EP94 新たな異世界来訪者
「貴様ぁ!」
______私が第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケンに向かって爆弾発言をし、その怒りをかっていた頃だ。
私達のレティキュラム号を追って、火星に向かう途中だったハメリア合衆国とルルシア帝国は、同じように超小型のブラックホールに成す術もなく吸い込まれた。
偶然? にもまた異世界惑星に突然吐き出されたのは、一基の地球製ロケットであり、そのロケットの乗員八人は、正に混乱の極致にあった。
ビィー
ビィー
警告!!(jǐnggào)
警告!!(jǐnggào)
気が付けば亜細亜周国のロケットが、異世界惑星の引力に捕らわれて、次第に地表に向かって降下し始めていたのだ。
「アイヤー陳隊長、目の前に地球が!」
「地球だと? 金、馬鹿な事を言うな! だがこのままでは大気の摩擦で燃え尽きる!」
金は冷静な副隊長であるが、流石にこの事態に気が動転していた。
「直ちにブースター逆噴射で減速、場所はどこでもいい、ロケットを着陸させよ!」
「無線士 華 直ちに本国に緊急無線連絡、救助要請!」
是!
彼等にとって、こんな事態は全くの想定外だった。突然の緊急着陸シーケンスは、大混乱の中で行われようとしていた。
「陳隊長、着陸に必要な計算が出来ない! 軟着陸は不可能!」
「クッ、ならば本体からシャトルを分離するんだ」
明、明白!
五、四、三、二、一
「シャトル分離シーケンス起動!」
ズドォォォ
ウォン ウォン
オォォン ォォォォ
亜細亜周国 国家宇宙情報局神龍の本体ロケットから切り離されたシャトルの船体は、大気を利用してなんとか滑空を試みた。
「いけるか?」
「シャトルは火星着陸用の設計です。それは無理です!」
「メインエンジン点火! いずれにしても平地がない。シャトルは着陸に耐えられんぞ!」
「このままでは大破炎上確実だ」
しかし目指した着陸先は、奇しくもエスタリカ王国の森だった。
<ふっ、ルルシアに亜細亜周国が加われば、異世界は更に混沌と化すだろう。面白いではないか。しかし我が手を貸さなければシャトルが爆発する。それでは意味がない。手荒だが生き残れよ>
ビー
ビー
「テレイン警報! 激突回避不可能!
「お釈迦様ぁ!」
「全員、何かにつかまれ!」
あと数秒で森林に激突して大破する。八人の兵士は誰もが死を覚悟した。するしかなかった。
フォン
ズサササ
ぐはぁ
「ど どうなっている?」
シャトルの先端が浮き、まるでスノーボードのように森の木々の上を減速しながら滑っているのだ。
「激突は?」
不?
ギャゥゥゥ
ガクガク
おわぁ~
きゃぁぁ
速度が落ちると、シャトルは頭を地上に向けて停止。緊急不時着になんとか成功したのだった。
ぐふぅ
「エ、エンジン停止!」
座席に座る余裕もなかった八人は誰もが船内を転がり、頭部や体を激しく打ち付けていた。
「ぐあぁ 全員 無事か?」
ごふぅ
「「「なんとか......生きている」」」
それでも八人の隊員のダメージは大きく、誰もが治療を必要としていた。八人の中には衛生兵もいるが、その隊員も大怪我をしているのだ。
シャトルにCTはない。エマージェンシーパックの医薬品など僅かである。
「......どうする。内蔵を損傷していたら、その隊員は死ぬ。隊長の私ですらこのダメージだ」
______隊長は損傷を確認する為に痛む体に鞭打って船外に出ると、ふと空を見上げた。
「青い。やはり地球に戻ったのか? それは有り得んだろう。ブラックホールもだが、これはどう解釈したらいいんだ」
とその時。
クエェ~
ギャ ギャ
「隊長、あれは何です? 大型の鳥かこうもり?」
「金、違うな。あれは太古の翼竜プテラノドンに似ている。しかも人間が乗っていた」
「不可能的!そんな馬鹿な」
上空を数回旋回した何かは、やがてどこかに飛び去った。
「行ったのか......襲われなくて良かった」
だからと言って亜細亜周国の八人は、全員が満身創痍でどうする事も出来ないのだ。
「今は応急処置をして、体力の回復をはからねばならん。各自安静にしていろ」
「水と食料は14日分、これで何とか......」
是
是
『しかし、アレは我々を見ていた筈だ。今襲われたら殺されるしか道はなかっただろう。やはりここは地球では無かった』
八人は陳隊長の言う通り、横になって痛みに耐えていた。
やがて二時間が経とうとする頃。
ザ
ザ
ザ
「何かが来る。全員その場を動くな」
隊長が危惧した通り、やがて重装備の騎馬兵と兵士50人程に取り囲まれた。
「xl/*+-sn#$」
司令官? が何か言っているようだが言葉は解らない。
「全員そのまま、抵抗するな」
威圧する言葉から無抵抗を示して、全員が痛々しく両手を上げた。
火星着陸任務の為、酸素を必要とする通常の銃器などは持ってはいない。今あるのはサバイバルナイフだけだ。
連行されそうになったが、八人は満足に動ける体ではない。
「我是的中国人」
??
