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【存在強奪】 ~やけくそでダンジョンに素手特攻したら、存在もスキルもステータスも奪える能力に目覚めました~  作者: 仁科異邦


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返済、元カノとの遭遇


 更に翌日。約束通り、ボロアパートの外に俺の例の借金取りの男たちがやってきた。


「おい結城、金は用意できたんだろうな? もし一円でも足りなかったら、お前の臓器をダンジョンの闇医者に売り飛ばして――」


 凄む男の目の前に、俺は封筒から取り出した札束を、ドンッと机に叩きつけた。

「……280万円丁度だ。耳を揃えて返す、数えろ」


「なっ……!?」

 男たちは目を丸くし、慌てて札束を手に取って枚数を数え始めた。


 無職になったばかりの底辺男が、たった一日でこれだけの大金を即金で用意できるはずがないと高を括っていたのだろう。


「確かに、280万あるな。……ちっ、どこでこんな金を?まさかヤバい橋を渡ったんじゃねえだろうな?」


「あんたたちには関係ない、これで俺の借金は完済だ。もう二度と面を見せるな」


 俺が冷たく言い放つと、男たちは少し気圧されたように後ずさりした。今の俺は、あの『黒犬』の幹部と直接対峙し、Cランクの魔物を素手で屠ってきた男だ。


 ただのチンピラ上がりの借金取りが発する威圧感など、そよ風に等しかった。


「……チッ、命拾いしたな。行くぞ」

 男たちが舌打ちをしながら部屋を出て行くのを見届け、俺は大きく息を吐き出した。


 すぐに家主の管理会社へ向かい、滞納していた家賃と諸々の経費を支払う。これでようやく、俺の首を物理的に絞めようとしていた縄はすべて断ち切られた。


♦︎


「ふぅ……。やりましたねマスター! これで心置きなく、妹さんを助けるための資金稼ぎに集中できますよ!」


 空中に浮かんだエク子が、パチパチと拍手をして喜んでくれている。


 俺は、残金が8万円ほどになった財布を見つめながら、それでもどこか晴れやかな気持ちで駅前の通りを歩いていた。

 ――だが、人生というものは、そう簡単には平穏を許してくれないらしい。


「あら。誰かと思ったら誠じゃない。まだ生きてたの?」


 聞き覚えのある、高く甘ったるい、そして俺を心の底から見下している女の声。

 振り返ると、そこには先日、俺の事をゴミのように捨てた女、リカが立っていた。


 彼女の隣には、ギラギラとしたミスリル製の高級な胸当てを装備し、これ見よがしに大剣を背負った金髪の若い男が、リカの腰に手を回して立っている。


「……リカ」

「ちょっと、その安っぽいジャージ何? あっ、もしかして、家も追い出されてホームレスにでもなったの?」

 リカは俺を嘲笑うように鼻で笑い、ツカツカと歩み寄ってきた。


「でも、さっき管理会社の不動産屋から出てくるの見たわよ。……もしかして、協会から退職金が出たの?!

だったら、私が欲しがってたあのブランドのネックレス、買ってくれない? 私に散々無駄な時間を過ごさせたんだから、慰謝料として当然でしょ?」


 俺は絶句した。自分が捨てた適性なしの男が、少しでも金を持っていると分かった途端にこの態度だ。その図々しさに、怒りを通り越して呆れ果ててしまう。


「マスター……この女の人、控えめに言って最低です。存在強奪しちゃダメですか?」

「……ダメに決まってるだろう」


 俺が呆れた声でエク子(傍から見れば独り言)に答えると、リカは「はぁ?」と眉をひそめた。


「ちょっと、誰に向かって口答えしてるの? 適性なしのATMのくせに――」


「俺たちにはもう何の関係もない、慰謝料を払う義務も、お前の顔を見る義理もない。だから、二度と話しかけてくるな」


 俺が冷たく言い放ち、背を向けて歩き出そうとした瞬間。リカの隣にいた金髪の男が、俺の肩をガシッと乱暴に掴んだ。


「おいおい、おっさん。俺の女に随分な口を利くじゃねえか?適性なしのゴミ野郎がよぉ」


 男の瞳には、明らかな殺気が宿っていた。それは冒険者特有の、強者の驕りだ。


「俺はCランク冒険者の剛田ごうだだ。リカから聞いてるぜ、しつこく付き纏ってたストーカーの元事務員だってな。自業自得で協会をクビになった腹いせに、ウチの可愛いリカに八つ当たりしてんじゃねえぞ?」


 ストーカー……だって?

 どうやら、都合のいいように事実を改ざんされているらしい。


「手を離せ。俺は忙しいんだ」


「離さなかったらどうする? 俺はなぁ、明日から『黒犬』の幹部のエリート護衛ミッションに雇われてる選ばれた実力者なんだぜ? お前みたいな無能、ここで半殺しにしても誰も文句は言わねえよ」


 ――黒犬の護衛。

 その単語が出た瞬間、俺の目の奥がスッと冷えた。まどかの言っていた言葉が脳裏をよぎる。

『部下ですら、誰一人として信用できないのよ』と。


「ねえ剛田くん、やっちゃってよ! このおじさん、生意気なの!」

 リカが勝ち誇ったように剛田の腕にすり寄る。


 剛田はニヤァと笑い、俺の顔面に向かって、冒険者の身体強化が乗った拳を振り上げてきた。


「マスター!」

 エク子が叫ぶ。だが、俺にとって剛田の拳は、昨晩の鉄裂き熊の半分ほどのスピードにしか見えなかった。


 地上でのデバフがかかっていても、余裕で躱せる。俺が半歩下がってその拳を避けようとした、その時だ。


「おい、剛田!街中で一般人に手を出すな。ギルドの規定違反になるぞ」

 剛田の背後から、低く落ち着いた声が響いた。


 振り返ると、フルプレートアーマーを着込んだ歴戦の戦士のような大柄な男と、ローブを着た魔法使いの女が立っていた。剛田のパーティーメンバーだろう。

「チッ……リーダー。いや、こいつがリカに絡んでたもんでよ」


「言い訳はいい。明日は重要な依頼だ、つまらないトラブルを起こすな。……行くぞ」

 リーダーと呼ばれた男の鋭い眼光に射すくめられ、剛田はチッと舌打ちをして振り上げた拳を下ろした。


「命拾いしたな、おっさん。……おいリカ、行くぞ」


「もう、剛田くんの優しさに感謝しなさいよね! せいぜいホームレス生活頑張ってね、適性なしのおじさん!」


 リカと剛田は、俺を小馬鹿にするように笑いながら、仲間たちと共に去っていった。その後ろ姿を見送りながら、俺は静かに拳の力を抜く。


「マスター……腹立ちますね! あの金髪の剛田って男、絶対にあの『裏切り者』の一人ですよ!」


「だろうな。まどかの護衛に雇われているということは、明日のダンジョンで俺と顔を合わせることになる」

 俺は薄く笑った。


「適性なしの俺が、最底辺の『ポーター』としてあのパーティーに加われば、奴らは必ず俺を弾除けやおとりとして見下し、ボロを出すだろう。……そして、まどかを裏切り、俺に牙を剥いた瞬間が、あいつらの最後だ」


 ダンジョンの中は、無法地帯だ。何が起きても、魔物のせいにできる。


 理不尽に俺を嘲笑い、踏みにじった者たち。

 その代償はダンジョンで、全て払わせてやる。



現在の所持金:80,000円

次の報酬予定:1,000,000円(護衛費用)

妹の治療費まで:あと99,920,000円

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