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11 イケメン女子、西浦真帆 -2-

『今、バスに乗った』

『電車待ってる』

『電車に乗った』


 進むたびに連絡を入れる。


『うん』

『待ってる』

『うん』


 と返信が来る。

 この距離がもどかしい。母は『車で行ったら二十分かからなかったわよ』なんて言ってたけど、バスや電車を使うと待ち時間もあるし遠回りになるからやたらに時間がかかる。


『今、改札出た。すぐに行きます』


 立ち止まってそれだけ打つ時間も惜しい。

 私も早く青柳先生に会いたい。



 警察署のところを曲がって、後はマンションまでまっすぐ。

 青柳先生の部屋を見る。窓のカーテンが少し開いている。人影が見える気がする。先生、もしかしてこっちを見てる? 私のこと、探してる?

 手を振ってみた。周りを歩いている人が怪訝そうに私を見たけど気にしない。青柳先生の方が大事。


 ……あれ、カーテン閉まった?

 気のせいかな? それともこっちを見ていると思ったことが気のせい?

 待っててくれるんだよね。会いたいって言ってくれたもんね。


 まさか別れ話するために会いたいとかじゃないよね。

 不吉な予感が頭を横切って、あわてて頭を振った。いかん、青柳先生のネガティブがうつっている。ポジティブに、もっとポジティブにいかないと。

 でも微熱あるのに早歩きしたせいか、ちょっとクラクラしてきた。



 マンションのエントランスに入る。インターフォンで青柳先生を呼ばなくちゃ。

 すぐに出てくれるといい。もし出てくれなかったりしたら、インターフォン越しに別れ話されたりしたらと思うと震えそうになる。

 大丈夫、待ってくれてるはず、待ってくれてるはず、待ってくれてるはず。

 部屋番号を押そうと操作パネルに指を伸ばした時、


「真帆ちゃん!」


 自動ドアが開いて背の高い人影が飛び出してきた。

 そのまま抱きしめられる。

「真帆ちゃん、真帆ちゃん、真帆ちゃん」


 待って。落ち着いて、青柳先生。

 嬉しいけど。エレベーターホールまで降りてきて待っててくれたの嬉しいけど、今、真昼間。ここ、共用スペース。道路からも多分見える。人も通るかもしれないし、先生の今の行動って不審者ギリギリだったから。


「あ、あの、先生。と、とりあえずおうちに……」

「真帆ちゃん。会いたかったです」

 泣きそうな顔するなや、良馬三十一歳。

「もう会えないかと……会わす顔がないって……」

 何でそんなに思いつめた、いったい?


「あ、あの、とにかくおうちに」

「キスしてもいいですか」

「まずはおうちに入れてくださいっ」

 落ち着け!


 ちょうどそこへ小さい女の子を連れた住人らしい女性が買い物袋を持ってエントランスに入ってきた。

 自動ドアの前で揉めている(っぽく見える)私たちを微妙な表情で見る。


「こ、こんにちは」

 とりあえず挨拶してみた。

「……こんにちは」

 女性もあいさつを返してくれる。私は青柳先生を突っついた。


「ほら先生、早く自動ドア開けてください」

「え、でも」

「でもじゃない。早く」

 渋る理由ないでしょうが。部屋に別の彼女でも隠してるんですか。


 先生が鍵を使って自動ドアを開ける。

 子供連れの女性がポストの中を確認しているうちにエレベーターに乗った。

「乗りますか?」

 と聞くと、

「あ、はい、すみません」

 と答えが返ってくる。エレベーターの『開』ボタンを押して待つ。


「ありがとうございます」

 女の子が目を大きく開いて私たちの顔を見ている。かわいいな。

「何階ですか?」

 とたずねると、

「九階です」

 と言われた。青柳先生の家の上の階か。


 9のボタンを押すと、

「あー」

 という声がした。振り向くと、女の子が不満そうな顔をしている。

「ごめんなさい。この子、今エレベーターのボタンを押すのがマイブームで」

 女性が急いでフォローしてくる。

「ほら。そんな顔しないで、お姉ちゃんにありがとうって言いなさい」


 子供の楽しみを奪ってしまったか。そこは予想外だった。

「いえ、気が付かなくてすみません。ごめんね」

「大丈夫です。ほらマコ、ありがとうは」

「マコちゃんて言うんですか。ちょっと私の名前と似てる」

「あ、そうなんですか?」

「真帆って言うんです」


 そんなことを話しているうちにエレベーターは八階へ。

 親子連れと会釈して別れた。



「すごいですね真帆ちゃん」

 青柳先生がため息をつくように言った。

「何がですか」

「そのコミュ力。……今の人、会ったことあると思うんですけど、初めて話しました」

 あなたは話してなかったけどね。というツッコミはなしにしておいてあげよう。そして今のは感心されるほどのコミュ力だったのだろうかというツッコミも控えておこう。


「挨拶も……したことなかったかも……」

「挨拶はしましょうよ」

 人として。


 そんなことを話しながら先生が部屋の鍵を開け、やっと中に入れてもらえた。落ち着く。

「真帆ちゃん……」

 鍵を閉めたと同時に顔が近付いてくるんですが。


「あっ、あの、先生。風邪うつる。私、まだ微熱が」

「かまわないです」

「でも先生、歌う人なのに」

「かまわないです」


 うつさないようにマスクして来たのに、はずされた。

 そしてキスされた。

 長かった。



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