EP9 2054年1月15日 動き出したチェイサー達 そして私も動くのだ ☆
______レイジー博士のガーディアン=新参者の桔梗が、<亀頭流48手抜刀術>の使い手で、エージェント・ジョーの徒手空拳<南友千葉拳>も、相当な破壊力を秘めている事が判明した。
たぶん
尤も、桔梗が繰り出した抜刀術とは相打ちだったので、正確な威力は何とも言えないところだ。
「ほほぅ、刀身に超高速振動を付与した<妖刀ムラムラ>とは、父の武士道精神が本物だったと言う事なんだ。その裏では母が頬を紅く染めながら、コスプレ衣装をせっせと作ってた。私に隠れてどういうプレイをしてたんだか......」
そう思うレイジー博士自身、両親のDNAを色濃く受け継いでいるのに、まるで他人事のようだ。
『今回の収穫は何と言っても、意外なジョーの最終奥義??(顔面120度大股ダイレクトアタック)は......痛いと言うより実に眼福だった。それにあの南友千葉拳秘奥義<イクイク振動空波>は、ゴブリン程度なら真っ二つにする威力があると思う。まぁ、その検証は次回のお楽しみと言う事にしてと』
私の崇高な心の本音(ジョーの最終奥義)はさて置き、私達がこの異世界で生きていく為には、この異世界の文化社会に合わせる必要があると思うのだ。
「しかしラノベのような冒険者が存在していたとは、異世界とは実に興味深い......ひょっとしたら、これには何かの法則が存在するのかも? そこに帰還のヒントが? いやいやラノベは創作だからね、それは有り得ないだろう」
それでもレイジー博士は、その可能性を全否定はしていなかった。
______私達は、地球に帰還出来るかどうかは不明だから、異世界で生き抜く......その大命題の為に、私はバニラ・アイスやジョー、桔梗の戦闘力を知る必要があったのだ。
「この異世界で、私達が冒険者としてひっそり暮らせば正体はバレないし、冒険者稼業はいい隠れ蓑になるだろう......万が一にも、ルルシア帝国だの亜細亜宗国が、異世界にまで追って来る事は不可能な事だし」
<冒険者稼業はいい隠れ蓑になる>。レイジー博士がそう断言する理由は、森の中の大きなレティキュラム号が光学迷彩で見えなくても、見えない巨大な存在はいずれ大騒ぎになるだろうし、今後騒ぎを起こさない為にも、離れていても海か湖の中に隠すのが得策だからだ。
「私達は、不信者として指名手配されたら弁解が出来ない......バニラのバニーガールとか、チャイナドレスの桔梗のコスプレは、異世界では怪し過ぎる。冒険者同志のつまらない戦闘が始まれば、白衣で隠し切れるものではないし......ってあいつ等、私が言っても絶対に脱がないだろう。言わば標準装備だから」
それともう一つ。
『地表観測をした時、この森の北側にちょっとした湖があった。あそこなら魚も捕れるだろうし、貴重な水の確保にも役に立つ』
フフ
「ライバル国の襲撃は100%無いし、自給自足で生活する異世界って本当に最高だ!」
そこで私は動くのだ。
天才だけど戦闘力=0のレイジー博士は、少年のような気持ちで頬に手を当てて、冒険者チームの編成を考えてみた。
______『そうだな、桔梗とジョーは前衛に最適だろうけど、バニラ・アイスの金ダライ戦法は、相手のレベルが高かったら役には立たないだろう。ラノベの知識によると、今日はたまたま相手が最弱部類のゴブリンだからよかっただけだ......さて、バニラ・アイスの配置はどうしたものかな......やはり遊撃が最適だろうか? あいつ兎だし』
私達は異世界に来てまだ間もないが、私は精神安定効果のあると言うレアコーヒー、<ドウシタモンジャロ>を飲む機会が明らかに増えていた。
『うっ在庫が少ない......ドウシタモンジャロ。異世界にもコーヒーがあれば嬉しいが』
そうこうしている内に、バニラ・アイスと桔梗が戻って来た。見れば二体の手には葉っぱで包んだ何かを持っている。
それを持って帰ろうと桔梗に言ったのは、きっと冒険者の稼ぎ方をラノベで知っていたバニラ・アイスだ。
ザッ=桔梗だ
只今ぁ~=バニラ・アイス
ふむ、ご苦労だったな。
『二体には明らかに個性が存在している。それが次世代AI-myuシリーズの差とも思えないし、例のブラック・チップなのか? あれは私にも謎のままだから』
「主様のお休み中、邪魔にならないよう露払いをしておきました」
ボクも博士と居たしぃ!
