EP10 2054年1月17日 異世界冒険者組合の熱視線と特殊スキル? ☆
______喧々諤々と騒がしかった冒険者のポジション争いが、取り合えず終わった? 深く考えずにそう言う事にしておいて、私にしては珍しくウィスキーのボトルを手に取った。
いつもなら千葉の日本酒<純米 尻の誉>を愛飲してるのだが、ちょっと気分を変えてみたかったからだ。
アンドロイドなのに美小女達? と賞味期限ギリのジョーのくだらない言い争いは、訊けば訊く程に精神にグイグイと侵食して来て、論理思考の私には堪えたのである。
「もう仲がいいと言うレベルではなくなったよ」
亡き両親が息子の為にと、わざわざ外見を美少女に作ってくれたのに、それは贅沢と言うものだろう。
「黙っていれば最高なのに......Ai-myuどうなってるんだ? myuシリーズが揃って全部ってさ?」
これから安定した異世界冒険者生活のスタート!と私は思っていたところ、これが中々どうして前途多難そうなのだ。
今日はこれで終わったのだ。私は今日の全てを振り払うように、珍しくウィスキーをロックで飲んだ。
トクトク コン
カラン
カラン
コクん
フはぁ~
焼けるような熱い刺激が、芳醇なホワイトオークの香りと共に喉を通り抜けていく。取って置きの度数の高い本場ケンタッキー産バーボンが想い出させてくれるのは、楽しかった昔の記憶の断片だ。
「くぅ~旨い!」
これは生身の人間にしか理解出来ない嗜好であって、消化器官のないアンドロイドには到底理解出来ないだろう。それは人間なら必要な睡眠にも言える事だ。
「あいつ等は寝る必要は無いけど、人間は疲れるんだよ......それが生きていると言う証だし、眠る事は人間には至福の時間だと私は思う」
何故なら、どんな嫌な一日だったとしても眠っている時だけは、現実からほんの少しだけ解放される。
そこに適量の旨い酒が加われば、憂鬱な事も「何でこんな事で。馬鹿馬鹿しい」と笑い飛ばせる事もある。
「でもなぁ」
酒が切れるとまた思い出すけど、一時的にリセットしなければ人間はおかしくなってしまう生き物なんだ。
飲まない人には理解出来ないかもしれない。私は古来からある酒は、神様がくれた一つの救いだと思っている。
『サルでも作るサル酒......サルも悩みを持つのかね?』
「現代は辛い事があって当然の社会だ。第二次世界大戦以降、地球人類に平和共存の精神があれば、私達は今頃南国のジャーブラ島で楽しく過ごしていた筈だ。両親も暗殺される事は無かっただろうし、エージェントになっても暇なジョーは、海岸で楽しく溺れていただろう」
「レイジー博士ぇ、見て見てぇ。ボクのナイスバディ。東村山しちゃうでしょ?」
ドッパァ~ン
ゴボ ゴボ
『こんな事を言いそうで。ぷッ、妄想するだけで笑えて来る。ゲゲ? ヨロチクビがもう少しで! 私は何を考えてるんだ? 縁起でもない』
______レティキュラム号には、四畳半ほどの個室が5室ある。尤もスチール製簡易ベッドとテーブルだけなのだが。
人間のジョーは当然としても、アンドロイドのバニラアイス、桔梗、 Renoにも部屋を当てがったのだが、私の警護が必要だと言って三体は部屋を使おうとはしなかった。
Renoは今まで同様引き続いて、レティキュラム号の周囲を警戒する任務を受け持った。
『三体の中で、Renoが一番まともに思えるんだけど? 最新型のバニラが一番面倒くさいってどうなんだろう?』
と考えた途端、呼んでもいない嵐は既にそこに来ていた。
ダッキぃ~
フンスカ
スカ スカ
「ちょっと待て! お前らはそこで何をしている?」
「マ、マーキングと除菌れす」
「バニラ、お前はファブ〇ーズか! 桔梗、お前はなんで足を絡めて来る!」
「っつ、これはき、亀頭流48手護衛術でごぜぇます」
「嘘つけ!」
「あぁ~ん本当だってばぁ」
「むぅ、残念」
気づけば私の体は、バニラと桔梗の腕と足が絡みついていてガッチリホールドされていたのだ。
如何に私の守護者と言えど、人間にはプライバシーと言う一人の時間が必要なのだ。
私は「嫌だぁ、御無体な」と言い張る二体のケツを蹴飛ばし、ドアをロックしてやっと眠りにつけると安堵した。
ドンドン
「あぁ~ん、ご主人様ぁ酷い。お尻が間二つに割れましたぁ」
「最初から割れてるだろうが!」
「これは御屋形様の愛の鞭! 即ちこれはご褒美!」
「いいからさっさと寝ろ」
そう私達は明日、ゴブリンの耳を持ってこの町の冒険者組合の扉を潜るのだ。その為の変装用白衣5着と、カンバッチ型翻訳装置は既に完成している。
「ふッ、初異世界城下。明日が楽しみでわくわくする。冒険者登録も済ませれば、第一段階がクリアと言う事だ」
だがこの時私は、重大な事を見落としていた。
文句を言いながら私の部屋を追い出されたバニラは、例の場所の確認作業に入っていた。
「おい糞ウサギ、貴様は何をしている?」
「へん桔梗なんかに教えなぁ~い」
「ふん、まぁいいだろう」
既に寝付いていたジョーは、涎を垂らしながら
「あふん ボクと既成事実ぅ」
と寝言をほざいているだろう。きっと悍ましい夢を見ているに違いなかった。
