EP40 偽聖母様降臨で増えるカモ
______バイソン大将とモーリンさんは、完全に信者になった。
こうなると二人は、私の手の平の上の如く思考を誘導出来るようになる。
=主様が下衆だったとは、Renoは悲しゅう御座います=
私は思わずRenoを凝視してしまった。
レイジーチャンネル通信を切ったと思っていたのだけれど、Renoはまだチャンネル通信Openのままだったのだ。
すると二階から騒がしい音がしたかと思うと、姐さんがバタバタと降りて来てこう宣った。
あ、「バイソン」
ひっ?
偽聖母マリア様と同じ声に、バイソン大将とモーリンさんは飛び上がる程驚いてしまった。
「あの、私の遥か東の国では、<聖母マリア様>はこんな声ではなかったかと言われてましてね、姐さんがちょっと真似をしただけですよ」
とは言ったものの、今の声はたった今訊いた<聖母マリア様>の声=ジョーなのだ。
まだ事態をしっかりと飲み込めていないのが幸いしてか、この場は「そうか」で終わったのだった。
『焦ったぞ、ジョーのバカ』
ギラリと私はジョーを睨みつけてやると、悪びれもせずテヘペロメンゴだそうだ。
ところで......とバイソン大将がゆっくりと、何か思いつめたかのような顔で語り出した。
いよいよ、墓石の秘密かと思った私は、生唾を飲み込んで次の言葉を待っていた。
「なぁ俺は決めたぜ」
「何をですか?」私は惚けてみせた。
「ナイトメア亭で売る土産だが、十字型ペンダントと<聖母マリア様>のブローチ、それに聖水なんてどうだ? 売れると思わんか?」
『ロザリオとかは、それは私も考えていたんだ』
期待する斜め右の言葉に、私は肩透かしを食らったのだけれど、土産を売る案は私も考えていた事であり、私とバイソン大将の目論見は見事にマッチしたのだ。
=主様、お見事と言うしかありません=
今度は桔梗だが、桔梗はあっぱれと言う顔つきだった。
______時は金なりとばかりに、私は早速ナイトメア亭で売り出す土産品の開発を話し合う事にしたのだ。
カラン コロン
「おはよう御座いますぅ」
タイミングよくデリーシャが加わった事により、土産品開発プロジェクトはたった今、スタートを切った。
もともとナイトメア亭に泊まる客など今日も居ないので、デリーシャにとっても嬉しい話なのだ。
「どうしたんです? 急にお土産作りですか。はっ、これは余程、経営が大ピンチ! そうなったら私のガマグチも大ピンチ!これは私も頑張らないと」
巧い具合にデリーシャが誤解してくれたお陰で、話はトントンと運んでいく。まぁ実際、経営は成り立ってはいないのだけれど。
都合のいい事に、デリーシャはデザインが大好きで、これも土産品作りに役立つ事になった。
この時点で、くじで何かが当たるプレゼント構想は消滅、純粋に有難い<聖母マリア様>グッズを買って貰う路線に変更したのである。
『お守りは、日本でも買ってこそ御利益があるというもの。勿論、台座の前には賽銭箱は必須だろうけど』
Renoが訊いたら、「この外道様」と罵倒されていた事だろう。
ジィ~ ジィ~ ジトォ~
『こいつテレパスかよ』
ちなみに<聖母マリア様>グッズの売り上げは、ナイトメア亭と折半という事で話は纏まったのである。
バイソンとモーリンさんは信者になった。あとは薬を買いに来たお客に、二人とルルちゃんから噂を広めてもらい、参拝者が増えていくのを待てばいいのだ。
「他力本願ですか、外道様」
「Reno、お前って心が読めるの?」
「いえ主様の顔に、ちゃんと書いてありますから」
偽聖母様プロジェクトは、大成功と言っていいだろう。
けれど私の命は依然狙われていて、根本的に問題は解決していない。
今日の今も、私は狙われているかもしれない。
______翌日
モーリンさんと一緒に居る以上、暗殺者は遠視魔法の発動は出来ない。<サイレント・マーダー>は最初の魔法起動で、モーリンさんに気づかれた事を悟っていた。
そこでナイトメア亭の近くまで来て、自分の目でターゲットを見極めるしかなくなったのだ。
「ただ見るだけなら感知はされない」
<サイレント・マーダー>は森の中から、視力3.0の目で薬師レイジーを伺っていた。
ターゲットはナイトメア亭の二階に居座っているが、時折外で深呼吸をしたりと、随分とリラックスしていた。
「ここから見る限り、長身で少し長めの黒髪。ほう、足は長い上に......顔はよく分からないが、東方の田舎者と訊いている。たいした事はなかろう」
私は外にガーデンテーブルと椅子を持ち出し、バニラ・アイスにいつもの熱いコーヒー、ドウシタモンジャロを所望するのだ。
やがてしずしずと調子の狂うバニラが、私がお気に入りの青竹を編んだトレイに、コーヒーを載せてやって来た。
「へい、お待ち! コーヒー大盛一丁!」
「あのな! このいい雰囲気を台無しにしてどうする。それにコーヒーに大盛はないんだよ」
いいじゃん、そんなのぉ~。
「楽しそうだな。アレがイエーガーの言っていた娘の一人か。だけど何故、金ダライを背負っているんだ? 薬の調合に使うとは思えんが、あれで薬草でも摘んで......それしかあるまい」
異世界の空気は、私が住んでいた南国のジャーブラ島に似て澄んでいる。
「自然の中で飲むコーヒーは格別だ」
などと私が一人満足している姿は、悪人とも思えず困惑を覚える位だ。しかし<サイレント・マーダー>は暗殺者。私情など挟んでいては依頼は失敗してしまう。
そこへ桔梗が、白衣を脱ぎ捨てて現れた。
真っ赤なチャイナドレスに身を包み、<妖刀ムラムラ>を携えている。
「桔梗、鍛錬か?」
私が訊くまでも無く、桔梗は腰を落として居合の構えをとった。
「毎日が修行なのです。サボっていては腕が落ちますので」
アンドロイドはサボっても、腕は落ちないと思うのだけれど、本人が納得していないのでは仕方がない。
せぇい!
