4 ネットミュージシャン、blue blue blue -2-
か、顔が。顔が爆発するかと思った。
一気に頭に血が昇りすぎて言葉と思考がふっとんで、何が何だか分からなくなる。
私がいつまでも黙っているので、青柳先生の様子があやしくなってきた。
「あ、あれ。ご、ごめんなさい……興味なかったですか……ないですよねごめんなさい……僕の曲とかどうでもいいですよね……。あっそういえば、創作物のプレゼントは最悪だって聞いたことがあったかも……ご、ごめんなさい……」
いやそれ、もっと微妙な人の場合。あなたは自分の作品に自信持っていい人だよ。
私は今、状況がすごすぎてパニックで口をきけないだけだから。
「す、すみません。寝てないから深夜テンションだったかも……あの、真帆さんから寝ろって言われた後も結局眠れなくて、ずっと曲いじってたし……ご、ごめんなさい……」
放っておくと先生がどこまでも落ち込んでいく。
「嬉しいです」
ようやく小さな声で言えた。
「えっ」
先生は顔を上げる。メンタル弱いけど耳はいいみたい。耳ざといと言うべきか。
「すごく嬉しいです。感動し過ぎて何も言えなかったんです」
こんなこと言うのは恥ずかしいんだけど。私が赤くなってる時点で気付いてほしいなあ。
「私、青柳先生の曲も歌も詞も全部大好きだから……。あの、生演奏と生歌聴けるだけで夢みたいだったんですけど、今その話を聞いて何て言ったらいいか分からないくらい嬉しいです」
「ほ、ホントですか。僕を慰めるために無理してませんか」
「本当です」
「ほ、ホントに? 絶対?」
疑り深いなあ。もう少し自分の才能に自信を持ってほしい。
「絶対」
と言ったら、
「よ、良かったあ」
ガバッと抱きしめられた。うわああっ。
「あの……ま、真帆さんをこうやって思いっきり抱きしめたくって……。その気持ちを曲にしたくって……でもまとまらなくって……。あ、ごめんなさい、こんなこと言うともしかしてキモい?」
「キモくないです」
恥ずかしいけど。
ヤバい、恥ずかしすぎて青柳先生の顔が見られない。
「本当に?」
「本当……」
「真帆さん?」
私が下を向いているので先生の声が心配そうになる。
「あの、嫌でしたか。あっ……昨日、こういうことしないでって言われましたねそう言えば!」
あわてて私を離そうとする青柳先生。
「そこまで言ってないです」
段階を踏んでくれって言っただけだ。
顔を上げないまま、離してほしくなくて先生のTシャツをギュッとつかんだ。
お付き合いする人が出来たって小夜ちゃんに話した時、
『どんな人?』
って聞かれて、まさか blue blue blue その人とはさすがに言えないし、
『バイト先で知り合った人』
と答えた。
『社員? バイト仲間?』
『どっちでもない。お客様っていうか』
『ふーん。大人なんだ。何で付き合うことになったの?』
『実は、脚立から落ちた時にそこにいた。って言うか、その人のせいで落ちた』
と言ったら小夜ちゃんが爆笑した。
『おっかしー。何か真帆ちゃんらしー』
私らしさとはいったい。
『今度紹介してよ』
と言われたのにはしかし困った。隠れ有名人であることは別としても、青柳先生は引きこもりのチキンハートだ。
『うーん……その人、すごい人見知りで……それに、まだ続くか分からないし』
と答えたら、
『ふーん。じゃ、別に先でもいいけど』
小夜ちゃんは軽くそう言った。
だけど別れ際に、
『真帆ちゃんさあ。その人のこと、好きで付き合うんだよね?』
って聞かれた。
『本当に好きなら、続くか分からないとか言わない方がいいよ。私、中高の頃からいろんなカップル見たけどさ。そう言うこというヤツ、やっぱりみんな続かなかったよ。好きなら何が何でも捕まえて離さない、それくらいじゃないとダメなんじゃないのかなあ』
その言葉は恥ずかしがって逃げ道を探そうとする私に突き刺さった。
青柳先生はチキンハートだから、ちょっとのことですぐ逃げ腰になってしまう。私も同じようにしていたら、この恋はきっとあっという間に終わってしまうのだろう。
先生のすがるような目にほだされたとは言え、自分で付き合いたいと思ったから付き合うことにしたんだ。だったらしっかりせねば、女がすたる。
「こうしてくれるの嬉しいです。だけど」
それでもまだ恥ずかしいから、先生の胸に顔をうずめて言う。
「青柳先生の歌も曲も好きですけど、ホントは放りっぱなしなの寂しかったです」
そんなこと言うのは好きだって言うより恥ずかしい。でも伝えた方がきっといい……かもしれない。
「えっ」
青柳先生はそわそわした様子になった。
「そ、それは考えてませんでした。ごめんなさい……僕、作業始めると夢中になっちゃうからなあ。そういえば実家にいた時もよく母親に怒られてました。食事とかも食べなくなっちゃうし」
「えっ」
私は思わず顔を上げて先生を見てしまった。
「食事はしないとダメですよ」
「うーん、なんか面倒くさくなっちゃうんですよね。寝る時間も惜しくなっちゃうし」
だから寝てないのかこの人は?
