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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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残された時間と、最初の特命依頼


 柊本家での会合から一夜明け、俺は早朝の冷たい空気の中を歩いていた。向かう先は、都心から少し離れた場所にある「聖明ダンジョン医療病院」。


 妹の美桜が入院している場所だ。

「マスター、美桜ちゃんの容態、気になりますね。……でも、今は3000万という『力』があります!」


「ああ。だが、金があればすべて解決するわけじゃない。……時間が足りないんだ」

 美桜の命のタイムリミットは残り20日程しかない。


 美桜の命を繋ぎ止めるには、高位の治癒魔法使いによる「継続的な術式展開」が不可欠だ。


 一億円という途方もない大金は、その莫大な魔法使いたちの専属契約費(延命費用)の総額である。

 そして根本的な治療を施すには、ダンジョン深層でしかドロップしない幻のアイテム『特級エリクサー』が必要になる。


 美桜の命の猶予が尽きる前に、金とエリクサーの両方を揃えなければならない。

 ブラックな協会で事務員をしていた頃でさえ、これほどまでに胃の痛む納期に追われたことはなかった。


 病院に到着し、俺はまず受付に向かった。

 懐から、ボスから渡されたあのカードを取り出し、窓口の職員に提示する。


「高位治癒魔法使いによる継続術式の維持費、その前払いに。……2500万円、振り込んでくれ」

「えっ……? に、2500万……ですか!?」


 窓口の女性が目を丸くし、何度もカードと俺の顔(いつもの安物ジャージ姿)を交互に見た。


 無理もない。こんな格好の男が、超高級車が買えるような金額を即金で払うなど、不審者以外の何者でもないだろう。


 だが、カードの認証が通ると、彼女の態度は一変した。深々と頭を下げ、すぐに上司へ連絡を入れる騒ぎになったが、俺はそれを制して美桜の病室へと向かった。


 そこは静かな個室だった。規則的なバイタルを刻む魔導モニターの音と、彼女の身体を包み込む治癒魔法の淡い光だけが満ちている部屋で、美桜は眠っていた。


 以前よりも頬は痩せ、肌は透けるように白い。

 絶え間なく注がれる高位魔法の力が、彼女の命を辛うじてこの世界に繋ぎ止めている現実を突きつけてくる。


 ベッドの傍らには、徹夜で付き添っていたのだろう、母親が疲れ切った顔でパイプ椅子に座っていた。


「……誠」

「母さん。少しは休んだ方がいい」

 実家を出て、安アパートでその日暮らしをしていた適性なしの息子。


 そんな俺を見る母親の目は、どこか痛々しげだった。俺は努めて平坦な声で話す。


「さっき、受付で2500万ほど払ってきた。これでしばらくは、治癒魔法の術式が途切れることはないはずだ」


「に、2500万……!? 誠、あんた協会をクビになったって……まさか、変な裏の仕事に手を出して……!」


 母親が顔面を蒼白にして立ち上がる。俺は母親の細い肩に手を置き、静かに首を振った。


「心配ない。割のいい『企業向けの荷物運び(ポーター)』の仕事を見つけたんだ、危険はない。……だから俺が居ない間は美桜のことを頼む。残りの金も、特級エリクサーも、俺が絶対に手に入れるから」


 嘘は言っていない。黒犬という組織の令嬢に荷物運び(素材調達)をしているのだから。


 俺は眠る美桜の顔を見下ろした。

「必ず一億円を稼ぎ切り、『特級エリクサー』を手に入れてお前を助ける。

……だから早く良くなって、また実家であのハンバーグを食べさせてくれ」


「マスター。病院側には『全額支払いの意思あり』と示せました。これで期限ギリギリまで、医療チームが術式を維持してくれるはずです。……さあ、次の戦いへ行きましょう!」


