クラスメイト
夜。
寮の部屋。
アークは横になっていた。
リデアは机に向かい、一枚の紙を見つめる。
手紙なんて、初めてだった。
ゆっくりとペンを走らせる。
院長へ
俺は無事に学院へ着きました
寮は広いし、飯もちゃんと出ます
まだ慣れないけど、なんとかやってます
そこで手が止まる。
今日見た、生徒たちの共鳴。
才能。
自分との差。
胸が少しだけ重くなる。
正直、少し怖いです
でも、ここで強くなります
もう、何も失わないために
ふと、母の顔が浮かぶ。
リデアは小さく息を吐いた。
その時。
「へぇ、手紙か」
後ろからアークの声。
リデアは慌てて紙を隠す。
「……うるさい」
アークは笑った。
「いいじゃん。待ってる奴がいるってことだろ」
その言葉に。
リデアは少しだけ黙る。
そして最後に、一文だけ書き足した。
また帰る
朝。
窓から光が差し込む。
リデアは目を開ける。
知らない天井。
昨日と同じ景色。
だが。
今日は違う。
授業が始まる。
---
アークが布団の中から。
「やべぇ……寝過ごした、、」
「早くしろ、ホームルーム始まるぞ」
アークは急いで準備する
教室へ向かう
廊下。
他クラスの生徒。
クラスごとの雰囲気。
扉。
ざわざわ。
教室の空気。
視線。
リデアが入る瞬間
全員が見る。
リデアが席につく。
先生は片手に書類を抱えたまま、だるそうに教壇へ向かった。
伸びをするように肩を回し、眠そうな目で教室を見渡す。
「は〜い席ついて〜。朝から元気なのは結構だけど、机壊すなよ〜」
笑いが起きる。
昨日まで緊張していた空気とは少し違う。
もうこの教室には、これから始まる生活の匂いがあった。
リデアは静かに周囲を見る。
窓際で外を眺める者。
机に突っ伏して寝ている者。
小声で話す者。
ここには、本当に色んな人間がいる。
孤児院とは違う。
世界が違う。
---
先生は黒板に名前を書く。
「担当教師 ホロウ」
「えー、お前らの担任になったフルボディ=9=ホロウだ。よろしく〜」
「お、ノイズの嬢ちゃんいるじゃねーか」
バウメアは照れくさそうにした
やる気があるのかないのか分からないホロウ先生
だが、不思議と教室は静かになる。
「このクラスは特別編成クラスだ」
空気が少し変わる。
「普通の生徒もいれば、問題児もいる。将来有望な奴もいれば、危険視されてる奴もいる」
先生は教室をゆっくり見回した。
「つまり――めんどくさい奴らの集まりだ」
笑い声。
何人かが肩をすくめる。
「まずは簡単に自己紹介でもするか」
ざわつく教室。
まず場所を変えるぞー
第十三訓練室
国家共鳴師を目指す者たちの自己紹介
「じゃあ前から順番」
みんなの声
「出づら!!!」
出づらいか、前からでもいいからやれ。
あ、上か下の名前だけでも良いぞー
静かに空気が張る。
誰もが少しだけ背筋を伸ばした。
「はいはーい! まずは私からいくね!」
勢いよく手を上げ、ぴょこんと立ち上がった少女。
肩まで伸びた髪が揺れる。
緊張感など存在しないと言わんばかりの笑顔。
教室の空気が、一瞬だけ軽くなった。
「私はミレア!!ポポって呼んでもいいよ! 共鳴は『生成系』!」
彼女は胸を張る。
「私が国家共鳴師になりたい理由はね――」
ほんの少しだけ、笑顔が柔らかくなった。
「お母さんを楽させてあげたいから」
その言葉に嘘はなかった。
明るい。
けれど、その明るさは“何も知らない明るさ”じゃない。
苦労を知った人間だけが持てる、前向きさだった。
「……チッ、うるせェな」
空気を裂くような舌打ち。
