EP12 ほぇ?WANTEDってどこの誰の事なのよさ?
______冒険者登録志望のステータスを計る魔道具の前で、乗るに乗れずへっぴり腰になっているジョーの姿は実に滑稽で興味深かった。
朝から安エールを飲むだけの冒険者くずれ達にも、ジョーは格好の酒の肴となってしまったのだ。
尤も黄色い工事現場用ヘルメットを被ったジョーは、年増でも目を引く美女ではある。
「あの年増、ジャッカルをワンパンで沈めた癖に、足震わせて何やってんだ? ただ乗るだけだろうにションベンか? なまじ美女だけに勿体ねぇ」
「はん、もう漏れてんじゃねぇの? 年増の上に尿漏れ付じゃぁよ、ありゃ一生売れ残り確定だな。なんなら俺が貰ってやってもいいけどよ」
「ガハハハッ違げぇねぇ。今日の朝は、いつもの安エールでも美味いぜ」
「ところで兄貴、今日の飲み代は?」
「ケッ、そんな細けぇこたぁな、後で考えりゃいいんだよ! 酒が不味くなるだろうがよ。さぁとなりゃ、トンずらよ」
げぇ
冒険者組合のフロアが、ジョーのワンマンショーとなって、注目の的になってしまっていた。
______オロオロ______「レ、レイジー博士、これはまさかのまさかで本当に体重計なんじゃ?」
「「ぷッ」」
笑ったのはバニラと桔梗、Reno三体のアンドロイドである。
......あぁなるほど。
私が笑わないのは、ミーは天才の上に気配りが出来る男だからだ。
「ジョー、これはきっと違うから大丈夫だよ。異世界にそんな物があるわけが...... ないじゃないか」
『たぶん』
私は余裕を噛ましながら遠い目で、ジョーに安心するよう言ってみたが、正直なところこれが何の魔道具なのかは分かっていないのだ。
「うん、わかったよ。ボク、レイジー博士を信じるのよさ。み、近未来の旦那様を信じなきゃ、ボク、いい妻になれないからね」
「かぶら!!」
「生ゴミ!!」
『今、妻って言った!』
と言いいながら、ジョーは恐る恐るつま先からそっと石板に乗った。
そっと乗ろうが、どこから乗っても体重が変わる筈もなく、頭で分かっていても悪あがきをしてしまうのが女心なのだろう。
「ボクはジョー・ドミニク・ルフェーブル 徒手空拳の達人なのよさ」
すると下からは銀色、上から金色の光輪が出現してジョーの体を舐めるような動きで上下した。
「あぁ~ん博士ぇ、これクネクネと気持ち悪い動きしてるぅ」
『あの動きには秘密が!これで分ればMRIより凄いぞ』
魔素はどこでも存在している。なのに白装束の青年の顔は、ただ驚きに満ちていた。
受付嬢のルチアは不信に思いながらも、ゴールドプレートのプライドで、営業スマイルを崩す事はなかった。
「おや? あなた様は初めて見ますか? これは旧式の魔道具でそこそこの情報が分かるのですが、流石に新型には劣ります」
『旧式と言っておけば、もしかして知らないのも納得出来るわ......でもあの驚きようは、全く知らなかったと言う顔だけど』
『魔道具だって? やはり異世界には魔法が存在しているのか!これは凄いぞ! 早く究明してみたいものだ』
興奮して思わず微笑む私だったが、ルチアが説明し終わるとすぐに結果が出た。
チーン
『解凍が早いぞ。まるで電子レンジ?』
◇◇
ジョー・ドミニク・ルフェーブル ♀27歳
LV=20(Cランク相当)
HP=25(標準的な大人以上)
MP=0
徒手空拳
武器=無
攻撃力=推定30
防具=不明な材質の黄色い帽子 (実際はABS樹脂)
防御力=測定不可
体重=65debura(58kg)
気を利かせたのか、ルチアが体重だけを除いて私達に音読してくれた。
「ほらね、心配無用だっただろ?」
パッ
けれど何故か体重だけが、ルチアの後ろの魔法掲示板に一瞬、表示されたのを全員が見逃す筈がなかった。
ぷぷ 年増65deburaでIQがカス
バニラと桔梗は、ジョーの体形から質量を計測、deburaもグラム単位で正確な体重をはじき出した。
「あぁ~騙したわねレイジー博士え。ボクお嫁にいけなくなったんだよ~。男ならこの責任今すぐとってよねぇ~!はいこれ婚姻届け。ボクの印はもう押してあるのよさ」
「ジョー、お前が<あぁ~siraki>をやるなら、65deburaは忘れてやってもいいぞ」
「もうバレた後なのにぃ、この鬼ぃ!早くサインしてぇ~」
『65deburaって何kg? 王国の名前もデブーラだったな。後でバニラに訊いてみようか』
私に泣いて縋る邪魔なジョーのケツを、バニラと桔梗ろRenoが蹴り飛ばし、婚姻届けをビリビリに破ると次は私の番となる。
「レイジー・立木 ナイフだ」
チーン
レイジー・立木 29歳 ♂
LV1(Fランク相当)
HP=15 (標準的な大人)
MP=0
武器=片手ナイフ
攻撃力=0.5
特技=?????
