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6 メンタル激弱、青柳良馬(再) -1-

「いらっしゃい、待ってました」

 夕方、青柳先生の家に行くと玄関で出迎えられた。ここのところずっと先生は曲作りに没頭していて、私のことは放置プレイ気味だったのに。


「こんにちは、お邪魔します。ちゃんとお弁当食べました?」

「食べました食べました。今日も美味しかったです。僕、梅味好きなんです」

 ささみの梅味フライが好評だった様子。なるほど、だんだん青柳先生の好みが分かってきたかな。


 生野菜は嫌い、丸ごとの海産物はイヤ(アレルギーとかじゃなくて見た目がイヤみたい)、でも温野菜とか切り身だったらOK。

 思ったより偏食じゃなくて良かった……ん? 先生、何をニヤニヤしてるの?


「あの……今日は真帆さんにプレゼントがあって……」

「あ、曲できたんですか?」

 だからお迎えしてくれてるのか。

「あ、それもそうなんですけど……とりあえず曲は納得のいく形になったので、細かいアレンジとかはまだこれからですけど……あの、そうじゃなくて……」


 青柳先生は後ろ手に隠していた包みを、勢いよく私に向かって差し出した。

「あのっ、これ。気に入るといいんですけどっ」

 赤いラッピングの平たい包みだ。そこそこ大きいけど、なんだろ?

「はあ。ありがとうございます」

 とりあえず受け取らせていただいた。


「開けてみてください」

 期待で目をキラキラさせて言う青柳先生。それはいいんだけど、私、家に上げてはいただけないのだろうか。先生が立ちはだかってるせいでまだ靴も脱がせてもらってない。


 仕方ないので、その状態のままでプレゼントの包みを開けさせてもらった。えーとこれは。

「パジャマ?」

 うんうんとうなずく青柳先生。

「あの、添い寝していただく時に服がしわになるのを心配してるみたいだったので。ここで着る用にと思って探していたら、いいのがあったので」


 添 い 寝 用 。

 曲作り終わったんだよね? それなのにこれからも添い寝させる気なのかこの人は。

 付き合ってまだ十日経ってないんだけど、何というか着々とそっちの方向への道筋を整えられている気がするよ。


 パジャマ自体はやわらかなスカイブルーで、可愛い猫のイラストがプリントされていて好みだ。

 ビニールから出してみる。襟ぐりがゆったりしたラウンドネックで、上衣の丈はお尻が隠れるくらい長め。ボトムは結構ショート。青柳先生、こういうのが好きなのかな。

 ……そういえばこの人は私の太ももをエロい目で見ているんだったな。


「あ、あの、ど、どうでしょうか。気に入った……?」

 先生の顔が期待と不安ですごいことになってる。冷や汗までかいてる。大丈夫かこの人、少し運動とかさせた方がいいのかな。

 私は安心させるように笑顔を浮かべる。パジャマはホントに可愛いし。青柳先生の下心はともかくとして。


「気に入りました。ありがとうございます」

「ほ、ホントに? 本当ですか?」

 毎度のことだが疑り深い。

「本当です。すごく可愛いです」

「ホントですね?」

 確認の回数が多い。


「よ、良かったあ。女の子にプレゼントするなんて初めてだから、気に入ってもらえなかったらどうしようかと」

 大きくため息をついて、胸をなでおろす先生。

 うん、いっぱいいっぱいだったのは分かった。分かったから、そろそろ私を部屋に入れてもらえないかな。


「あの」

 先生は食いついて来そうな勢いで私を見る。

「着てもらえないでしょうか」

「はいっ? 今?」

 まだ外、明るいんだけど。来て五分でいきなりパジャマになるの?


「ダメでしょうか。あの、気に食わなかったのでしたらはっきりそう言っていただいても……」

 勝手に抱いた絶望を全部表情に出すのやめて。

「分かりました、着させていただきますから!」

 パジャマ自体は気に入ってるんだよホントに。そこは信じて。



 ようやく部屋に上げてもらえ、寝室で着替えることになった。やれやれ、私も青柳先生のわがままに弱いよなあ。……あ。


「すみません青柳先生、タグ切るのにハサミを」

「えっ? あ、はい、ハサミですね。すぐ持ってきます」

 ドアのすぐ横で全力待機されてた。どれだけ楽しみにしてるんだ。


 ハサミを受け取って寝室に戻る。さて、シャツを脱ごうか。

「……青柳先生?」

 脱ぐ前にもう一度、ドアを開けた。

「はい。他に何か必要ですか?」

「そうじゃなくて」


 さすがにちょっと疑う目で見るぞ。

「のぞかないでくださいね?」

「えっ」

 露骨に目をそらした。

「いえ……そんなことは……別に……僕は……」

 あ、疑われたのにビビッて泣きそうな顔にならない。やましいところあるんだ。よく覚えておこう。



 ベッドの傍で、もそもそ着替える。

 きちんと片付いた部屋の中に、開けっぱなしの段ボール箱が放置してあった。某大手通販のものだ。

 そうだよね、引きこもりの青柳先生が外にプレゼントを買いに行ったりするわけないもんね。当然、通販だよね。


 丈は……ボトムの方はショートだから問題ないとして。パジャマだし胸周りもゆったりしてるから問題ないとして。

 袖丈……割と合ってる。あれ、私、服のサイズとか聞かれたことないよね。

 怖っ。どうやって私のサイズ割り出したんだ、あの人。



「えっと……真帆さんがトイレに行っている時に、置いてあったカーディガンのサイズを見て……」

 パジャマ姿の私を見た先生が萌え萌えになり『可愛いです』を連発し、抱きしめて、更に調子に乗って抱き上げようとして、危うく腰を痛めそうになったりという大騒ぎがあった後。


出来るだけ優しくサイズ問題について問いただしたところ、そんな答えが返ってきた。(もちろん目は泳いでいる)

 さりげなくチェックされていたよ。その行動にうちの母味を感じる。そうか、恋愛相手に家族に似た人を選んでしまうとかいう話は本当だったのか。

 ……何だか複雑な気分になった。


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