EP49 チェイサーは今
EP50で前章の終了となります。後章もよろしく。
◇二国の追跡者達◇
______異世界デルモンド王国から南方の海岸に不時着した、ハメリア合衆国とルルシア帝国に動きが出始めていたのは、共にシャトルの火星軌道帰還用の燃料を使って、北のデルモンド王国に向かう準備を終えたからだ。
お互いに共通している事は、燃料を使い切ればもうシャトルは二度と跳べない。必要な装備機材と食料と水を搭載して、それぞれが最適な着陸地点を探す最後のフライトとなる事だ。
搭載燃料に制限がある為、適地探査を短時間で行うのは同じだった。
その点、レイジー博士の両親が建造したレティキュラム号は、重力を推力に変換する画期的なエンジンで、無限に跳べる人類の夢を実現した素晴らしい発明だ。
ルルシア帝国の装備は、プログレス・スーパーリチウム充電式ローバーが2台と、高効率太陽電池パネル。そしてどこで使うのか対個人宇宙戦用の、同じプログレス・リチウム充電式レーザーガンを装備している。
弾薬などは使い切ってしまえば、銃器は無用の長物で何の役にもたたない。当初から火星部隊は、酸素を必要とする拳銃とマシンガンなどは持ち込んでいないのは、宇宙船内で暴発でもしたら、それこそ致命的なのである。
◇ACT-1 ルルシア帝国◇
アクションを最初に起こしたのはルルシア帝国側だった。
火星追跡部隊の隊長はアレクセイ・ケツノアナコフ、副長のウラジミール、セルゲイ、ドミトリー、そして紅一点のロマノフ=ナタリー・ダニーキの五名である。
______「では諸君、我がルルシア帝国は北に向かって跳ぶとしよう。今まで通り、暫くはシャトルを住居に使用する事になるだろう。よって、シャトルを隠せる場所を選ぶのが最優先する」
「では、原住民から訊いたデルモンド王国を、上空から簡易探査してから適地を探しましょう」
うむ。
ロマノフはそう言うと、デルモンド王国に向けて発進準備を始めたのだった。
祖国ルルシア帝国は、場所によっては冬季に-60℃を下回る地域がある。そこまでの激寒ではなくても、気分的に地球の祖国を思い出せる寒さは、むしろ隊員にとって歓迎する所だったのだ。
ルルシア帝国が選んだのは、温暖な墓地から北のエスタリカ王国で、バイソン大将達が、Sランク冒険者として活躍していた王国だ。
しかし予想外の騒ぎが起きていた事を、ルルシア帝国は知らない。____それはローバーでは踏み込めなかった険しい峠に住む、ある集団に目撃されていた事だ。
◇ACT-2 ハメリア合衆国◇
情報部火星特命隊長のオルガ・スミス、副長のトーラス、ジョニー、ビーノ、ハリーの五名からなる。
「簡単な地上の探索データから、気候的に考えてあの森の中が適していると思うが?」
「いいじゃないですかボス、湖もあって釣りも出来るのはグッドですよ!」
「釣か、いいなポッター」
トーラス副長も賛成なようだ。
ちなみにこの湖のことを、私レイジーは<ネス湖>と呼んでいる。その理由は、ルルが化け物が居ると言った事で、モンスターの生息する伝説の湖にあやかったのだ。
私達のレティキュラム号が、初めに選んで着陸したのは<魔の森>の中。現在は<ネス湖>の中に深く沈めてあるのだけれど、ハメリア合衆国が、年中比較的温暖な地域を選んだのは、ルルシア帝国とは国民性の違いからだろう。
私達と同じ<魔の森>の中だったとは、同じハメリア人らしい選択だった。
______最初、ルルシア帝国は高度1200m上空から、デルモンド王国を偵察したのだが、高速で跳ぶ為に燃料不足となる。
「ケツノアナ隊長、平地の上空ですがこの辺りはどうですか? 燃料の余裕もそろそろ」
「地上は殆ど何も見えんな。あるのは墓地だけか? ロマノフ、ここは駄目だ。それと私の事は隊長でいいと言っているだろう」
「了解です、ケツノアナ隊長」
おい
こうして大した探査も出来ず、レイジー博士達の墓地上空を通過し、寒い北のエスタリカに向かって行ったのだった。
少しばかり寒くても北の地が郷愁を感じるからと、理由としては信じ難い。
◇エスタリカ王国◇