防具=白衣
防御力=0
ルチアがまた読み上げたのだが、どうにも不思議そうな顔をしていた。
さて問題はアンドロイド三体である。
三体が交互に魔道具に乗っても、反応はするけど結果が出ないのだ。
「おかしいです。魔道具が壊れたのでしょうか。これは困りましたね。調整に魔導の専門家を呼ぶので時間がかかります。取り合えずゴブリンの耳25体分を買い取りますね」
シュタタタ
ルチアが受付の奥に消えて行ったが、すぐに凄い勢いで戻って来た。
『高速移動のスキル持ちか?』
「一体20Gで25匹分、総額500Gになります。登録料は一人100Gです。それと魔導修理師が今日は来れないそうなので、明日また来ていただきますか? 明日の朝までには、魔道具を直しておきますので」
「もう連絡ついたの? そ、そう?じゃまた明日来るよ」
そう言って私達が扉を潜るまで、私はルチアの鋭い視線を背中に感じ続けていた。
『やはり白装束とジョーが目立ち過ぎたのか?』
『レイジー青年と年増以外の三人......生命反応が無かった。はっ、もしかして死霊がとり付いた死人! だとするとレイジーは危険なネクロマンサー!』
______冒険者組合を後にして、バニラに1Gがいくらかを訊いてみると1Gは10円だと言う。
つまりゴブ一匹で200円、登録料が5人で5,000円となる。
「なるほど、あいつ等が私達を小馬鹿にしてチョッカイ出して来る訳だ。それでReno、掲示板の撮影は済んでいるな?」
は、はひっ
「この私をRenoと! む、むろ、むろん つよしでござございますぅ」
「あれはきっと貴重な情報になる。ありがとうReno」
あぽぉ~っ
「さぁ、今日のところは街を散策しながら帰ろう。文字と掲示板の分析は帰ってからでいいだろうし、今日はGが使えないから、露店の旨そうな串焼きとかは我慢だな」
「じゃご主人様、取り逃がしたBossゴブって、いくらだったんだろうね」
バニラがそう訊いて来た。
「あぁ糞ウサギ、それはとても気になる話だな。御屋形様の生活費を稼ぐのは、内助の功である桔梗の役目。依頼を受けてモンスターを刈りまくってやろうではないか」
『はぁ......こいつ等に任せると、とんでもない事になりそうだ』
「まぁそう慌てなくてもいいさ。Renoが撮影した依頼書を分析すれば、モンスターの種類と討伐報奨金が分かる筈だから」
御意
「でもさぁ、ボクは異世界の料理に興味があるのよ。だからお金は欲しいのよさ」
「かぶらは、その辺の草でも食べれば?! タダだぞ」
「この屑鉄が!」
私とジョーの二人は、レティキュラム号の備蓄で当分食糧に困る事はないが、バレると拙いレティキュラム号を移動させて、一刻も早く隠す事も重要な課題となっている。
☆☆
その夜、私はRenoが撮影した掲示板の画像を見てみた。
カンバッチ型翻訳装置を作る事に比べれば、文字の解読など私には容易い事である。
「文字変換眼鏡は後日に作るとして、討伐依頼書はと。これは!なるほどFランクからBランクまでの依頼。多いのはFからCでゴブリン討伐はEランク相当か」
レイジー博士達が異世界で冒険者稼業をする為の情報が、次第に集まっていった。ただ、依頼書にはAランクの情報が無い事に不安が残るのだ。
「ラノベにはAランク、更にSランクのモンスターがいた。まだ分からない事が沢山あると言う事だな。全ては明日、また冒険者組合に行けば分る事だから、街で友人を作るのも有りだと思うよ」
物事は思ったようには運ばないもの。明日は今日より嵐を呼ぶかもしれない。しかしそれは既に起きていたのだ。
☆☆Wanted 10,000G(ゲローナ5人分)
魔法的に作った物なのか、警備隊の詰め所では手配書を手に憤慨する男達がいた。あの門番の二人だ。
______「糞ぉ、あの白装束達め、いったいどこへ行きやがった!我らに反逆した大罪人は必ずひっ捕らえろ!」
激オコな二人の門番達が、城下の警備隊に通報していたのだ。
「確かに全員が白装束とは怪しいし、お前達門番に暴挙を働いたのは大罪だからな。一応、手配書は配っておく」
私達は既に指名手配されて、10,000Gの賞金首になってしまっていたのである。
あの時、通行証も1Gも無い私達は、城下には入れなかったのだ。
桔梗が門番を峰打ちで気絶させておいて、事件にならない方がおかしいと誰も思わなかったとは、全く奇妙な話である。