言葉は通じない。しかし陳には、部隊長に情けがあるように見えた。
「どうやら、手荒なまねはなさそうだ」
我々はその場で応急手当を受け、監禁される事になった。
兵士達は、我々のシャトルを見て驚いていたが、その様子から見ても文明レベルは地球人程ではないと分かる。
問題は言語だ。意思疎通が出来なければ、助かる命も危うくなるだろう。
部隊長もそれは分かっているようで、伝令を走らせたように見えた。
「ここにも人道主義があるのか? そうだとい良いが」
ピク
ピク
ピョコ
______耳のいいバニラ・アイスは、エスタリカ王国の森で、異常な衝撃音を感じていた。
「父ちゃん、森で大きな衝撃音があったよ」
「糞ウサギ、お前のウサ耳はこのアデリアよりも優秀と見えるな。本当にお前は......人間の貴族なのか?」
ギク
「待て。それは緊急事態か?」
その言葉で、第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケンの怒りの矛先が静まった。
王国の出来事となれば敏感になり、すぐに対処しなければならない。それがロイヤル王国四騎士団なのだ。
「ちょっといいか? 王国の森なら、毎日我がワイバーン部隊が偵察している筈だ。何かあれば私に連絡が来る。私はこのまま暫く待たせてもらおう」
偵察任務は、第四軍団将軍バーモン・カットラーのワイバーン部隊の役割である。
それに私が今話したばかりの、エスタリカ王国の乗っ取りに関係した事件かもしれない。
「ひょっとして、これがお前が言った乗っ取りの前触れか?」
第一軍団将軍メビウス・フォン・ブラッケンも、何かが起きるのではないかと、考えを改め始めるのだった。
「用心にこした事はないわね」
第三軍団将軍レイラン・ウィドゥも、これに同意するのだった。
「俺も同意だ。このまま連絡を待つとしよう」
第二軍団将軍グリーガーとレイランは、前向きに事態を捉えている。
______冒険者組合で待つ事一時間。
バサバサ
第四軍団将軍バーモン・カットラーの部隊から、フクロウ便が届いた。
「来たぞ」
「早く読め」
あぁ
第三軍団将軍レイランに催促され、バーモン・カットラーが手紙を読み上げる。
「森に見た事もない飛行体が墜落。我々はそれに乗っていた八人の人間を捕らえた。全員大怪我をしていて応急処置はした。言葉は通じないが<チャエナ>とか<中国人(ちゅん ぐぉ れん)>と言っている。至急指示を乞う」
私もジョーも<チャエナ>の言葉に驚愕した。
「おいレイジーもかぶらも、何を驚いているんだ? まさか、そ奴等に心当たりがあるとでも?」
.......。
「あ、兄貴ぃ......」
「恐らく、我々を追って来た亜細亜周国だろう」
「はぁ、やっぱり。ルルシアといい、なんてしつこいのよさ!」
「御屋形様、チャエナとは中国語ではないのか? ならばこの身が役に立つと思う」
桔梗は普段、チャイナドレスを着こんでいるし、中国語を一番得意としている。もちろんAi-myuシリーズを搭載している娘達も同様なのだが、ここは桔梗に譲ったのだ。
=桔梗の出番、あんまりなかったしね=
=流石は保毛坂48の長姉Reno=
「ここは桔梗に任せよう」
御意!
「四将軍の皆さん、我々は直ちにエスタリカ王国の森に向かう。言葉はこの桔梗が通訳出来るので連れて行きます。よろしいか?」
なんと!
「通訳が出来るのなら異論はない。俺も行くぜ」
「ちょっと待てレイジー。貴様、やっぱり何か知っているんだな!」
「アディ。ついて来れば分かるよ。私達は新婚だろ?」
そ、そうだぞ。
ポッ
アディを丸め込むのはチョロイが、その他の目が怖かった。
ズゴゴゴゴ
『なにが新婚よ!!』
アエリア、ジョー、そしてアンドロイドの娘達の瞳は、ドス黒く燃えていた。
「あらら?」
女性である第三軍団将軍レイラン・ウィドゥは、ただ一人、娘達から妙な殺意を感じていた。これも女の勘である。
『でもレイジーさんて......素敵』
ポッ
ドキ ドキ
『あらら? 突然動悸がしてきた』
その胸の高鳴りが、レイランの初恋だとは思いもしなかった。




