3 当ててくる系男子、藤倉玲 -2-
「真帆ちゃん、私、隠し事されるのは嫌だな」
小夜ちゃんが真剣な顔で言う。うん……さっき話そうとしていたんだけれどね。
「大丈夫だよ中森さん」
藤倉くんがにっこり笑った。
「俺がいなくなれば、西浦さんは中森さんには話すと思うよ。俺がいるから話しづらいんでしょ? さっきから俺のこと睨んでるもんね」
分かっているなら立ち去れ藤倉。
「ああ、そうなの? そうなんだ真帆ちゃん」
「うん……まあ……」
私は藤倉を睨みながら言った。
「そうだったんだ。じゃあ藤倉くん、どっか行って」
ダイレクトに言ったな小夜ちゃん。そういうところ大好き!
「嫌だよ。何で俺が居座ってると思ってるの?」
しかし小夜ちゃんのダイレクト要求にあっさり首を横に振る藤倉。
「普段は竹を割ったようなきっぱりした性格の西浦さんが、妙におたおたしてるのが見てて面白いからじゃないか。何だかすごくそそられるよね。これはもう、隠してることを吐かせないと立ち去れないだろ?」
何を言ってるんですかお前は。
「そうなんだ。それじゃ仕方ないね」
小夜ちゃんも納得しないで。
「じゃあ、真帆ちゃん話そう。大丈夫、藤倉くんがいても私は気にしないよ」
「私が気にするんだよ」
どうしてお昼の学食で、私は二人から尋問を受けているのだろうか。状況がおかしい。
「うーん。なかなか話してくれないね。この調子じゃ昼休みが終わっちゃうから、少し推理してみようか」
腕を組む藤倉。推理しなくていい、名探偵かお前は。
「俺が思うにズバリ……西浦さん、好きな男が出来たでしょ」
何で分かるの?!
「ちょっと。推理するって言うならもう少しまともに考えてよ藤倉くん」
だが小夜ちゃんの藤倉を見る目は冷ややかだった。
「安直すぎるでしょ。ネタにしてもスベってるし。真面目にやったら?」
「はは、定番過ぎたか」
え、ネタだったの? 焦って損した。
「でも西浦さんはすごく焦ってるみたいだけどね?」
私を見てニヤリと笑う藤倉。
「えっ嘘。えっ真帆ちゃん? 何でツッコまないの?」
あっ今ツッコむべきだったのか。焦ってタイミングを見失った。
「そ、そうなんだ。まったく恋愛に興味なかった真帆ちゃんが……」
勝手に確定された。いや合ってるんだけど事実なんだけど、推測だけで確定されていくの辛いな?
「うーん。もしかしたらもう一歩踏み込んでみてもいいかもしれない」
そして私の反応を見て、また首をかしげるのやめて藤倉。
「ズバリ男が出来た! そうだろう西浦さん」
何で何も言ってないのに当ててくるの!
「あ、反論しない。そうなんだ」
「そうなの真帆ちゃん」
あああ墓穴掘った私のバカ。っていうか普段の私ってそんなにツッコミ速いのか。こんな時にそんな事実知らせてもらわなくてもよかった。
「そうかー、そうなんだ、残念。もしかしたら西浦さんならワンチャンあるかもって思ってたのに」
何故そう思っていた。ないよお前なんかとは完璧に。
「真帆ちゃん、彼氏とか作る気なさそうだったから意外。というか、真帆ちゃん自身が彼氏にしたいタイプだから男と並んでるところ想像できない」
小夜ちゃん、サラッと何言ってんの? そういうのは女子校で卒業したと思ってたよ、そんなこと考えてたの?