想えばなんとも騒がしい一日だったが、それも間もなく昨日の事となって、やがて新しい一日の朝を迎えるのだ。
「明日と言う字は明るい日と書くのね......とはよく言ったものだ」
「何だ?今日の俺は。ホームシックか?」
☆☆
______異世界の朝は日の出と共に始まり、日没に活動を終える。時計は存在しているのだが、上級貴族の屋敷に高価な装飾品として置かれているくらいの贅沢品だった。
宿屋は宿泊客が夕食を済ませるまでで、酒場も日没から3時間程度(午後9時頃)までを目安に営業をしていた。
私達にはその辺の事情は知らないが、午前9時頃なら冒険者組合も開いているだろうと、軽い朝食を済ませてから白衣に身を包み、翻訳カンバッチを装着して準備を整えた。
ちなみに武器は、桔梗の<妖刀ムラムラ>が一番目立っている。
私は取り合えず護身用に、セラミック製振動ナイフを一本腰に下げてはいるけど、それは殆どお飾りなのだ。
「いいかい皆、今日の目的は町の情報と冒険者登録だからね。騒ぎにならないよう十分注意して欲しい」
御意
モチ
分かってるのよさ
賜りました
私とジョー、三体のアンドロイドが白衣を着れば、どこから見ても薬師と思われる事だろう。私達は東方ヤポンから来た薬師と言う設定である。
しかし私以外は美女(ジョー27歳)と美少女(見た目17-18歳)4人を連れて街を歩けば、チョッカイを出される恐れは大いにあるだろう。
『冒険者組合に到着するまでに、問題が起きなければいいのだが......心配しても始まらない。ここは出たとこ勝負だ』
「いいか重ねて言うけど、因縁をつけられても軽くあしらってくれ」
御意御意
モチモチ
分かってる 分かってるってば
重ねて賜りました
『こいつ等返事だけはいいが......とくにバニラが心配だ』
やがて午前9時になった。
我々二人と三体は、光学迷彩で見えないレティキュラム号から一歩踏み出すのだった。
ジョーは相変わらず黄色い建設現場用ヘルメット、バニラアイスだけは麦藁帽子でウサ耳を隠している.....けど靴はハイヒールのままだ。
ジャリ
タッ
ザッ
カッ
ササ
「ご主人様、城下の入口まで3km、冒険者組合までは更に街中を1km歩く事になります」
「私は一向に構わない。異世界をいろいろ見ておくには徒歩がいいんだよ。バニラ、遊撃ポジションのままマッピングを頼むぞ」
「うへ~い」
「では御屋形様、この桔梗が先導を」
「じゃボクは中衛って事で、レイジー博士の一歩前を歩くのよさ。さ、手を繋いで」
「......かぶらは一歩前ですか。ではRenoは、レイジー様の横で腕を組んで護衛を♪」
歩き出すと、昨日のゴブリン達の死体が目についた。
切り口は見事に一閃されたのか両断されているものと、頭に大きなコブを作っているものに二分される。
私は無言で死体の横を通り過ぎた。
脳裏に浮かんだのは、大晦日の晩にバニラと見たあのアーカイブだ。
『人間は人間同志で殺し合う......しかしモンスターは食う為、生存の為に人間を襲うが、仲間同士で殺し合う事はない(ラノベの知識)。だからモンスター討伐はやむを得ない事なのだ』
森を抜け暫し歩き続ける事45分。やがて城下の門が見えて来た。
レンガを積み上げたアーチ状の門には、御多分に漏れず半甲冑姿の門番が二人、槍を立てて警戒をしていた。
「私が話をつけよう」
______「白いお前達止まれ! デブーラ王国城下通行証はあるか?あるならさっさと出すがいい」
槍をクロスさせる門番は、大抵大柄である。
門から見える街並みは、やはり中世ヨーロッパの建物に似ていて、道は石畳みとなっていた。
道の両側には大小の露店が並び、行きかう通行人も大勢歩いていて活気にあふれている。
「これは凄い。中世にタイムスリップしたようで、そして穏やかそうないい街だ」
「おい何をしている。出す物を早く出さんか。それとも別のもんを出してもいいんだぜ。300Gだよ」
カンバッチ型翻訳装置は、うまく機能しているようだ。
『金銭を請求するのか......どこの兵士もやる事は同じか』
「むん」
と声がしたかと思うと、二人の門番は喋らず棒立ちになっていた。
「亀頭流48手抜刀術 峰打ち連山」
「やるじゃん桔梗、実は私も金ダライを用意してたんだぁ」
お前ら......そのなんだ......これは緊急避難って事にしておく。
物言わぬ案山子を相手にしても仕方が無い。私達は黙って門をくぐり抜けたのだ。
「300Gって言ってたな。この王国の通貨だろうが治安は怪しいかもしれない」
ザッ ザッ
カツカツ
テコテコ
無事に?門番をやりすごし、二人と三体が白衣で石畳を歩けば、当然のように住民達の目に留まる事になる。
異世界でも美人、美少女は男共の注目の的であり、あちらこちらから下品な笑いが漏れている。
「上玉が三人と年増が一......少女の方は高く売れそうだ」
当然、アンドロイド達には聞こえているが、あの程度の男達が叶う相手ではない。
「ぷッ 年増だって。それに売り物にならないって」
ニャニィィ ボクはレイジー博士にとっくに売約済みなのよさ!」
「ジョー、クーリングオフって知ってるか?」
いぃ~やぁぁ!!