椅子が軋む。
立ち上がったのは、異様に身体の大きな男だった。
肩幅が広い。
腕も太い。
座っているだけで威圧感がある。
彼が立った瞬間、数人が無意識に身を引いた。
「俺はフィン下の名をモライス」
低い声。
「共鳴は『加護系』。
拳を握る。
骨が軋む音が聞こえた気がした。
「俺が国家共鳴師になりたい理由は簡単だ」
凶悪な笑み。
「暴れたいからだ」
誰も笑わない。
冗談に聞こえなかった。
その目は、本気だった。
だが――。
後ろから、小さく笑う声。
「もー、フィンは素直じゃないなぁ」
穏やかな声。
フィンの隣から、ひょこっと顔を出した腹に大きな口のあるアビスの少年。
柔らかな目元。
どこか安心感のある笑顔。
「雨の日に捨て犬を助けてたの、僕知ってるよ?」
「うるせぇ!」
フィンが怒鳴る。
教室に小さな笑いが生まれた。
少年は気にした様子もなく、前へ出る。
「エンパイヤー=8=パルス」
軽く頭を下げた。
「共鳴は変体系。モンスター、大好き」
彼は自然に笑った。
フィンとは仲が良さそうだった
僕が国家共鳴師をめざすのは
凶暴なモンスターを駆除して平和なモンスターの世界を作ること!
よろしくね!
ゆらり。
空気が揺れた気がした。
いつ立ち上がったのか。
気づけば、一人の少女が前に立っていた。
長い髪。
伏せた視線。
存在感が薄い。
「……ノア=5=セレナ」
小さな声。
「変換系」
短く言う。
沈黙。
彼女は遠くを見つめたまま、ぽつりと呟く。
「透明なものが……好き」
それだけだった。
理由も。
夢も。
何も語らない。
「おいおいおい! 暗すぎるだろこの空気!」
勢いよく椅子を蹴る音。
空気を吹き飛ばすように飛び出した男。
妙にテンションが高い。
無駄に堂々としている。
「ハイドロ=5=クロム!」
胸を叩く。
「共鳴は創造系!」
「俺が愛してるのは2000年代の兵器だ!」
教室が静まる。
本人だけが熱い。
「戦車! 銃! 火薬! ロマン!」
止まらない。
「俺は国家共鳴師になって、物理武器を創りまくる!」
拳を握る。
「そして試す!」
誰かが呟く。
「……危ない奴だ」
その言葉に、数人が頷いた。
---
先生は思う。
「……やっぱ普通の奴、ひとりもいねぇ」
リデアの番が来た
リデアの自己紹介
「……次」
教師の声が響く。
視線が動く。
一斉に、ひとつの席へ集まった。
リデアは少しだけ肩を揺らした。
心臓がうるさい。
立つ。
椅子が小さく音を立てた。
あの黒い実を食べて変体系になったことは言えない
目立つ気もないのに。
なぜか、空気が少しだけ静まった。
彼は前へ出る。
数秒。
言葉が出ない。
何を言えばいいのか分からなかった。
名前。理由。
それだけでいい。
そう分かっていても、口が重い。
「……リデア」
静かな声。
決して大きくない。
けれど、不思議と耳に残る声だった。
「共鳴は……まだ、分からない」
教室がざわつく。
数人が顔を見合わせた。
「分からない?」
「ミュートだろ?」
小さな声。
視線。
好奇心。
疑問。
リデアは気にしない。
いや。
気にしないようにした。
拳を握る。
少しだけ、爪が掌に刺さる。
「国家共鳴師になりたい理由は――」
そこで止まる。
頭の中に浮かぶ。
燃える家。
壊れた日常。
泣いていた母。
血。
炎。
あの日の夜。
喉が詰まる。
少しだけ目を伏せた。
そして。
ゆっくり顔を上げる。
「……二度と、失いたくないから」
静かな言葉。
大声じゃない。
叫びでもない。
なのに。
