EP86 アンドロイドの娘達<保毛坂48>をすべて起動せよ
______やがてワクドキな2日後の朝が来た。寒さの厳しい北方エスタリカ王国へ向かう日である。
私達はナイト・メア亭の食堂で軽い食事をとり、今は出発前のちょっとした行程の確認中である。
ちなみに私の提案で、ナイト・メア亭のメニューには、モーニング・セットが加わり、今や私が好きなコーヒーが飲める。
コーヒーが苦手でない者は、この旨さが分かるようになって来て、アデリアなど私をマネてブラックで飲んでいた。
コク
「ふう~、朝はこの味と香りが一段と染みるな」
『ほう、アデリアの奴が玄人になったものよ』
バイソン大将も味を褒められれば、嬉しそうに顔が綻んでしまうのだ。
地球でも高級なドウシタモンジャロ・コーヒー豆は、私がレティキュラム号の在庫から提供した物で、在庫が無くならないよう、熱帯ではない異世界でも、栽培計画を考えている。
「ところで防寒コートはちゃんと持って来たのか? エスタリカ王国は寒いぞレイジー」
にやけたアデリアが訊いて来たが、そこは準備万端の私である。
私は布製の大きなバックを開けて見せた。
「どう? この厚手の白衣は?」
地球でもそんな白衣は見た事がないが、ルチアとデリーシャが私の希望通りに作ってくれた特製だ。当然、ルチアの防御魔法が付与済みである。
「アタシのも見ろ、レイジー」
アデリアは、私と同じ白衣を見せて顔を赤らめるのだった。
「あれ? 私と同じじゃないかアデリア」
「ふ、レイジーとアタシは新婚夫婦だからな、お揃いでないと怪しまれるではないか。当然だろうが。それと、ゆ、ゆ 指輪が無いんだが」
「まぁ、そう言う設定だから、指輪は必要になるよね、アデリア」
はひ♡
「あ、あなた」
「おいおい、新婚ごっこならエスタリカ王国でやってくれ。馬鹿はそのくらいにしてお前等、そろそろ出発しなくていいのか?」
こんな茶番、訊いてられないとばかりに、バイソン大将が声を荒げている。
「おっとバイソン大将、そうでした」
「レイジー、ゆ、指輪、指輪が要るんだ、指輪だぞ」
ルルル
ウィー
ウィー
______ハメリア合衆国情報部の高機動ローバー2台が、私達の乗車を待って並んでいる。電動駆動モーターの出す回転音が、耳に心地良い。
私は1号車、見送りが終われば帰還するジョー達は2号車だ。
「出発かレイジーさん、整備とプログレス・リチウムバッテリーの充電は完了してある。片道なら十分な余裕があるから心配はない」
『リチウムの進化版か。それでもまだ旧式だな。私なら』
時代は進歩して、重量のある軍用ローバーでも、単純に300kmをバッテリーだけで走破する事が出来るようになった。帰りは積み込んだソーラーパネルを展開しておき、1号車をカムフラージュして放置すればいいだけの事。
その辺りの事は、ポッターに任せておけばいいのである。
高機動ローバーの説明を、2号車を運転するトーラス副長が、簡単に説明してくれた。
ハメリア合衆国情報部が異世界に突入した時、衛星軌道上から撮影したマップで、ナビまで搭載してあるのだから道に迷う事はないと思う。
もちろんこれは本来、火星に着陸して使う予定だったナビだ。
「ではちょっとテストを」
トーラス副長がデモスイッチを押した。
ポーン
<このまま暫く道なりです>
「む、何だこれは? レイジー、これは地図なのか? しかも女が喋っているぞ。女はどこに隠れているんだ? 白状しろ!」
「アデリア......これは機械だよ」
「機械だと? ほう、そんな物が......しかしアタシはこの女が気になるぞ」
馬の要らない鉄の馬車にも見慣れて、当たり前になったそれを口にする人はもういないが、地図が出て女が喋る板は見た事がないのだ。
1号車には私とアデリア、護衛のバニラ・アイス。運転するのは緑の5人の一人、若く独身ポッターの4人である。
これにお気軽ドライブ旅行感覚の2号車には、1号車がいいと嫌がったアエリア、ジョー、Reno、桔梗が乗り、運転するのはトーラス副長だ。
「「「ちぃ」」」
帰還時には、2号車は再充電の必要がある為、どこかで充電時間が必要になる。
充電する為にどこかでキャンプするのも、きっと楽しい事だろう。
