり踏んづけちまった」

 葉の形で区別できない俺は、栗の木らしい巨木を見上げる。

 立派な枝がトゲトゲだらけだ。豊作なのは田畑だけじゃなかったようで、数えきれない毬栗の数ににんまりと笑みを浮かべた。定番の栗ご飯は外せないとして、今の俺には秘密兵器はちみつがある。ほんのちょっとだけなら砂糖も使えるし、菓子は女子供の大好物だ。

 嫁たちの喜ぶ顔を思い浮かべて、俺は栗の木を揺さぶってみた。

「ん? 落ちてこないな。こうやって落とすんじゃないのか」

 相撲力士の張り手くらいのパワーが必要なら、誰かを呼んでこなけば。

 そんなことを考えていた俺の頭にぼとり、と毬栗が落ちる。

「お」

 次の瞬間、何が起きたかはお察しである。



**********



 驚愕の事実に、俺は思わず箸を落とした。

「サンマが食べられない、だと!? 秋の魚といえば、秋刀魚だろう。秋に美味い刀っぽい形した魚と書くんだぞ! 刀を振るう武士がサンマ食べられなくて、何食えというんだ!?」

 川魚の煮付けを骨ごと噛み砕きながら叫ぶ。

 愛する嫁のおかげで、一汁一菜から一汁二菜が定番化しただけでは満足しない。

 食への欲求は果てしないものなのだ。たとえトゲ傷だらけになっても、来年の栗ご飯は決定事項。果物情報――はちみつに合うものなら尚良し――を求めて滝川一族には密命を与えてあるし、冬至に向けて小豆と南瓜の準備も進んでいる。

「あ、そろそろ里芋も掘ろう。サツマイモはどうだろうな。薩摩というくらいだし、九州との貿易には長距離用の船がいる。やはり水軍だ。日本一の水軍が必要だ!」

「水軍? 蜂須賀殿に頼んでみるのはどうかしら」

「うーん、川並衆は水賊だからなあ。海と川は違う。それに貿易するんであって、略奪はご法度だ。ラブアンドピース! 俺は無益な殺生を好まない」

「はいはい」

 さらりと流して、何事もなかったかのように手を合わせる帰蝶。

「ごちそうさまでした」

「お濃、もういいのか?」

「十分いただいたわ」

「そうか」

 俺たちは微笑みを交わし合う。

 上品な彼女は美味な食べ物を口にしても、無邪気にはしゃいで見せることはない。それでも「いただきます」と「ごちそうさま」を挨拶として取り入れるようになったのは、彼女なりの意識の変化かもしれない。

 手を合わせて瞑目する横顔に、ちょっと見惚れているのは俺だけの秘密だ。

「それにしても」

「ん~?」

「食べながら、こっちを向かないでちょうだい。米粒がとんだわ」

「ホントだ」

 白い黒子みたいにくっついた一粒を、ひょいと摘まんで食べる。

 何故か帰蝶が、真っ赤な顔をして口をパクパクさせていた。米の粒といえども民が心を込めて育てたものだから、自分で食べたかったのだろうか。

 しかも本日は栗入りである。

 美しい黄色が混ざったご飯を小さくまとめ、箸に乗せた。

「ほい」

「え?」

「お濃、あーん」

「食べ物で遊ぶのは止めてちょうだい」

「物欲しそうな顔してるから、食べさせてやろうとしたのに」

「してません! おかしなことを言わないで」

 とうとう怒らせてしまった。

 女心は秋空に例えられるが、俺にもよく分からない。さっさと部屋を出て行ってしまう帰蝶を追いかけることもできず、俺は一人寂しく残りの飯をたいらげるのだった。


つい宗教と政治の話をしそうになるので、思い切って省いたら嫁とイチャイチャするだけで終わりました。

サンマは塩焼きが一番美味いと信じていましたが、軽くあぶって薬味入りポン酢でいただくと箸が止まりません。旬の魚は脂が乗っているのが特徴で、その脂がちょっとキツい自分には良い塩梅で……という話は織田水軍結成後にやらかそうと思います。忘れていたらごめんなさい(←完全に忘れていましたごめんなさい…)

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