______道中、好奇な視線を向けられ続けたが、やがて私達は剣と盾の看板が付いた目的の冒険者組合の前まで来た。
扉は西部劇に出て来るような、木製の観音開きドアだ。
キィィ
今度は私を先頭にして、軋むドアを通り抜ける。
まず視界に映ったものは、酒場と一緒になった簡易な職安と言う雰囲気だった。
奥いある大き目の掲示板には、日銭を求めてやって来た冒険者達が、血眼になって依頼書を睨んでいる。
そうかと思えば、朝から酒場で飲んでいるやる気の無い冒険者もいた。
「主様、あ奴らの目、あれはよからぬ事を仕出かす目です」
冒険者の肩書を持ちながら、裏では美女をさらって売り飛ばすのが本業のような奴等だ。
!
突然、レーザービームのような強い視線が、私に向けられたのを感じた。
「早くも騒ぎになるのか? 私達は冒険者登録をしたいだけなのに」
荒くれ者冒険者に絡まれるかと思った私だが、その視線を辿ると一人の受付嬢と視線が合った。
「丁度いい。あの子に訊いてみよう」
「いらっしゃいませ。この当たりでは見慣れない白装束ですが、冒険者登録でしょうか? それなら私、受付嬢のルチア・アルデールの担当で御座います。なんなりと」
ルチアと名乗った受付嬢は見た目17歳位の美少女で、あの特徴的な耳を持っていた。黒いスーツにネクタイ姿はまるで高級ホテルの受付嬢のような品があり、胸には金色のプレートに文字が書いてあった。
しかし文字までは読めなかったのは、私の手落ちだったと反省しきりだ。
「冒険者登録をしたいんだが、私達は東方の異国<ヤポン>から来たばかりの上、字が読めないんだ。それとゴブリンの耳を買い取って貰いたい」
「??ゴブリンですね......賜りましょう」
私の喋り方は、この異世界語翻訳に合わせて唇を動かしている。傍からみれば、変な奴だと思われても仕方がない。声より唇が遅れているのだ。
『一刻堂の真似は出来ない』
遠方から来た 字が読めない 最低モンスターのゴブリンの換金 美少女と年増連れ リーダーが弱そう
これらの条件が揃えば、荒くれ男達のする事は定番の恫喝である。
ズイと大男と手下二名が、小馬鹿にしながら近づいて来た。
チャッ
即、桔梗が刀の束に手を添えた。
「待て桔梗、まだ手を出すな」
御意
「おいおい訊いたかよ。この白いあんちゃんは字も読めねぇ上に、換金20Gポっちのゴブリン様ときたもんだ。テメェには不似合いな美少女三人と年増を連れやがって、俺達がたっぷり可愛がって 」
ブへら
ドスぅう
年増と訊いてブチ切れたジョーの早業だった。
南友千葉拳を軽く腹に捻じ込んだらしく、大男の腹が陥没して、白目をむいて倒れ込んだ。
「千葉の塩茹でピーナツ!」(食べたかっただけで意味はない)
「なに! 暴れん坊のジャッカルを一撃で」
「D+ランクだが、それを初心者がか?」
「へぇ流石に年増、やるじゃん」
そう言うバニラも、手には金ダライを持っていた。
「ふう、冷静なのはRenoだけか」
目の前の出来事は、冒険者組合なら日常茶飯事なのか、周りはすぐに興味を無くしたが、美少女は酒のつまみに丁度いいらしい。相変わらず嫌らしく舐めるような視線が注がれていた。
『おかしい』
ルチアだけは、この白装束五人組に、冒険者にはない違和感を強く感じていたのだ。
これはルチアの特殊スキル<股間の知らせ>だった。
『この白い青年......私の股間が震えた.....間違いない』
騒ぎは起きたが特にお咎めもなく、私達五人の冒険者登録は始まった。




