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記録

 日本からの質問メールが一段落ついたと思ったら、日本から金庫と大量の紙の資料が届いた。

 金庫と言っても、現金を入れる金庫ではなく、クレジットカードのICカードの部分だけを256枚挿すことができると書いている。

 資料によると、金庫に入れるICカードはMondexだ。

 そして、金庫にはRS-232Cポートが付いていて、制御できるようだ…

 金庫というより、多くのICカードをコンピュータから制御するためのデバイスだな。


 Mondexはナショナル・ウエストミンスター銀行などが開発した電子マネーでICカード同士で電子マネーをネットでやり取りする。

 銀行やお店では同時に電子マネーを取り扱う必要があるので、ICカードが複数入った金庫が必要というわけ。

 だから、金庫にはRS-232Cが付いていて、コンピュータと接続する。


 銀行やお店はICカードじゃなく、プログラムで処理すればいいと思うかもしれないが、そのプログラムがハッキングされるとお金を無限に作られてしまう。

 だから、ICカード同士に限定することで、セキュリティが高いということだ。


 お金の流れは、利用者は街角の機械で現金をMondexマネーに変換し、お店で電子マネーを支払う。そして、お店は銀行に入金する。

 現金がMondexマネーに置き換わっただけと思われるかもしれないが、大きな問題がある。


 電子マネーの交換は確実にお金を渡したということを保証するために、2相コミットメントを行う。

 そのため、電子マネーを交換している最中でICカードが抜かれると、お金の取引がなかったことにできるフェーズと、お金の取引を終了させる必要があるフェーズのどちらかになる。

 ICカードに途中の取引がある場合、相手のICカードを見つけたら、再開処理をしてやる必要がある。


 なんだ、それだけ?と思うかもしれないが、問題はICカードに寿命があることだ。

 寿命は書き換え回数で1万回程度。

 寿命を迎えたICカードとお金の取引の再開はできない。

 それだけじゃなく、ICカードに入っていたお金も消える…

 お店のレジの壊れても中身のお金はそのままとは大違いだ。


 ICカードに大金が入って、壊れたら大損だ。

 だから、書き換え回数が多いICカードからお金を別のICカードに移し、使わないようにする必要がある。


 これらを考慮して、Javaで制御するプログラムを1ヶ月で作れとある。

 はぁ。作れと言えばいいだけの人は楽でいいよなぁ。


 RS-232Cとの通信プログラムを書かなきゃならないじゃん。

 そんなのJavaで書けないから、C言語で書かなきゃならん…

 しかも、日本から届いた荷物には、RS-232Cのケーブルも入っていないし、電源タップもないし、ドライバなどの工具もない…


 俺は、Lisaに電気屋を聞くと、Fry's Electronicsというのがあるらしいので車で向かう。

 家電からコンピュータまで売っている。しかも、コンピュータ系の本も充実しているし、カフェまである。

 カフェでお茶をしながら、売り物の本を立ち読み? 座り読みしても良いらしい。


 電源タップや工具は簡単に見つかったが、RS-232Cのケーブルは店員に聞き、無事ゲット!と思って、隣を見るとPalm-PilotというP(personal)D(digital)A(assistant)が売っている。

 店員に聞いたら、最新らしい。

 手のひらに乗るコンピュータで、コンピュータと接続してスケジュールなどを共有できるらしい。そして、ソフトを追加できる。

 で、コンピュータとの接続がRS-232Cで接続するから、ここに置いてあるのね。


 値段は…399ドルね。

 ちょっと高いけど、これも経費で処理するから、カートに投入!

 RS-232C関連の本も座り読み?できるが、経費だからカートに投入っと。


 俺はアパートに帰り、時間を見計らって優佳に電話する。


「もしもし、優佳?」

「うん」


「元気ない?」

「そうでもないよ。そっちはどう?」


「これから開発が始まるよ。期限が1ヶ月だけど、終わったらできたものを見せると言う口実で、たぶん日本に出張に行けると思う」

「ほんと!? でも1ヶ月か…」


「年に二度、家族との面会?で会社の費用で呼び寄せることができるけど、翔がもう少し大きくならないと難しいよね」

「そうね」


「翔が早く大きくなって欲しいけど、成長が見れないのは寂しいなぁ」

「あっ、私ね、翔の成長記録をつけ始めたの」


「それはいいね。見たいなぁ。」

「健一もそっちで起きたことを記録してよ」


「翔の成長記録は必要だけど、俺の記録は必要か?」

「だって、私が知りたいもの。アメリカ赴任してから全てよ。アパートの契約とかあったでしょ?」


「そう言われると、いろいろあったなぁ」

「でしょ? 大きくなったら翔も読むと思うから」


「翔が読めるようになるのはかなり先だろうけど、書くよ」

「よろしく!」

96年当時はUSBではなく、RS-232Cでした。

Fry"sは2021年に閉店しました。

PalmPilotは当時発売された製品です。

ちなみに、以前の回に出てきた日系のスーパーのヤオハンもミツワに変わっています。

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