何?!
大気まで切り裂くような速度に、<サイレント・マーダー>は驚いた。
「剣筋は目で追えない程速かった。只者ではない娘が居るのか。刀身から斬撃は跳んでいなかったが、これは少し殺りにくいか」
次に現れたのは、メイド姿のRenoである。
「そろそろ薬の作成時間ですが」
「物腰は使用人のメイドのようだが、娘が三人と訊いている。アレも娘の一人か。だとするとマークすべきは、紅いドレスのような物を着たお団子頭一人だけか」
「ちょっと兄貴ぃ」
二階の窓から薬師を呼ぶ女がひょこっと顔を出した。
「もう時間でしょ、レイジー・マイシンとビタミン剤、ボク一人だけじゃ手一杯なんだからさぁ」
「ふむ、あれが年増か。黄色い防具? あんな物を被っていても凄腕には見えないが。それに......似ていない」
取り巻きの娘は、一人を除いて大した事がなかった。
<サイレント・マーダー>は決行日を明日の朝と決め、その場を後にしたのだった。
◇増えるカモ◇
その日の夕方、オイスター・ケチャップが薬を求めてやって来た。
デブーラ男爵家から近い事もあって、以前よりもナイトメア亭に顔を出すようになっていたのだ。
「よう、腰の具合はどうだ? デリーシャには手伝って貰う仕事が出来てな、これから忙しくなるところだ」
オイスター・ケチャップの様子が少し変だと気づいたバイソンは、先に墓参りをしたなと理解した。
「何だったんだバイソン、あの聖女様は!」
と言うなり、膝がガクガクと震え、杖でやっと立っていられる状態だった。
私は一階のフロアに降りて来て、三人目のお客と対面した。
この時もジョーがリモートでアテレコを見事にこなした結果が、オイスター・ケチャップの反応だったのである。
「見たんですね、あの<聖母マリア様>を」
私が訊くと、言葉もなくただ首と入れ歯をカクカクさせていた。
「ちょっとお父さん、どうしたのよ?」
墓参りをせず、ナイトメア亭にやって来たデリーシャは、土産品のデザインを頼まれたものの、御本体様を見た事がない。
ただ経営改善の為、土産を作っているのだと思い込んでいたのだ。
するとわなわな震える手で、オイスターは一枚の紙を差し出した。私が用意したおみくじである。
「これじゃ」
デリーシャが受け取って代わりに読んでみると、やはり持つ手が震え、声が涙声に代わっていった。
<過去は過去。汝が失いし子は天上に帰す。今を生きよ>
デリーシャにはこの意味が分かった。当然、バイソンとモーリンさんもだ。
「あの<聖母マリア様>は赤子を腕に抱いていた。これではまるで......」
遂にバイソンとモーリンさんまでが涙したのだ。
これではっきりと私は確信した。
私が適当に書いた文面は、目の前の四人が持っている秘密の鍵穴を開けたのだと。
しかし、それは本人達の口から語るのが筋であって、私が訊く事ではない。
少し落ち着くと、私以外の四人は奥の部屋へと消えていったのだ。これから謎の墓石の主を、涙で語るのだろう。
この後、デリーシャも台座に向かうだろうし、信者が四人になる。
「そうなればデブーラ男爵家の使用人、男爵本人までが参拝に来ることになる。噂が広まって、信者様がどんどん増えていくって寸法よ」
おじさん かお すごい わるものぉ~
「外道様、子供は正直ですよ」
「あは、ルルちゃんも、パパとママんとこに行っといで」
外道と言われようが、これは検証の副産物だと心に言い聞かせる私だった。
ひっひっ




