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第一章 天使の秘密 第二話 天使、押しかけてくる

翌朝。

俺は盛大なため息をついていた。

理由は簡単だ。

昨日の出来事が頭から離れない。

学園の天使・白雪美琴。

誰もが憧れる完璧美少女。

その正体が、コンビニへ行くのも面倒で空腹で倒れかけるポンコツ少女だったなんて。

「夢じゃないよな……」

そう呟きながら下駄箱を開ける。

すると、一枚の紙がひらりと落ちた。

「ん?」

拾い上げる。

そこには綺麗な字でこう書かれていた。

おはようございます。

今日の晩ご飯は何ですか?

白雪美琴

「なんでだよ!」

思わず叫んだ。

周囲の生徒が驚いた顔でこちらを見る。

慌てて紙をポケットへ突っ込む。

いや待て。

なんで俺の下駄箱を知ってるんだ。

なんで晩ご飯前提なんだ。

昨日で終わりじゃなかったのか。

そんなツッコミが頭の中を駆け巡る。

「おはよう、悠真」

後ろから声がした。

振り返る。

そこには幼馴染の朝比奈陽菜が立っていた。

肩まで伸びた栗色の髪。

明るい笑顔。

そして無駄に距離が近い。

「朝から大声出してどうしたの?」

「いや、なんでもない」

「怪しい」

じーっと見つめられる。

勘の鋭い幼馴染は厄介だ。

「本当に何でもない」

「ふーん」

陽菜は納得していない顔だったが、それ以上は追及してこなかった。

助かった。

◇◇◇

昼休み。

俺は自分の席で弁当を食べていた。

すると教室がざわつく。

「白雪さんだ」

「また可愛いな……」

「天使かよ」

視線の先。

白雪美琴が立ち上がっていた。

そして。

真っ直ぐこちらへ歩いてくる。

嫌な予感しかしない。

「藤崎くん」

「なに?」

「昨日はありがとうございました」

ぺこり。

教室中が静まり返った。

俺も固まった。

周囲も固まった。

数秒後。

ざわぁっ!!

教室が爆発した。

「えっ!?」

「藤崎と白雪さん!?」

「昨日何があった!?」

やめろ。

誤解を招く言い方をするな。

俺が必死に弁解しようとした瞬間。

白雪さんは続けた。

「とても美味しかったです」

「待て」

「また食べたいです」

「待て待て待て」

さらに騒ぎが大きくなる。

陽菜なんて椅子から立ち上がっている。

「悠真?」

笑顔なのに怖い。

すごく怖い。

白雪さんは首を傾げた。

「何か問題が?」

問題しかない。

◇◇◇

放課後。

俺は急いで帰宅した。

今日は絶対に寄り道しない。

まっすぐ帰る。

そして平穏な日常を取り戻す。

そのはずだった。

「おかえりなさい」

家の前に白雪さんがいた。

「なんでいるの!?」

「来ますと言いました」

「本当に来るやつがあるか!」

彼女はきょとんとしている。

悪気が一切見えない。

「それに」

「それに?」

「今日は朝ご飯しか食べてません」

「昼は!?」

「忘れました」

「忘れるな!」

俺は頭を抱えた。

すると。

ぐぅぅぅぅぅ。

また鳴った。

盛大に。

彼女のお腹が。

白雪さんは顔を真っ赤にする。

「……聞きました?」

「近所中に聞こえたと思う」

「死にたいです」

「その程度じゃ死なないから安心しろ」

◇◇◇

結局。

俺はまた夕飯を作ることになった。

今日はハンバーグ。

白雪さんは目を輝かせている。

「ご馳走です……!」

「普通の家庭料理だ」

「私にとってはご馳走です」

なんだろう。

少しだけ罪悪感が湧いてくる。

この人、本当にちゃんと生活しているんだろうか。

そんなことを考えていると。

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

「ん?」

玄関へ向かう。

ドアを開ける。

そこにいたのは――

「悠真!」

幼馴染の朝比奈陽菜だった。

そして。

陽菜はリビングにいる白雪美琴を見た。

白雪さんも陽菜を見た。

沈黙。

数秒。

そして。

「……なんで白雪さんが悠真の家にいるの?」

陽菜が笑顔で言った。

だが目が笑っていない。

俺の本能が告げていた。

これはまずい。

かなりまずい。

こうして。

俺の平穏な日常は、さらに騒がしくなっていくのだった。

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