______見送るKannaと私の目が合うと、コクリと頷きあった。
=レイジー通信秘匿チャンネル=
=kannaちゃん、後の事は頼むよ=(猫なで声)
=社長、お帰りになった後のあのお約束、忘れないで下さいね=
=も、もちろんだよ、嫌だなぁ......私を疑っているのかい?=
『本当は忘却の彼方に飛ばして、すっかり忘れていた』
kannaは、見送りだけの2号車が帰還するまでは、聖母マリア様村に残って村を守る責任がある。残るのはバイソン大将、モーリンさん、ルル、ルチア、デリーシャ、緑の5人であるケツノ隊長に、ビーノ、ハリー達である。
勿論、姐さん親衛隊のジャッカル、メンマ、チャーシューの三馬鹿トリオも居るには居るのだが、あいつ等はあてにしない方がいい。どうせこれ幸いと、酒浸りになっているだけなのだ。
「ちゃんと酒代は払えよ、三馬鹿トリオ」
と心の声が口に出てしまった。
「では1号車、2号車、全員乗車! これより北方エスタリカ王国に向けて出発します」
「お弁当を持って、さぁ行くよぉ~!」
おぉぉ!!
なんとも旅行気分丸出しの出発だった。
いつも何かと私が挨拶していて、こういう事に私も段々慣れて来ている。
よいしょっと。
「レイジー、これは意外と乗り心地がいいな」
2号車では___
「凄い、中も殆ど鉄だし、お鍋のつまみがいっぱい!この長いのは槍?」
アエリアが興味深々で訊いている。
「銃です」
コンコン
「透明なのはガラスって言うのね」
などとローバーに気を取られている隙に、私はチラリとある方向を見た。
kannaとこっそり起動させた<保毛坂48>の二体が、影から私を見送っているのだ。
「ほら、ご主人様が見てるわよ」
はひ。
エントリーナンバー3、私がFarz(ファ―ス)とエントリーナンバー4、Nikoと名付けたメイド姿のアンドロイドが、ペコリと私に会釈をしていた。
=御主人様、お帰りになるその日まで、このFarzとNiko以下44体が、必ずこの聖母マリア様村と住人の皆様をお守りします=
=もちろんkannaだってよ=
=ちゃんと秘匿回線だろうね。頼むよkanna、Farz、Niko、<保毛坂48>=
=お任せを=
ピクぅ
「ちょっとさぁ、なんだか今、秘匿回線ぽいのが使われなかったかなぁ? バニラちゃんのAiがそう言ってるんだけど」
「糞ウサギ、この身も何かを感じたが。Reno、お前のAiはどう思った?」
「成る程、大人しく残ったkannaが、下衆様と何かを企んだとも考えられるわね」
流石に高性能アンドロイドの娘達である。恐るべきは搭載したAi-myuだろう。
レイジー達が地球を脱出した原因が、その自立型Ai-myuシリーズにあったのだ。
その<保毛坂48>は、エントリーナンバー3、4のFarz(ファ―ス)とNiko同様、残り44体は全員がメイド服を着こんでいて性能は皆同じであるが、個性はそれぞれ違うのである。
私は、個々の戦闘スタイルまではReno、kannaの事も知らないのだが、私が帰還するまでの警備を任せても、問題はないと思っている。
そして困るのは、大所帯になった<保毛坂48>の住む場所だ。しかし私の秘策はそこまで考えてある。
2号車が帰還するまでに往復で3日はかかる。その間にある物を、聖母マリア様村に持って来させるのである。
この計画の神髄は、緑の5人や異世界の住人達に、いよいよ私達の正体を告げる為でもある。
その手筈を含めて、kannaやFarz、Nikoに命じてあったのだ。
◇いざ出発!◇
______「では1号車、2号車、出発!」
ポッターがナビに目的地をインプットする。
<目的地までは直線で約250km、到着時間はケースバイケースです>
「ポッター君、これ随分と人間臭いんだけど?」
「地理のデータ不足で、曖昧ですいません」
クゥォォォォ
電動ローバーは静かに走り出す。未整備の凸凹道で突き上げは酷いが、それでも馬車よりは早くて快適だと言える。
「あ、シートベルトを一応して下さい」
「しーとべると?」
「アデリア、この帯はですね、こうしてこうして、ここにカチンと」
私が隣のアデリアに重なるような姿勢になった時、悪路の突き上げでローバーが跳ねた。
ドン
おわ!
