暴食との遭遇3
第148話 美食家の晩餐と、忍び寄る大罪の影
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場面は変わり、結城家の食卓。
温かい明かりと、笑い声に包まれていた。
「いやぁ、美桜は凄かったなー、山のようにデカいパフェをほぼ一人で食べちまうんだもんな
」
「もう! お兄ちゃんも食べていいよって言ったのに、一口しか食べなかったからでしょ! 残すのもったいないから私が頑張ったの!」
母さんが淹れてくれた食後の熱いお茶をすすり
ながら、俺と美桜は今日新宿で起きた出来事を母さんに話していた。
ギルドでの関東支部長とのやり取りはあったが、あえて触れず、ただ「しずくと、葵に偶然会ってパフェをご馳走した」という平和な部分だけを抽出して。
「ふふっ。美桜が元気に食べられるようになって、お母さん本当に嬉しいわ。
誠も、あんまり美桜をからかっちゃダメよ」
「分かってるよ。でもこいつ、パフェ食った後も元気いっぱいで、俺の手引っ張って歩き回るんだからさ」
俺が苦笑いしながら湯呑みを置いた、その時だった。
――ブーブーブー。
ジャージのポケットに入れていたスマートフォンが、無機質なバイブレーションを鳴らした。
画面を見ると、『ギルマス』という表示が出ている。
「……ギルマスからだ。ちょっと電話出てくる」
俺は席を立ち、少し離れた廊下へと出て電話に出た。
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「もしもし、ギルマス。どうしました? 」
『……ああ、結城。夜分遅くにすまんな』
電話の向こうから聞こえてきたギルマスの声は、昼間ギルド本部で別れた時とは打って変わって、ひどく重く、緊迫したものを孕んでいた。
「どうしたんですか? まさか、あのバカ支部長がまた何かやらかしたとか?」
『いや、彼の方はすでに地方の資材庫へ送った。
……それより、結城くん。君は『日向ヒナ』という冒険者を知っているか?』
「……日向、ヒナ?」
俺は首を傾げた。
どこかで聞いたことがあるような、ないような……いや、全く心当たりがない。
「いいえ、知りませんね。俺みたいな底辺の事務員崩れが関わるような相手ですか?」
『……彼女は、Aランク冒険者の一人だ。
天才剣士と謳われ、将来を嘱望されていた若手ホープの一人だった』
「だった?」
マスターの過去形に、俺は嫌な予感を覚えた。
『今日の夕方、彼女が新宿の裏路地で意識不明の重体となって倒れているのが発見された。
外傷は全くなかったが……念のため、精密検査を行ったところ、彼女から魔力とスキルが消失していた』
「魔力とスキルが、消失……?」
俺の心臓が、強く鼓動する。
魔力やスキルが消失する事など、通常ではあり得ない事態だ。
原因は?スキルや魔力奪うスキルが存在すると言うことなのか?
「……」
一つの可能性が頭によぎる。
(まるで、俺の存在強奪と同じような……。)
『……彼女が襲撃される少し前まで、ギルド本部の受付で君のことを熱心に探していたという報告が上がっている。
だから、君が何か事情を知っているのではないかと思って連絡したんだが……本当に心当たりはないんだな?』
「……ええ。全くありません」
『そうか。……結城。
これは、ただの冒険者同士のトラブルじゃないと考えている。
魔力に干渉できるような、未知の脅威が東京に入り込んでいる可能性がある』
ギルマスの声が、さらに一段低くなる。
『知らないならそれでいい。
だが、この件について少し話しておきたいことがある。
悪いが、明日の朝、もう一度ギルド本部の私の部屋まで来てくれないか』
「……分かりました。明日の朝一で向かいます」
俺は短く答えて、通話を切った。
スマートフォンの黒い画面を見つめながら、俺の頭の中である一つの可能性が浮上していた。
阿蘇で悪魔公爵が放っていた『嫉妬』スキル。
そして、今回は魔力の『消失』。
点と点が繋がり、嫌な形を描き出そうとしている。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ふと、背後から声をかけられた。
振り返ると、リビングのドアの隙間から、美桜が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「誰からの電話? ……なんか、すごく怖い顔してるよ」
「えっ? ああ、いや」
俺は慌てて表情を緩め、美桜の頭をポンと撫でた。
「ギルドの上司からだよ。明日の朝、ちょっと用事ができたからギルドに来てほしいってさ。
せっかくの実家なのにな」
「そっかぁ。またお仕事なんだね。……あんまり無理しないでね、お兄ちゃん。気をつけてね」 「おう。すぐ帰ってくるさ」
美桜を安心させるように笑いかけ、俺はリビングへと戻った。
だが、その夜。
自室のベッドに寝転がり、窓の外に浮かぶ月を見上げながら、俺は深いタメ息をついた。
(日向、ヒナ……か)
全く知らない相手だ。だが、彼女が俺を探している間に倒れた。
それを偶然で片付けるには、あまりにも出来すぎている。
もし、俺の存在が原因で彼女が狙われたのだとしたら。
そして、その脅威が、俺の家族の暮らすこの街にまで入り込んでいるのだとしたら。
「……なんか、胸騒ぎがするな」
俺は呟きながら、自分の右拳をギュッと握りしめた。




