第二十七話 呪いの対応
「本当…なんですか」
最初に沈黙を破ったのはノイマンだった。
彼はまるで亡霊でも見たかのように目を見開いてかすれた声で私に聞いてくる。
すっごい怯え様だ。
ホラー映画を見た人みたい。
いやいや、もう何日も一緒に居たのに、今さら怖がられても反応に困るよ。
まるで会った最初の頃に戻ったようだ。
「聞きたい事は私がいつからあの箱の中に居た、という事かしら?
確かに、私は帝国、皇帝によってあの箱に閉じ込められました。
…まぁ、貴方達が考えている帝国と私が知っている帝国が同じかどうかは分からないけれど」
「でも…だって…」
質問に答えたがノイマンは信じられないといわんばかりに言葉を紡ごうとするが上手く出ないようでまるで泡のように出ては消えていく。
しまいには言葉から音へ、音からただの口の動きになっていく。
あぁ、ノイマンの悪癖、考え始めると周りが見えなくなる。
ノイマンが大変ショックを受けている事が目に見えて分かる。
…えっと、この事をノイマンに伝えて無かったっけ?
『しっかし、まさかこの娘が長命種だったとは驚きだねぇ。
それもあの黒い涙を受けて呪われてないなんて…
まさしく幸運としか言いようがないよ』
『幸運?
ゾーラヌ、何を馬鹿な事を言ってる!
生きとし生ける者全てを歪めた呪いは!
今も私達を苦しめる元凶は!
そんな、そんな生易しいモノじゃない!』
悲痛な叫び、もはや慟哭していると錯覚してしまいそうなほど、感情が乗せられた声音。
それは狂気さえも感じられた。
それがミイラ、アカラスタから発せられる。
呪いとはなんなのだろうか。
私には呪いが何を指しているのか分からない。
それでも彼女達を長年苦しめている存在だと理解する。
…とりあえず、その呪いにヒールタッチが有効か試して良いですか?
お代は勝手に取りますので気にしないで下さいな。
『…そうよ、運だけで回避できるものじゃない。
これは、もしかしたら…呪いの対処法を知っているのかもしれない』
いきなり静かになったと思ったら、あのミイラとんでもない事を口走った。
いや、全然知らないけど?
呪いの存在も知らない相手に対処法を求めるのは酷な話だと思うよ。
という訳で私に呪いの話をしてくれ。
呪いと言われたら石化しか思いつかない。
呪いもファンタジーの一部、呪術という魔法の結果。
その結果が目の前に居る。
そりゃ恐怖と隣同士な好奇心が疼く。
はいっ、ま、ほ、う!
それっ、ま、ほ、う!
不謹慎?
は、何それ聞いた事ないね!
『呪いの…対処法が、あるって?
それは本当に素晴らしい事じゃないかい!?
なら、これからは男達を処分しなくも良くなるんだね!
子供達に薬を飲ませなくても良くなる!』
…へ?
男を、処分?
子供に薬?
何を…言ってるんだ?
思わずノイマンの方を見るが、未だに放心状態で聞く事は難しそうだ。
いや、めっちゃ気になる言葉が出てきたんですけど!?
翻訳、翻訳して!
私の質問をあっちに翻訳して!
ヘルプミー、私を助けろ!
いつまで考え込んでんだよ?
…ディーダみたいに物理的に正気に戻してやろうか、こいつ!
男を処分って!
え、なんかそういえば、男の子が女の子に対して数が少なかったような…
いやいや、大人は働きに行ってるって、ノイマンは言ってたじゃないか。
気のせい…だよね?
子供の時って見た目で性別がはっきりとしない中性な時期があるじゃない?
第二次成長期を迎えてないってだけでさ。
毛とか鱗とかもろもろ付いてたから私が判断できてなかっただけだよね?
…え、何このホラー展開。
私が求めていたのは科学の代わりに魔法が繁栄した異世界ファンタジーなのだけれど。
男は処分されるって…え、それって女性が多いハーレム世界では?