「黙れ!かぶら 貴様などに用はない!」
桔梗が片足をついて、私に忠義の態度を示しながらジョーを睨みつけた。
「ねぇねぇ、いい音してたの訊いてくれましたぁ? でもご主人様、バニラちゃんはもっと固い金ダライが欲しいのれす......※アルマイトより、やっぱりアダマンタイト製がいいかも。あっ、これお土産れす。どんぞ」
※アルミ二ウムに酸化防止コーティングした金属
ポス
それを見て、桔梗も慌ててそれを差し出す。
どうぞお納めを
「おッ、ゴブリンの耳だね! それはお金になるんだよ。 それにしても二人共、見事な戦いだったよ。私は大いに満足しているんだ。なぁジョー?」
と横を見ると、ジョーの機嫌は激オコだった。
『レイジー博士、ボクには誉め言葉の一つもないの? ボクの奥義だよ、見たでしょボクの秘奥義! それもタダで』
ジョーの無料技は確かに眼福だったが、今は初陣から帰還した目の前の二人を褒めるのが先だ。
ははァ、勿体なきお言葉! 腐ったかぶらは引っ込んでいろ!
あぁんアダマンタイト合金の金ダライ~!
______横で何故かぷんすか怒っているのはジョー。
私から褒められて、やったぞとご満悦な桔梗と、金ダライをねだるバニラ・アイス。
この場を納め、各自の願望を叶えられるのは、まさしく冒険者チームの結成の話題だろう。
私は早速、考えた冒険者構想の話を始めるのだった。
☆☆
<冒険者チーム結成準備会議>
「皆、落ち着いて訊いてくれ。私達が異世界で生きていくには、冒険者になる事がベストだと思う」
冒険者を知らない桔梗とジョーには、良く理解出来ない話ではあったが、モンスターを倒して日銭を稼ぐと訊いて、桔梗とジョーに獰猛な笑みが浮かんだ。
ニマ
『今度こそ、ボクの南友千葉拳の出番! それで夢の結婚式の費用を!』=ジョー
『我が亀頭流48手抜刀術......その神髄を主様にお見せ出来る!主様の護衛と生活の支えはこの桔梗の役目!』
『じゃ私が今までどうり、ご主人様にべったり密着護衛だよね!』=バニラ・アイス
「では発表の時間だ! ドラムロール!」
何故か私の声に、船内AIが反応して効果音を流し始めた。
ダダダラ ダラララ
ジャーン
「前衛は桔梗、中衛にはジョー、遊撃にバニラ・アイスでいく」
「えぇ?ちょっと待ってよ!」
ジョーが不満の声を上げたのだ。
「無力なレイジー博士は後衛で司令塔でも、誰が博士を守るのよさ?」
このクレームには、桔梗もバニラ・アイスも大いに賛成したが、私は決定を変えるつもりはない。
「反対は却下だ!」
「「「えぇぇ~断固反対!!」」」
その時、突然一体のアンドロイドが飛び込んで来て、私の前で傅いた。
「ん?誰だ?......」
「ひぇぇ~お、お戯れを。私をお忘れですか? でもその大役は、あなた様を昔からお慕いして......ゲフン、この身<Sasihara>が最適任かと愚考します」ぽッ
???はぁぁ~???