ムニュウ
アデリアの股間と双丘に私の顔が挟まった。
ふがぁ~
「柔らかいぃ~」
「駄目だレイジー、人目があるんだから我慢しろ」
「すいませ~ん。もう少しスピードを落としますか? 道なき道ですから荒れてますので」
「いや、このままでいいぞポッターとやら。暴れ馬よりもずっと快適だ。レイジー、そのままアタシの胸に顔を埋めているがいい」
ふが
ふが
=父ちゃん Renoや桔梗、ついでにkannaにこの蛮行を入れておきますDeth=
=待て、これは事故だろバニラ・アイス=
=秘匿回線に覚えがあろう!それにいつまでくっ付いているんですか! ではポチっとな=
「げぇ、秘匿回線がバレてたのか」
問答無用とばかりに、バニラ・アイスがチクった。
途端に後続の2号車に、爆発的な暴動が起きた。
即、私は2号車に放り込まれ、代わりにジョーが1号車に放り込まれたのだ。
「レイジー!」
「なんでボクが!」
とジョーは憤慨したけれど、アデリアとポッターには理由が分からなかった。
一番喜んだのは、アデリア命のポッターである。恋敵と言えるレイジーが居なくなり、これまたエルフ顔のジョー(かぶら)が一緒なのだ。
「ポッターとやら、貴様、なにがそんなに嬉しいんだ! あぁん!」
ひぃぃ
その頃、残ったkannaと言えば。
「Farz、Niko、早速社長に災難が......全く困ったものよね」
「kanna、御主人様は一体どんな方で? 私達は幼少の頃のレイジー様しか記憶にないのです」
「ふーん、天才だけど、どスケベね。そのくせ女心に超鈍感で、慢性のアホ。<保毛坂48全機>にデータをリンクしてあげる」
げぇ、これは!
「美小女(ルチア、デリーシャ)だろうが年増が次々に惚れて増殖するのよ。まるで凶悪なウィルスだと思えば間違いないわ。データで理解したでしょ」
「これ程ですか」
「そうよ、呆れたでしょ?」
しかしkannaの話は、FarzとNikoには無意味だった。
起動されて初めてレイジーの顔を見た瞬間、Farz以下46体のAiはレイジーに射抜かれていたのだから。
「あぁ、私の御主人様。どうかご無事で」
「Farz、私達に序列はありませんから」
「ふん、いつでも相手になるわNiko」
______へ、へェクショイィ
私の46回にも及ぶダイナミックなくしゃみは、先頭を走る1号車にまで届いたようだ。
「ふん、風邪でもひいているがいい! 指輪も寄こさないで何が新婚だ! レイジーは大バカだぁ」
私の旅はまだ出発したばかりだと言うのに、前途多難な滑り出しとなったのである。




