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第13話


「はぁ」


 海城は事務所の給湯室で小さくため息をついた。


 小野寺の申し出から港ととの面会のお膳立てをした結果。


 無事に二人は面会する事が出来それ以降、小野寺は今までとは打って変わってこちらの質問に答えてくれる様になった。


 それは今までの反応とは雲泥の差と言っても過言ではない程の変わりようで、海城は申し出に答えてくれて良かったと今までにない感覚に若干の戸惑いすら感じた。


 そしてそれは警察に対しても同じで、彼らも若干の戸惑いを感じたらしく、思わず「あの面会でどういったやり取りがあったのか」と面会記録を思わず確認したほどだったらしい。


 しかし、二人の間で交わされた会話自体は何も問題はない。変わったのは小野寺自身の心情だろう。


「俺の中で色々と整理がついただけですよ」


 そんな周囲の反応を小野寺はニッコリとどこか余裕な表情で答えた。


 海城を含めた周囲の人たちからすれば「突然変わった」と感じるかも知れないが、当の小野寺本人がそう言っているのであればそうなのだろう。


 そして、そこから分かったのはやはり「小野寺は今回の一件に巻き込まれただけの人間だ」ということだった。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 そもそも発端は小野寺が今回の鍵を握る彼女と再会した事にある。


 実は小野寺がアルバイトをしていたアパレルショップに彼女が訪れたのだ。


 偶然……と言ってしまえば出来過ぎなのかも知れない。しかし、二人は再会した。


「でも、最初はお互い気づかなかったんです」

「それはなぜ?」


「あまりにも変わり果てていたから」

「……」


 それは決して「化粧で……」という比喩的な意味ではないだろう。


 当時の彼女は自身の彼からかなりの搾取をされていたと聞く。それでいて日常的に暴力も受けていた。


 彼の言葉はいわばその結果なのだろう。


 確かに学生時代の彼女の写真と今の写真は随分と印象が違うものになっていたのは海城も知っていた。


「でも、彼女の名字も結構珍しくて……それでちょっと声をかけてみたんです『あの、ひょっとして……』って」

「で、その彼女だった……と」


 こうして二人は無事に再会を果たした。


 しかし、彼女はアパレルショップを訪れはするものの買いはしなかったと言う。


 お金の管理は彼にされていて毎日ギリギリな生活を強いられ、暴力にも耐えて精神的にも参ってしまい、気晴らしに見ていただけだったのだそうだ。


「とても……痛々しくて見ていられなかった。本人は隠しきれていると思っていたかも知れませんが、完全に隠しきれない傷がたまに見えるんです」

「……」


 普通に接客しているだけでもなかなか精神的に来るものがあるとは思う。しかし、それ以上に痛々しい彼女の姿は彼にきただろう。


 なぜなら――。


「正直、彼女の姿にはかなりくるものがありました。だって初恋の人がそんな姿。そんな事になっているなんて思いもしなかったので」


 そう、この時に再会した彼女こそが小野寺の初恋の人だったのだ。


 しかし、彼女の行動はGPSによって彼に監視されていたにも関わらずどうしてアパレルショップに出入りできたのかと言うと。


「彼氏、かなり大きな企業に勤めていたらしくてですね」


 その時そこの社長が主催のパーティーが開かれる事になり「彼女さんも一緒に連れてくると良いと」と言ってきたのだそうだ。


 しかし、それならば適当な言い訳を使って誤魔化しそうなものだが……。


「付き合い始めた時は参加していたみたいらしいですし、彼も優しかった……と」

「なるほど」


 つまり、彼は最初こそその本性を見せてはいなかったのだろう。


 しかし途中からはDVが激しくなり欠席する事も増えたらしいのだが……。


「ある時お偉いさんに彼女さんは元気にしているかい? と聞かれて今度また連れてくると良いとお誘いを受けたらしく、彼女が俺の働いていた店に来たのもその時に使える服を買いに来たそうです」

「……」


 社長は多分、軽く探りを入れたのだろう。ひょっとしたら既に社長の耳には彼の彼女に対するDV癖なども含めて色々と届いていた可能性は高い。


 ただ、彼の「仕事」に関しての評価は高かった。それだけに気になった……というところだろうか。


「彼女はどんなものでも良い。とにかく全身が隠れる物が欲しい……と」


 それはきっと体に残るDVの傷を隠すためだろう。


「俺、そんな彼女を見ていてもたってもいられなくて……」


 そして、会計をする時に自分から声をかけたのだと言う。


「彼女はとても驚いていました。でも、それと同時に会えて嬉しいとも」


 会ったのもその時だけ。それでも嬉しさは確かにあった。


「彼女が彼氏に関する事で悩んでいる事は会話の中で察しました。でも、俺に出来る事なんてない。太刀打ち出来るだけの気概もない。どうする事も……出来ない。だからきっともう会う事もない。そう思っていたのですが……」


 ある時、彼女が着の身着のまま閉店ギリギリに現れたのだという。


「最初はどうして彼女がこんな時間に出歩いているのか……と不思議に思いました。彼女から聞いていた彼の話ではとてもあんな時間に出歩く事自体許すとは思えなかったので」

「それで何かあった……と?」


「はい。そもそも彼女の様子が再会した時とは様子が全く違っていたので」

「……」


 小野寺曰く「彼女は俯きがちで目はうつろ。服装も部屋着のままで足元はつっかけ」だったそうで「本当に着の身着のまま」だったのだと海城は想像した。


「それで……お店を閉めた後。彼女から詳しい話を聞いたんです。何があったのか……と」


 それが……あの事件が起きた後の事だった。

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