「……ああ。行こうか」

 母親の戸惑う声を背に、俺は一度も振り返ることなく病室を後にした。


 ◆


 数時間後。新宿の『黒犬』事務所。

 まどかはデスクで、何枚かの不鮮明な写真と資料を前に、険しい表情を浮かべていた。


「遅かったわね、結城誠。……妹さんの様子はどうだった?」

「金は積んできた。あとは、俺が稼いで、深くに潜るだけだ」


 俺が正面の椅子に座ると、まどかは資料の一枚を俺の方へと滑らせた。

「父上……ボスからの最初の『特命依頼』よ。報酬は、成功報酬込みで『1500万円』。……ただし、難易度はこれまでの比じゃないわ」


 写真に写っていたのは、霧に包まれた古城のようなダンジョンの入り口だった。

「第19エリア、通称『亡霊の古城』。

推奨ランクB+。そこの最下層に、最近になって新種の魔物が確認されたの。

名前は『リビングアーマー・ジェネラル』。Bランク上位の個体よ」


「リビングアーマーか。物理攻撃が効きにくそうだな」


「ええ。それだけならまだしも、問題はその魔物が持っている『魔剣』よ。ボスの蒐集品コレクションに加えるのが目的だけれど……実は、この依頼には裏があるわ」

 まどかは声を潜め、事務所の入り口を一度確認してから続けた。


「あの会合で紹介された新幹部……左京玄弥を覚えているわね? あいつの派閥も、同じ魔物を狙って動き出したわ。これは単なる素材調達じゃない。

……私と、あいつの『どちらが先にボスの期待に応えられるか』という、実力誇示のための競争なのよ」


「……あの眼鏡の男か?」

 俺の脳裏に、玄弥のあの底知れない、爬虫類のような瞳が浮かぶ。


「マスター! あいつ、絶対に姑息な手段を使ってきますよ! 途中で罠を仕掛けたり、私たちの邪魔をしたり……もう、考えるだけでイライラします! まとめて粉砕しましょう!」


「……同感だ。俺たちに小細工は通じない」


 俺がボソリと呟くと、まどかは「また独り言?」と呆れた顔をしたが、すぐに真剣な表情に戻った。


「玄弥は、自分の手は汚さないタイプよ。おそらく、強力な魔術師のパーティーを金で雇って送り込んでくるはず。……結城誠、あなたは彼らよりも早く最下層に辿り着き、魔剣を強奪しなければならない」


 俺はジャージの袖をまくった。

「魔術師か、完全に潰しにかかってきたな。

……まどか、あんたはいつも通り、俺が持ち帰る素材の換金準備だけしておいてくれ」


「……ええ、でも無茶はしないでね。あなたが死んだら私の立場も、妹さんの命も終わりなんだから」

 まどかの言葉を背に、俺は事務所を飛び出した。


 美桜の命のタイムリミットまで、あと20日。

 亡霊の古城を、そして左京の妨害を乗り越えることが出来るのか。



現在の所持金:5,577,000円(※2500万円支払い後)

妹の治療費まで:あと69,423,000円

特級エリクサー投与リミットまで:あと20日


【次回予告】

期限まで残り20日。

特級エリクサーと1500万の報酬を求め、Bランクダンジョン『亡霊の古城』へと足を踏み入れた誠とエク子。


しかし、そこには新幹部・左京玄弥が裏で手を引く姑息な罠と、行く手を阻む強力な魔術師パーティーの妨害が待ち受けていた!


理不尽な暴力を以てそれらを粉砕し、ついに念願の「知力を上げるため」に魔法系統の魔物を強奪した誠だったが――


『――【筋力】(+UP)』

『――【耐久】(+UP)』

『――【敏捷】(+UP)』

『――【知力】(+0)』

誠「……は? なんで知力だけ上がらないんだ!?」


エク子「マ、マスター……魔法特化の魔物を強奪しても上がらないってことは……もしかして……」


まさかの残酷な真実が発覚!?

ジャージの脳筋おじさんは、知力20の呪縛から抜け出すことができるのか!?


次回

『亡霊の古城と、知力20の呪い』

お楽しみに!


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