第14話
「ハハハ。そうだね、うん。確かにそうだ」
「そうでしょう? それなのに好き勝手言って盛り上がって。そっちで勝手に言う分にはどうでもいいけどその勝手な妄想を本人にまで押し付けないで欲しいわ」
港がそう言うと、小野寺は「フッ」と笑った。
「……なに」
「いや、変わらないなって」
「何それ、今もガキだって言いたいの?」
「いやいや、そうじゃなくて言いたい事は言う。でもそれは相手に言われた時とかそうした態度を示された時だけ。自分からは何もしない。周りが好き勝手に言うのならそれはそれで好きにやっていてくれ。これって意外と出来ないものだなって」
「それはあんたが単に気にしいなだけでしょ」
「みんな気にしているんだよ。どこかしら周りの評価ってさ」
「それはまぁ……否定しないわ。それにみんな怯えているし」
「その点港はあまり気にしていなさそうだけど」
小野寺はそう言いながら「フフフ」と控えめに笑う。
「何を勝手に……私だって――」
そう言いながら港はふと海城と待ち合わせで言った喫茶店を思い出した。
確かに以前は全く気にしていなかった……かも知れない。しかし、学生生活を終えて社会に出て仕事をする様になってから「自分が周りからどう見られているのか」という事を気にし始めた様に感じる。
本来であればもっと早くに意識すべきことなのかも知れない。
しかしそれに気づく事が「社会人になった。大人になった」という証明みたいなものかと言うと……それも違う様に思わなくはないが、そうなのかも知れない。
あの時、港は「自分には入りづらい」とあの時感じたのは……これに似た様な「喫茶店にいる客。それはすなわち周りから見た自分が喫茶店の雰囲気に合っていない」と勝手に思った。いや、判断していた。
「港?」
「ああごめん」
軽く謝りながら港はその時ふと思い出した。
「そういえば、あんた自分で言っていたじゃない『好きな人がいる』って」
「あれ『好きな人がいた』じゃなかったかな」
「……そうだっけ」
「そうだよ」
たった一文字。この一文字の違いだけでその文章の持つ意味は大きく変わってしまう。それでもその時はその間違いに気づかない程気にしていなかったのだ。
「うん。そう『いた』んだよ。好きな人」
「……」
小野寺の言葉はあくまで「好きな人がいた」だけで決して「付き合った」とか「恋人」といった言葉は出てきていない。
それは「告白するタイミングがなかったのか勇気が出なかったのか」どちらにしてもきっと「告白」もしていない。いや、これは「出来なかった」の方が近そうだ。
「なんか……ごめん」
「ううん、いい気にしないで。いや、むしろ聞いて欲しい……かな」
そう言いながらさっきまで笑っていた小野寺の顔が曇り、下に向いてしまう。でもこれがきっと「港を呼び出した本当の理由」なのだと港は悟った。