そして、私も見知らぬ男のハーレム候補者の一人って訳か。
…いやはや、元男としては心躍…ゾッとしない話だ。
なんなら私は永遠に結ばれなくても良いぞ?
でもそうなると目の前で呆けているノイマンがハーレムを築く未来があるって訳か。
…嫁の全員から尻に敷かれて今にも泣きそうなハーレムヘタレ野郎というイメージが湧いて思わず声を出して笑ってしまった。
『何を嗤っている。
…あぁ、そうだ、そうだったな!
浅ましくも人の心を覗く力を持っているそうだな!
そんなに呪われた者の嘆きが可笑しいか!』
あ…やっべ…
興奮してる相手を煽ってしまった。
呪いは見たいのであって笑いたい訳じゃないのだ。
「いや、誤解…」
『は、はは!
…ぃ、もういい!
ならば…我が身を蝕む呪いをとくと味わうが良い!』
『アカラスタ!?
ノイマンッ!』
アカラスタは私の言い分にも聞く耳を貸さない様子で顔に巻きつけた緩め始めた。
それをギョッとした表情で見たゾーラヌはノイマンを自分の方に引っ張り込み、壁に突進して壊してその奥へと脱兎の如く隠れてしまった。
生肉スライムもツノを突かれたカタツムリのように急いで黒い鍋の中に潜り込んでいく。
《闇属性の魔力を入手しました》
私もその様子に嫌な予感を覚え後ろの柵の方に逃げようとしたが金縛りにあったように体が動かない。
アカラスタの顔を巻いていた布が床へと落ちていく。
逆さの状態のアカラスタの素顔が見えた。
いや、あれは本当に素顔なのか?
目だ。
元の肌色が分からなくほどの色も大きさも様々な大量の目。
まるで仮面のように顔全体に目のような刺青が彫ってあった。
髪がないから余計に作り物めいて見える。
しかし、立体感の無いそれはギロリギロリと四方八方に蠢いている。
まるで顔に投影された映像のように。
ぐらりと、動かなかった体が傾いていく。
倒れる前にべしゃりと液体をぶち撒けたような音が聞こえた。
視界の隅で人の腕がゆっくりと回転しながら飛んでいくのがはっきりと見える。
誰のだろうか。
…あぁ、私のか。
お腹に違和感を覚えると同時に何かが突き破って飛び出してきた。
寄生虫かエイリアンかよ。
アカラスタから布が落ちていく。
肩、腕、胴体…全てに目が描かれていた。
まるで虫の大群が人に群がっているような有様だ。
バキバキと音を立てながら頭が潰れていくのを自覚する。
しかし、意識はまだある。
HPを全損していないからだろう。
ステータス画面を見なくても分かる。
体の至る所が砕け、裂かれ、拗られ、壊されていく。
押し潰され、引き裂かれ、捻じ切られる。
再生する間もなく、私という存在が細切れにされていく。
物理無効もアカラスタの呪いとやらには効果がないようだ。
痛みはないが体が無くなっていく事を体験しながら私は冷静だった。
…だって、私は死なない。
綺麗に再生するのだから怖がる必要はない。
でもどんな感じで私が壊されていくのか見たかったな。
あれでしょ、ゾン…
《瀕死状態になりました》
《復活まであと1:00:00》
《復活まであと0:59:59》
《復活まであと0:59:58》
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
アカリ
Lv3(386/400)
HP80/80
【ヒールタッチ】
【スリープタッチ】《選択中》
【救済の手】
【物理無効】(1/10000)
【無属性耐性】(297/1000)
【火属性耐性】(42/1000)
【水属性耐性】(24/1000)
【風属性弱点】(26/100)
【雷属性弱点】(1/100)
【土属性弱点】(53/100)
【光属性耐性】(90/1000)
【闇属性無効】(1/10000)
【状態異常無効】(1/10000)