なぜか、その場にいた何人かの胸に残った。
ミレアが瞬きを止める。
パルスが静かに目を閉じている
ノアだけが、じっとリデアを見ていた。
フィンは鼻を鳴らす。
誰かが笑う。
けれど。
リデアは笑わなかった。
彼には、笑える理由がなかった。
教卓から離れる。
席へ戻る。
その背中を。
数人が、無意識に目で追っていた。
静まる訓練室
先生が口をひらく。
「リデアくんはミュートだという診断をされたが途中から共鳴に目覚めるかもしれないからね〜」
「誤作動の可能性もあるし」
そう言うと
「……次」
教師の声が響く。
後ろの席から、小さく椅子を引く音。
ゆっくりと、一人の少女が立ち上がった。
長い髪。
控えめな雰囲気。
その姿を見て、リデアは小さく目を見開く。
(……あれ)
(ペンダント、してない)
あのモンスターのペンダント。
今日は胸元にない。
少しだけ、違和感を覚えた。
「……バウメア=9=レインです」
小さな声。
だが、教室にはしっかり届いた。
「系統は……ノイズ系です」
空気がわずかに揺れる。
珍しい系統。
視線が集まる。
バウメアは少し俯いた。
だが、少し間を置いて。
ゆっくり顔を上げる。
「人を助けられる共鳴師になりたいです」
その言葉だけは、真っ直ぐだった。
「……よろしくお願いします」
小さく頭を下げる。
静かな自己紹介。
けれど、教室の誰もが彼女から目を離せなかった。
バウメアが席へ戻ろうとした、その時。
ガタン。
大きな音が教室に響く。
勢いよく椅子を引き、一人の男子が立ち上がった。
「この前はごめん!!」
突然の大声。
バウメアが驚いて振り返る。
教室がざわつく。
空気が妙に気まずくなる。
「許してくれとは言わない。でも……仲良くしてくれ」
矛盾した言葉。
真っ直ぐすぎる謝罪だった。
リデアは思わず口を開く。
「……悪い奴じゃなさそうだし、許してやれよ」
バウメアは戸惑いながら、小さく頷く。
「……う、うん」
その瞬間。
男はぱっと表情を変えた。
「よし!」
仕切り直すように胸を張る。
さっきまでの空気を吹き飛ばすように。
「俺はラステル=2=アーク!」
迷いのない声。
教室に響く。
「系統は生成系!」
自信。
勢い。
存在感。
バウメアとは正反対だった。
「目標は、一流の共鳴師になること!」
迷いなく言い切る。
「よろしくな!」
軽く手を上げる。
そのまま席へ座る。
教室の空気が、少し変わった。
その後も自己紹介は行われていった
計20人。 特別編成クラス、通称「C組」の自己紹介が終わった。
第十三訓練室の広い空間には、まだそれぞれの生徒が放った言葉の余韻が漂っていた。
窓から差し込む朝の光が、埃を乱反射させながら冷たい床を照らしている。
「よし。顔と名前は覚えたな」
前に立つ担当教師
ホロウは、片手に持っていた名簿の束を気怠そうに教卓へ放り投げた。
バサッという乾いた音が、張り詰めていた空気をわずかに緩める。
彼は大きく伸びをして、首の骨をゴキリと鳴らした。
眠そうな目が、ゆっくりと20人の生徒たちを舐め回すように見渡す。
「じゃあ次。共鳴とは何か――これから共鳴の授業を始める」
ホロウの口調は相変わらず間延びしていて、緊張感の欠片もない。
だが、その言葉が落ちた瞬間、訓練室の空気がピタリと止まった。
先生は笑う。
「今日から、お前らは自分を掘る」
「逃げ場はないぞ〜」
訓練室の窓から、風が吹いた。
リデアは静かに拳を握る。
自分の共鳴。
自分が何者なのか。
まだ、分からない。
だが――。
何かが始まる気がした。