「あの……」
何だか嫌な予感がして聞いてみる。
「ちなみに、動画一本作るのにどのくらい時間をかけてるんですか?」
「え?」
先生はきょとんとした。
「ええと、アレンジまで全部だと早くて一週間くらい? 一ヶ月くらいかけることもありますけど。でも曲ができちゃえば歌詞とか映像とかは休みながら適当にやるから、根を詰めるのは曲の時だけ……」
「寝てくださいっ! あとご飯食べてっ!」
ツッコミが悲鳴になった。
命削って創作してる人だコレ!
「え? 別に大丈夫ですよ、一週間くらい食べなくても」
いや長期的に見たら絶対良くないから。
「ダメです。あと今すぐ眠って!」
睡眠大事。
「えーでも、寝ちゃうとせっかくのイメージが分散しちゃうような気がするし」
「どうせ進んでなかったじゃないですか。眠ってリセットした方が効率いいですよ絶対」
「でも、僕ずーっとこうやって来たし。大丈夫ですよ」
親御さん、なぜこの息子を家から出した。ひとり暮らしさせちゃダメな人だこの人。
「ダメ。絶対ダメ。明日、ご飯持ってきますからとにかく今日は寝て」
「だって、曲が途中だと気になって眠れないですよ」
「それでも寝てください」
「でも真帆さん、僕の曲気に入ってくれたって言うし……早く完成版を聴かせたいし……」
「曲より青柳先生の健康の方が大事ですっ!」
青柳先生はうーんと言って天井を見上げた。
それから、チラッと視線だけを腕の中の私にやる。
「あの……」
「何ですか?」
「ダメだったらいいんですけど……」
「だから何ですか」
またチラッと私を見て、すぐに目をそらす。
「真帆さんが添い寝してくれたら、もしかして眠れるかなーとか」
「はいっ?!」
ものすごい声出ちゃった。
「あ、えーと」
すぐ目を泳がせて逃げ腰になる青柳先生。
「ホントにあの、ダメだったらいいので。言ってみただけなので」
こーのーひーとーはーーー。
「……ちゃんと寝ますか?」
「え?」
「添い寝したら、ちゃんと寝ますか?!」
怒鳴っちゃったよ。
「あ、は、はい。寝ます。眠ります」
「じゃあ」
私は真っ赤な顔で言った。
「本当に、添い寝するだけですからね?」
もう一度、力いっぱい抱きしめられた。
「キスしちゃダメですか?」
「……キスだけならいいです」
「おっぱい揉むのは」
「……ちょっとだけなら」
青柳先生のエッチ。
ベッドで横になって、初めて先生からキスされた。
わざわざ人にやり方をきいただけあって、甘くて長くて熱いキスだった。
でも先生、あの裏アカきっと中高生だと思われてるよ。
『そんなことばっかり考えてないで勉強しなさい(笑)』
ってリプしてる人いたもんね。