☆☆
______その頃レイジー博士達が、騒がしく冒険者の役割分担を決めようとしていた時、地球では______
ハメリア合衆国、ルルシア帝国、亜細亜宗国の月面基地では大変な騒ぎになっていた。
中でも、レイジー博士の住む南国ジャーブラ島を襲撃したルルシア帝国と、ジョーの突然の失踪を調査していたハメリア合衆国である。
南国の孤島ジャーブラ島から突然発進した宇宙船は、あっと言う間に地球軌道を離脱して火星に向かったからだ。
ハメリア合衆国とルルシア帝国は、まだロケット推進エンジンの域を脱していなかったが、火星探査用有人宇宙船を着々と建造していた。
ルルシア帝国は、ハメリア合衆国の火星一番乗りを断固阻止しなければならない。さもなければ、国連で決議した火星領有権が、どこかの国の物になってしまうからだ。
両国とも、片道約300日もかかる火星航行を即刻決断、月面基地から有人火星ロケットを発射して、謎の宇宙船の追跡を開始したのだ。
だが追跡は開始したものの、レイジー博士達はもう既に、異世界に飛び込んだ後。手がかりと言えば、エージェント・ジョーが腰のベルトに付けた発信機が一つだけだった。
問題はいくら高性能な発信機でも、異世界からの電波は届かない。
緊急招集されたハメリア合衆国、火星追跡ロケット部隊の隊長兼エージェントのオルガ・スミスは命じた。
「発信電波の途絶えた宙域まで行く。そこで何かが分かるだろう。あの速度、もしかしたら既に火星に到着しているかもしれない」
遅れて、ルルシア帝国もハメリア合衆国の火星ロケット追跡を始めていた。
その部隊長アレクサイ・ケツノアナコフは吼えた。
「いいか、最悪手がかりが無くても、火星一番のりは我がルルシア帝国である。ハメリア合衆国の船など、破壊すれば火星は我ら皇帝陛下の物だ! ふっ、漆黒無限の宇宙空間なら証拠はないしな」
偶然にも両国のロケット乗員は5名、その殆どがエージェントであり、火星に着陸したとしても、帰還するには地球からの帰還用ロケットを待つしかない。
この科学技術力の差は、それほどレイジー博士の両親が超の付く科学者だったのである。
ロケットには乗員5名が、半年暮らせる程の食料が積載されていたが、両国にとって不明な宇宙船の事よりも、上層部にとって火星の領有権奪取がメインの追跡だった。
レイジー博士達がもはや戻れない地球では、相変わらず領有権を争う愚かで醜い戦いが続いていた。
☆Reno☆
______「あぁ思い出した! お前はラボを駆けずり回っていた......Sashihara Reno! レティキュラム号を建造してたリーダーの!」
ほっ、覚えておられて安堵しました。もしお忘れでしたら、ショックで自害するつもりでした。
「「何だよ こいつ!!」」(バニラ ジョー 桔梗)
餅ち着け!
私の目の前に、突然駆け込んで来たのは、見た目16歳位でメイド服を着た美少女アンドロイド<Sashihara Reno>だった。
「お前と話をする事はなかったけど、私はいつもRenoの視線を感じていたのを覚えている......あれは舐めるような熱い視線だったよ」
「「ナヌゥ!!」」
馬鹿! 餅ち着けって言ってるだろうが!
「ところでさ、私は確認したい事があるんだ。それで桔梗とSashihara、後で君たちのAIを私に見せてくれ。バニラのはもう知ってるからいい」
!御、御意 桔梗の裸体を隅々まで存分に我が主に ぽっ
仰せとあらば、このRenoは喜んで丸裸になりましょう ポッポッ
あぁ~ん ご主人様ぁ。私のスッポンポンも見てよぉ~ ぷんすか!
「馬鹿、AIだと言っているだろうが! 混浴露天風呂じゃないんだ」
「「「こ、混浴! 露天風呂! その手があった!」」」
やった!
バニラ・アイスだけは確かな手応えにほくそ笑んだ。
『センサーは、湖付近に高い地熱を観測してた。あそこなら』
『ふん馬鹿者どもが! 混浴だろうと生身120%の美女であるボクに勝てるつもり? お前ら屑鉄アンドロイドだろ。温泉で錆びてしまえば? でもレイジー博士と二人だけで、露天風呂温泉は魅力だわ。ふふ、温泉で博士と既成事実を作ってしまえばいいのよさ!』
突然ではあったけど、私に新たな戦力が加わったのは僥倖であった......と思いたい。