暖かい時期が、一年を通して三か月程度の王国。
ルルシア帝国が選んだのは、<魔の森>一帯から続く火山地帯の山麓の開けた場所で、殆ど一目に付かない場所だ。
ローバーで周辺を走り回れば、住民に知られるのは時間の問題ではあるのだけれど。
◇デルモンド王国◇
一方、ハメリア合衆国も目的地に着陸すると、ローバーでの探索を開始した。
こちらは、住民とのコミュニケーションをとり、敵対関係をとらない方針に変わりはなかった。
南の海岸で漁民達と交流を大切にしたのは、異世界で領有権などと言うのは、全くナンセンスだからで、それにたった五名で異世界人達と戦う意味はない。
◇未確認飛行物体◇
______冒険者組合に謎の飛行物体の一報が入る。
今度は大勢の住民が、轟音を響かせて跳ぶ<魔の森>に向かう飛行物体を目撃したと言うのだ。
それより前に、北に向かう同様の報告が上がったのだが、目撃者が少なく大した問題にはならなかった。
しかし、これはもう冒険者組合としては、放置しておけないと判断したのは組合長のアデリアだ。
万一の為にナイトメア亭に相談をかけ、本命のレイジー様にもこれ幸いと押しかけて行ったのだ。
______「と言う訳だ糞薬師。まぁ貴様のようなFランクの軟弱者に話したところで無駄と言うものだが、お前がどうしてもと言うなら、同行させてやってもいいぞ」
『これはデート、デートなのよ! うんと言ってよねレイジー様』
<魔の森>と訊いて、私は同行しいない訳にはいかない。万一、<ネス湖>のレティキュラム号に気づかれては拙いからだ。
「これは.......何かあってはいけません。是非私も同行したいです」
この言葉の<......何かあっては>の長い間をアデリアは歓喜した。
自分に何かあってはと、都合のよい妄想をしたからだ。
『即決してくた! やっぱりあたしとレイジー様は、運命の赤い糸で!』
糸も糞も、私には最初からそんな糸も意図もなかった。
◇アデリアのデート◇
______「ふん、Fランク糞薬師が結構、言ってくれる。ならば常にあたしの横に腕を組んで同行するのだ。これはあたしが、てめぇを守ってやると言う意味だ。いいな勘違いするなよ!」
お? おぅ?
「あらあら? アデリアったら強引な春だこと」
「ルルが言ってたバケモン退治か? なら俺達も行くしかねぇか、なぁモーリン」
「でもあなた、アデリアのお邪魔では?」
「なんだそれは?」
アデリアの発恋を、バイソンの大将が知る訳も無かった。
アデリア組合長は、元Sランクのバイソン大将とモーリンさん、私と暇なジャッカル達を引き連れて<魔の森>に偵察に出る予定だった。総勢7名のパーティーだけれど、当然、横やりが入った。
Reno、バニラ・アイス、桔梗である。
娘達三人を連れて行かない納得の理由が無い以上、結局総勢10名の探索討伐隊となったが、私には過剰戦力に思えるのだ。
「ボクはレイジー・ドラッグストアの店番をするから、皆で行っといでぇ~。お土産キボンヌなのよさ。それとルルちゃんはボクに任せてチョ」
「社長、相談役のKannaもお留守してます......社長の留守を守る、これこそ妻の鏡ですから!」
『何? あのインテリ眼鏡の美少女わ。また増えたの? レイジー様は一体、どこから女を連れて来るのよ、もう止めてよぉ~』
アデリアの顔は引きつっていた。
「Kannaお前はバカか? この桔梗を差し置いて、それを新参のお前の口が言うのか?」
「そうだそうだピー ピー」
「kanna、お前はレイジー様の隣は誰が一番相応しいか、分かっていないようね」
RenoがKannaを見つめる目は尋常ではなかった。それはふざけていてもバニラと桔梗も、アデリアも同じである。
『むぅ、邪魔な糞がゾロゾロと。これではあたしとレイジー様のデートにならんだろうが!』
しかし、姐さんが同行しないと訊いて、親衛隊のジャッカル達が辞退したので、また7名に減ったのだった。
『フッ、年増は賢明な判断をしたようだな』
ジョーの姐さんが同行しないのは、私とジョーにとって都合が良い結果を生む事になった。




