第三十九話 憑物の狂乱
『XXXXXXXXXXXXXXXXXXXX!』
「うるさいですね」
まるで獣だ。
私の耳でも言語として聞き取れないから本当に叫んでいるだけ。
まるで周りも狂ってしまえと言わんばかりの叫びは耳だけじゃなく心まで痛むモノがある。
憐れだね、鶴さん。
…私が元凶なんだけどね?
空中で白い手にお手玉されながら気が狂ったように叫び、デタラメに暴れる少年を見上げながら…その奥で蠢く肉塊も目に入る。
私達をグルリと囲んで高速回転している。
上から見れば肉の円が見れる事だろう。
遠くだと肉の壁かな?
ところにより肉の竜巻が発生するでしょう。
…なんてね。
高速のあまり、風まで吹き荒れている状態だ。
さらに地鳴りも伴っている。
立つだけでも一苦労だ。
近付くだけで瀕死になりそうだし、登ろうとして触れれば弾き飛ばされてしまう。
実体験をした私が言うんだ、間違いない。
まるでミキサーの中心に居るのかと思ってしまう。
うわぁ、ハンバーグの元にされちゃう。
肉がすり潰される音が聞こえるから速度に耐久力が追いついてないようだ。
嗅覚もあれば肉の焦げたような匂いも認識できるのではないだろうか。
肉スライムは私に似て、本当に肉だけのようだから血飛沫があがる、なんて事はないみたいだけど。
スプラッタ演出を回避された。
さっきまでの鶴さんの姿から充分なグロ映像は認識しているけど。
ヒートタッチ。
私が肉スライムに使ったスキルだ。
効果は…よく分からない。
突然、肉スライムが私から離れたと思ったら、鶴さんが発狂していた。
言語とは、ほど遠い獣のような鳴き声。
まるで精力剤漬けにされた魚を桶から出した時のように元気に、異常な動きで飛び跳ねて暴れていた。
全身は傷だらけの血みどろ。
…私の知っている血よりも薄い色だけど。
その時には両手両足は関節を無視した曲がり方をしていて所々から骨が飛び出ていた。
目は自ら抉り出したのか左目がプラプラと今にも千切れて落ちてしまいそうで、その近くには丸いモノが転がっていた。
顔は…ノイマンの面影は残っていなかった。
全力で自傷行為に及んでいる姿は理性のカケラもなく狂気しか感じ取れない。
まさに狂乱状態。
すぐにヒールタッチを選択してノイマンの体に触れたが…火事場の馬鹿力でも発揮しているのか体当たりで吹き飛ばされた。
ヒールタッチは最初の時だけ遅いけど、その後は瞬時に治せる。
それでも重傷になれば少しは触れ続けないと完全には治せない。
今のノイマンの体は触れ続けないと治らないほどの損傷だったらしく、吹き飛ばされた後も傷は癒えきってなかった。
だから救済の手でお手玉している訳だ。
…地面に触れていると頭突きやらで自傷行為に励もうとするから常に空中に居るよう工夫してる。
私が動きながら複数の救済の手を使用してる訳だ。
はたから見れば異様な光景だろうね。
それはともかく、ヒールタッチではヒートタッチの症状は改善できない事が分かった。
ヒールタッチで治せるのは外傷だけ。
今は必要ない確証が得られただけだった。
今の鶴さんは正気じゃない。
その上、意識もない。
それはスリープタッチが効かなかったから分かってる。
あれ、既に寝ている相手には効かないし。
気を失って暴れている相手には無力だった訳だ。
つまり、今の私に鶴さんを元に戻す手段はない。
時間が解決してくれる事を祈るしかないのだ。
…新しいスキルでどうにかできるかもだけど、悪化させたら悪いし。
第一、なんで鶴さんが発狂したのか分からない。
私が触れていたのは肉スライム。
つまり、ヒートタッチが発動するのは肉スライムだけだと思っていたのだけど。
とはいえ、肉スライムも鶴さんの一部だとは聞いていた。
もしかしたら、ヒートタッチの効果は肉体じゃなくて精神に作用するのかも。
それなら、個別の肉体、ノイマンの体に入ってる鶴さんにも影響が及んだのかもしれない。
それに、ヒートタッチは解除されない類なのかも。
スリープタッチはヒールタッチに選択を変更すれば強制的に解除されていた。
けれどヒートタッチはヒールタッチやスリープタッチに変えても鶴さんの様子は変わらなかった。
少なくとも仲間に使用するモノじゃないって事は確かだね。
そんな事をしだしたらすぐに地獄が作れちゃう。
今はそんな事を予想立てれても意味がない気がするけどね。
それに。
今の私は力が半減しているに等しい状態だ。
だって、変身能力が使えないもん。
肉スライムの攻防で破れたから新しい服に着替えようとしたら出せなかった。
破れた服は邪魔だったから今の私はすっぽんぽんな状態で正直、羞恥心がヤバイ。
誰も見ている訳じゃないけど、外で裸とか…こんなに頭が爆発するような気持ちになるなんて知りたくなかったな。
なんかゾクゾクしちゃうけど決して露出狂になった訳ではない事は断言したい。
変更能力が使えなくなった原因は分からない。
肉スライムに取り込まれてから使えなくなった。
…違うな。
肉スライムに取り込まれる前から使えなくなったんだ。
でも心当たりはある。
ステータス画面の名前の上にあった数字。
あれが0になってた。
強引に結び付けるなら…変身能力は有限で、あの数値は変身能力の使える残機を表していたのだとしたら。
ゲームならあり得る話だ。
お助けアイテムには有限が回数制限が付き物だしね。
そう考えると納得する。
そして、この数値を回復させる手段は今のところなしって話。
つまり、変身能力については今後から封印って話になるんだよね。
いやぁ、困った困った。
つまり、鶴さんが正気に戻って肉の竜巻を止めてもらうか、それとも新しいスキルを習得するしかここから脱出できないんだよね。
ノイマンを見捨てるには惜しいけど…鶴さんは私を強引に孕ませようとしている訳だし。
つまり、鶴さんは私の敵、容赦しなくて良い存在。
私と話せる人はまだ居るんだ。
ディーダ。
あの子が無事なら私は…
でも、ノイマンが死んだら…
私と話せる魔法が解けてしまうんじゃないだろうか。
話し相手が消えるのはやはり避けたい。
そうなると鶴さんの狂気が治るのを待つしかないのかな。
孕むのは無理だし嫌だって事をはっきり伝えよう。
内臓がない相手に子供を望むのは、ね。
…この際、鶴さんが正気に戻る事は諦めて高速回転している肉スライムをどうにかした方が良いかも。
鶴さんを倒すには肉スライムの処理が必要になるし。
どんなスキルを試してみようかな?
0-0
アカリ388 432
Lv6(708/3200)
HP5/80
【ヒールタッチ】《選択中》
【スリープタッチ】
【ヒートタッチ】
【救済の手】
【 】
【 】
【 】
【 】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(634/1000)
【火属性耐性】(68/1000)
【水属性耐性】(122/1000)
【風属性耐性】(28/1000)
【雷属性無効】(6983/10000)
【土属性耐性】(16/1000)
【光属性耐性】(100/1000)
【闇属性無効】(3/10000)
【力属性無効】(1/10000)
【状態異常無効】(1/10000)




