第九話 常識の相違
『やぁ、お嬢ちゃん。
元気かい?』
緑色のゆったりとした服に特徴的な帽子を被った気さくな青目の男、フランクリンが私の部屋に入って来た。
「お久しぶりです、フランクリンさん。
この通り、元気ですよ」
ゲームで時間を潰していた為、コスチュームを学生から元の姿に戻してマットレスから立ち上がる。
そしてフランクリンの方に近付き笑顔を見せて元気だとアピール。
『あはは、そうか。
元気そうでなによりだよ。
…こんな仮面で言葉が通じるなんて便利な世の中になったもんだよ』
フランクリンは顔に付けた仮面をコツコツと音を立てて不思議そうにしている。
この世界でも翻訳の道具は珍しい部類らしい。
「そうですね。
その道具がなかったら、皆さんとお話もできませんから、あって良かったです」
何故、フランクリンが私の部屋に来ているのかというと、私と面識がある為、家庭教師役としてフランクリンが選ばれたそうだ。
『さて、お嬢ちゃん。
今日は何を教えて欲しいんだい?
おじちゃんが答えられる範囲で教えるよ』
「そうですね。
ではこの国の文字を教えてもらえませんか?
とりあえず、私の名前、アカリの書き方を教えて下さい」
これに書いてと記者のコスチュームで一緒に出たメモ帳とペンをフランクリンに差し出す。
『おぉ!
…姿を変えられるってのは本当だったのか。
いやぁ、ごめんね、お嬢ちゃん。
おじちゃん、文官じゃないから文字は書けないな〜』
フランクリンは困ったように頭を掻く。
なるほど、この国では義務教育なんかで文字を教えてる訳じゃないのか。
文字以外に今後必要な常識は…
「それでは、お金の単位について教えて下さい」
『金の単位?
んー、重さの単位を聞きたいのかい?』
ん?
お金の単位を聞きたいのに何故重さの単位と勘違いしているのだろうか?
いや、フランクリンはお金ではなく金と言ってる。
もしかして翻訳仮面の誤訳だろうか?
「いえ、商品を買う時に必要なモノの単位を知りたいのです」
『ショーヒンヲカゥ?
お嬢ちゃん、もしかして専門知識を知りたいのかい?
流石にそんなモノをおじちゃんに求められても無理、かな。
アディなら知っていたかもしれないけど…ごめんね、お嬢ちゃん』
いやいや、商品を買うって専門用語じゃないでしょ!?
なんだ、フランクリンはわざとやっているのか?
私に情報を一切与えるなとでも命令されているのだろうか?
でも、フランクリンの様子は本当に何を言っているか分からないって雰囲気だ。
これが演技なら役者になれるよ、フランクリン。
「では、フランクリンさんは、どうやって食べ物や服などを得ているのですか?」
『どうやって、そりゃ配給されてくるよ』
ハイ、キュー?
…え、配給制?
いやいや、あり得ない。
それじゃ、まるで戦時中の日本みたいじゃないか。
「ご自身で買ったりしないのですか?
好きな食べ物や欲しい道具とかは?」
『好きな食べ物って…
お嬢ちゃん、もしかして補給剤以外を食べた事があるのかいっ!?』
フランクリンが私の肩を掴んでぐいっと寄せる。
私は思わず近過ぎるフランクリンの顔から遠ざかるようにのけぞった。
ホキューザイとは?
いや、話の流れで食べ物らしいけど。
「フランクリンさん、落ち着いて下さい。そのホキューザイ、とはどんな物でしょうか?」
『あ、あぁ。
ごめんね、お嬢ちゃん。
補給剤とは…これだ!』
フランクリンは言いながら服から布袋を取り出し、手を入れて一つ摘み出した。
それは私がここに来て初めての食事で出されたカラフルなキューブだった。
これが補給剤。
…これ、やっぱ食べ物だったんだ。
いや、私に内蔵がない事が分かった日からアレイスターに持って来なくて良いと伝えて見なかったけど、これか。
『これは魔力補給剤だね。
これとは別に球体の栄養補給剤があるんだけど…見た事あるかい?』
「はい、あります。
それが補給剤と言うのですね」
この食べ物と思えない物質。
味も香りもしない物。
『それで…お嬢ちゃん。
ほんとーに、これ以外に食べた事は…あるのかい?』
「えぇ、あります。
説明するとややこしいですが、それ以外を食べた事はあります」
前世の私は食べていた。
ただ、この体になって一度も食事はしていない。
口に補給剤を入れた事はあるけど吐き出してしまったし。
『そうか、そうなのか!
どんなモノを食べた事があるんだいっ?
どこで食べたっ?
形はっ?』
フランクリンは興奮して私に聞いてくる。
私が答えると矢継ぎ早に次の質問を投げかけてくる。
それから一通り聞いて満足したのか教える立場なのに色々と聞いて悪かったとフランクリンは笑顔で謝ってくる。
途中で私も聞きたい事を聞いたが驚きの回答だった。
フランクリンは補給剤以外に食べた事はないと言った。
それはフランクリンだけではなく、帝国全ての者がそうであると。
補給剤は国内で大量生産されて国民に配給されるらしい。
しかし、その原材料がなんなのかフランクリンは知らなかった。
「フランクリンさん、配給される以外に物を得る事はできますか?
物でなくても娯楽でも良いのですが…」
『配給以外にかい?
必要な物は全て配給されるからな〜。
配給以外に欲しいと思った事もないんだ。
だから配給以外に物を手に入れる方法なんて知らないな〜。
ゴラクってのも聞いた事がないしな〜。
アディならそのゴラク、だっけ?
知っているかもしれないけど』
必要な物は全て、か。
これではまるで管理されているみたいだ。
「それでは今まで配給されたモノを教えてくれませんか?」
『そうだな〜。
さっき言った補給剤は必ず配給されるよ。
それから、おじちゃん達のような兵士は今使っているような魔導具。
…あ、これは物じゃないんだけど妻かな?』
は?
「えっと、奥さん、ですか?」
『あぁ、そうだよ。
妻、グレイシア。
数年前に会ったきり会ってはないな〜。
そろそろ二人目を作らなくちゃいけないから連絡を取ってみようかな』
妻が配給?
二人目?
「すいません、フランクリンさん。
奥さんが…配給、されたってどういう事ですか?」
『うん?
言葉通りの意味だけど。
妻は元老院が決めた相手で、子供を産んでくれているんだよ。
そうだね、今年でちょうどお嬢ちゃんぐらいの歳になるかな〜』
元老院が決めたって…
それって、もしかして国が恋愛まで管理しているって事なのだろうか。
アカリ
Lv1(78/100)
HP25/54
【ヒールタッチ】
【物理弱点】(92/100)
【無属性弱点】(60/100)
【火属性弱点】(1/100)
【水属性弱点】(7/100)
【風属性弱点】(4/100)
【土属性弱点】(5/100)
【闇属性弱点】(1/100)