「ほらなんて言うか……真帆ちゃんって現実には存在しない、少女マンガの中にだけいるイケメン少年みたいな感じするじゃない」
「いや私、現実に存在してるからね? あと普通に女だからね小夜ちゃん」
「知ってるけど。そういうイメージなんだよ」
男役スター扱いやめて。
「大丈夫大丈夫。おたおたしてる西浦さん、可愛いよ」
「藤倉くんちょっと黙って」
イラっと来て言うと、彼はますます顔をほころばせた。
「ああ、やっといつもの西浦さんになった」
普段の私って、そんなにツンツンしてますか。
「あ、そういえばさ。元々はこの話をしに来たんだ。ほら、西浦さんの好きな青……」
心臓止まるかと思った。何なのこの男、まさか青柳先生のことまでバレてるの? もしかしてストーカーなのコイツ。
「……じゃなかったっけ。藍? 緑? 違うな、ブルー?」
「blue blue blue じゃないの」
小夜ちゃんが口を出した。
「真帆ちゃんが好きなネットミュージシャン」
「ああ、それそれ」
そ……そっちか。ビビった。ダメだ私、青柳先生のことチキンハートってバカに出来ないや。
「その blue blue blue さ、新曲出るみたいだね」
「えっ嘘。四月に新しいのアップしたばっかりじゃない」
瞬速で食いついてしまった。だって好きなんだもん。
青柳先生、もとい blue blue blue はそんなにしょっちゅう新曲を出してくれるわけではない。
基本は半年に一本くらいのペース。気が向けば旧作のニューアレンジがその間に入ってくるくらいだ。私たちファンはその日が来るのをよだれをたらしながらひたすら待ち続けるのである。
「あれ、知らないの」
藤倉くんは怪訝な顔をする。
「西浦さんなら当然チェックしてると思ってた。俺、SNS の公式アカウントで見たんだけど」
「えっホント」
あの、めったに更新されない公式アカウント?
新しい曲をアップした時か、(今にして思うとおそらく青柳先生がものすごくハイな時に)たまーに近況報告みたいなのがポツリポツリと載る、あの公式アカウント?
私は急いで SNS をチェックした。昨日、裏アカ教えてもらったから今朝はそっちしか見てなかった。
ちなみに裏アカだと青柳先生はものすごく饒舌で、たくさんの知らない人ともリプのやり取りとかしてた。(でもちょっとでもアウトなこと言われると即ブロックしてて、ブロックアカウント数もとんでもないことになっていた)
ホントだー、更新してる。しかも朝の五時とかすごい時間に。
5:04 blue blue blue(公式)
昨日、とっても嬉しいことがあってテンション高いです。
眠れずにいたら素敵なメロディーが降ってきたので、早めに形にして皆さんに届けられたらと思っています。
一晩中起きてたのかい。落ち着け先生。私は眠ったよ。
そのまま裏アカをチェック。
10:42 りょー
ちょっと興味本位で聞きたいんだけど、キスってどうやったらうまくなるのかな?
……落差。
午前中から何を呟いてるんですかあの人は。恥ずかしいわ、寝ろ!
しかもリプいっぱいついて会話延々続いてるし。この国にはどれだけヒマ人が多いんだよ。
返信してやる。
『りょー さん に返信しますか? → Yes』
12:51 まほ@男役スター
寝てください。
アカ名は自虐だよ。昨日教えたらめちゃくちゃ笑われたけど。呼吸困難になるまで笑われたけど。
リプ返すぐ来た。
12:51 りょー
えっ……あっ……あの……見た……?
速い。速いよ、氏原かあなたは。
そして当然、見たからリプしてるわけである。
12:52 まほ@男役スター
寝てください。
12:54 りょー
……はい。
中学生かあなたは。見られて困るなら裏アカとか教えなくていいから。
「……何やってんの?」
声かけられてビックリした。藤倉と小夜ちゃんいたの忘れてた。
「どうしたの、新曲情報嬉しすぎて本人にリプ?」
うんまあ、ある意味そう。
「真帆ちゃんはホント、blue blue blue が好きだねえ」
「うんまあ……好き」
それも、ホント。
「ふーん」
そしてまた、意味ありげに呟く藤倉。
「西浦さんの男って、名前に『アオ』がつくのかあ」
なぜそれを!
「そんなビックリした顔しなくても。さっき俺が blue blue blue の名前思い出せなくて『青』って言った時に、異様に反応してたでしょ。分かるって」
あああ、私の墓穴掘り。
「青木、青井……うーん、うちの学科じゃないか?」
「名前の方かもよ。碧人とか、蒼くんって名前の男の人いるじゃない」
小夜ちゃんまで、そんな熱心に可能性を探求しなくていいから。
「それにしても」
二人は笑顔で私を見た。
「真帆ちゃんって」
「西浦さんって」
声がハモる。
「ホントに『青』が好きだねえ!」
……はい。
好きです、『青』。




