軍勢&迷子
「いたな、あいつか」
「おい、あのガキに一人やられてるぜ」
こちらを指さし、口々に言いながら盗賊たちが寄ってくる。
町の不良の集団と比べれば、それほど怖くない気がするなぁ。
相手が不良以下なのか、戦う力があるからなのか。
「サモン、ポーン!」
こりずに、先ほどやられたポーン2体を補充する。
召喚中に使用されているマナは、どうやらユニットが倒されると即座に回復するみたいだ。
意識してなかったが、毎ターン戦闘後にポーンを召喚できてるしね。
……マナ切れでぶっ倒れるとか、ないよな?
「なんだありゃ?」
「ガキがゴーレムでも呼んでるんだろ、生意気な!」
「ゴーレムにしては、手足もないしお粗末だよな」
お粗末と言われたポーンが怒ったような気がするが、それはさておきターンエンド。
襲ってくる盗賊の攻撃を、ポーン2体でブロックする。
2体が相打ち。盗賊は気絶し、ポーンが消滅した。
続く3人目の攻撃を、なんとか盾で受ける。
「い、いてぇぇぇ」
左腕がじんじんする、受け止めてもこんなに痛いのか!
これが、体力1点分の痛みなんだろうか?
それとも、体力の数値とか関係なく、一瞬の油断で死ぬんだろうか?
この痛みを10回くらったときに、死ぬのかどうか。
試すには怖いし、今度ローラに聞いておこう。
いったいどこまでがエリート&フォースに依存し、どこからが現実に従うのか。
オレにとって、非常に大事な問題だからな。
ともあれ、これで相手もターンエンドとなったようで、オレのターンが回ってくる。
「マナチャージ、キープコスト、ドローフェイズ!」
家をぐるりと回って盗賊たちから逃げつつ、捕らわれた村人たちの近くへ向かいながらカードを引く。
引いたのは、ユニットが2枚。ただし片方はポーンではなかった。
嬉しい……のか?
どうなんだろう。微妙な気分だ。
残っていた盗賊が村人達に武器を向ける。
「とまれ、人質がどうなってもいいのか!」
背後から迫る他の盗賊たちの足音を聞きながら、足を止めて一枚のカードを翳す。
「どうなっても良くないよ。
だから、村人達には避難してもらわないとな!」
「なにぃ?」
ローラがくれたカードだ、必ずできるさ。失敗なんかありえない!
「スペル【迷子の軍勢】
軍勢:獣人の村人たちを対象に、効果を発動する!」
翳したカードが光を放ち、捕らわれていた村人たちの周囲を光の輪が囲む。
「うおっ、なんだこりゃ?」
思わず盗賊が一歩離れた瞬間、光が弾けて―――
『スペル【迷子の軍勢】の効果により、対象の軍勢:獣人の村人たちは3ターンの間、戦闘領域から隔離されました』
「ばかな、消えた!?」
「よし!」
機械的に実況するローラに、笑顔で親指を立てる。
予定通りだ、さすがローラ!
「サモン、ポーン!」
相変わらず、ポーンを1体召喚。
でも後続に追いつかれるとやばいな、やっぱり村から出てゲリラ戦法の方がいいのかな?
「ターンエンド!」
今更だが。エリート&フォースにおける、軍勢カードとは何か?
軍勢カードというのは、一言で言うなら群れを表現したカードだ。
一匹だけのゴブリンは精鋭だが、ゴブリン盗賊団なら軍勢カード。
『近衛騎士の山本さん』は精鋭カードだが『近衛騎士団 山本ふぁみりーず』なら軍勢カードという具合だ。
今回使ったスペルは、これ。
【迷子の軍勢】 レベル1 スペル
3ターンの間、対象の味方軍勢ユニットは、防御を含めて全ての行動が不可能となる。
3ターンの間、対象の味方軍勢ユニットは、攻撃および特殊能力の対象とならない。
味方の軍勢を、何もできず、何もされない状況とするスペル。
通常のデュエルでは、基本的に特殊能力を持たず、直接戦闘を得意とする軍勢を隔離する意味は薄い。
だが今回は、村人たちを1つの『群れ』と扱うことで、軍勢ユニットとした。
これにより迷子の軍勢の対象となり、見事に村人たちを隔離することができたわけだ。
消滅したのはびっくりしました。
でも3ターンしたら戻ってくるわけだから……ゲリラ戦法したら駄目じゃん!
3ターンって意外とすぐだよな。
マップを見て、改めて赤い点を数える。
目の前に人質の見張りだった盗賊が1人、
追いかけてくる盗賊が……5人
毎ターン2人ずつ倒せればいけるな!
「てめぇこのガキ、獣人をどこにやりやがった!」
「悪党に教えるわけないだろ?」
「くそガキめ、ふんじばって吐かせてやる!」
襲いかかってくる見張りをポーンで迎撃する。
いつも通り相打ち、ターンが巡る。
残り盗賊、5人。こちらのユニットは無し。
さあ、ここが正念場だ!