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なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話  作者: TB
第一章 ダンジョン黎明期

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第9話 DIT始動

 警察庁内部のDIT本部では、渋谷の現場の画像解析が続いている。

 ダンジョン発生以前の画像に関しては、まったく問題点を上げる事が出来なかった。


 十一時十一分の現場を捉えていた防犯カメラで、やっと問題点が現れた。


 黒い霧状の物が三秒程度広がり、すぐに晴れると、その場所に入口っぽい穴が発生しており、それと同時に昨日の被害者と見られる二名が、滑り落ちるように引き込まれるのを捕らえていた。


 そこからすぐに周囲を野次馬が取り囲み、ダンジョンを覗き込んでいたが、誰も入っていく勇気のある者は居なかったようだ。

 

 最寄の交番から警官が辿り着くまでが五分弱。


 二次被害の可能性が高いと判断され、すぐに消防のレスキューが要請された。

 現場の警官の判断は正しいと思われる。


 そこから先は防犯カメラの不鮮明な映像に加え、偶然居合わせた旅行者が撮影した、ハンディカメラによる鮮明な映像も加わる。


 映像の中の時刻表示によると六分が経過した十一時十七分辺りから、穴が自動で整地され始めるような感じで動いているのが確認できる。


 この状況で入ろうと思える人はまずいないであろう。

 それからレスキューが到着したのが十一時四十分。


 その時には既に穴というより入口という感じに装いが整っていた。

 地下に降りる階段も出来上がっていた。


 レスキューが突入準備をしている間には、警視庁から機動隊も到着していて周囲の人間を遠ざけ、ロープが張られていった。


 レスキューが隊列を組んでダンジョンに突入していき、救助者二名を救出し機動隊に状況を説明し始めたのは十二時九分だ。


 救出者を画像で確認する限り、後から助け出された方は膝上から先が欠損している。

 酸や薬品により溶けたような感じでの欠損だ。


 すぐに指示を出した。


「昨日のレスキューで、ダンジョン内に救出のために突入したチームのリーダーを直ぐに、ここに呼んで下さい。それと厚生労働省から参加している山野さんは、すぐに昨日の被害者が入院している場所に向かい、担当医師と出来れば被害者からの話を聞いてきて欲しい。移動はタクシーを利用して下さい」

「了解しました」


 ◇◆◇◆ 


 渋谷の現場に向かったDITのメンバーは、重機による掘削作業を緊張した面持ちで見守っていた。

 更に外側には警視庁の機動隊も取り囲んでおり、その作業を見る人々も報道で広まった事による野次馬で、昨日の倍以上の混雑振りだ。


 各局報道の人間も多い。


 しかし掘削作業は、昨日のダンジョン範囲を、正確に掘り起こしているのに何も出現しない。

 DITの現場リーダーの一人、熊野が島に指示を仰ぐ。


 現場は渋谷で人通りも非常に多い、何も無いのであれば経済活動の停滞は批判を招く。


 慎重な判断が求められる。


「重機による掘削は中止して、撤収して頂いて下さい。経済活動の停滞が最小限になる範囲で包囲は継続し、実働隊は三チームを残し本部に帰還してください。熊野さんの班は昨日のダンジョン内部の具体的な話を伺いたいので、帰還メンバーに入ってください」


 必要な指示を下し一息ついていると、レスキューのリーダーが到着した事を告げられた。


 早速執務室に招きいれ状況を聞く。


「ご足労いただき、ありがとうございます。私は内閣官房長官で昨日起こった件の対策チームの責任者をしています島といいます。昨日救助した時の状況を教えて下さい」


「はい。東京消防庁特別救助隊の消防司令、山中と申します。昨日の救助活動において私は、十名のチームで救助に向いました。穴が開いたという通報でしたが、現場に到着した時には、階段のある入口という感じなっていました。階段を降りていき、階下に到着すると、五メートルも離れていない場所に要救護者の女性二名が存在していました。一名は外傷的には擦過傷程度ですが、精神的に辛かったようで、所謂、腰砕けのような状態で錯乱されていました。もう一名は膝の辺りにジェル状の動く物。私の認識によると所謂(いわゆる)スライムと呼ばれる、ゲーム等での登場キャラクターが取り付いており、消化吸収されているような感じに見えました。隊員の一名が蹴り飛ばし、スコップで叩き潰した所、体内に見られた赤い核のような物が割れ、黒い霧に纏われながら、消滅していきました。蹴り飛ばした隊員のブーツと叩き潰したスコップにも、若干の溶解跡が確認されます。救助を優先し、後は警察のSATチームに対応を任せ、現場待機状態に移行致しました。以上であります」


「ありがとうございます。大変簡潔で解りやすい説明でした。溶解した装備品を提出して頂きたいのですが可能でしょうか」


「直ぐに用意し提出致します。こちらに持ち込めば宜しいのでしょうか?」

「それで構いません。こちらから伺いたい事は、以上です。ありがとうございました」


 足早に山中は立ち去っていった。


「おそらく現代科学では解明不能な物しか出てこないであろうが、調べないという選択肢も無いな……」


 ◇◆◇◆ 


 サポートメンバー達による、画像解析が続いている。

 SATのチームがダンジョン内に突入して以降大きな動きは無いようだ。


 十七時過ぎにSATのチームがダンジョンから帰還した様子が映し出される。


 防衛省出身の『東雲(しののめ) あずさ』は、十六時三十分頃の映像に何か違和感を感じる。

 何かは解らないのだが、背筋にぞわりとするような感じを受ける。


 隣の席で作業を続けていた同じく防衛省から来た『相川 拓也』に声をかける。


「相川さんちょっとよろしいでしょうか」

「どうしましたか? 東雲さん」


「この部分なんですが、ちょっと見ていただきたいんですけど」


 当然、相川も一度見た映像だが改めて見せられると、確かに何かの違和感を感じた。

 巻き戻してスロー再生をすると、十六時三十二分の表示のある映像に何故か人物がダンジョン内に、普通に歩いて入っている事が確認できた。


 これがどんなに不自然な現象なのか少し考えれば……


 否、考えなくてもおかしい。


 ロープに囲まれ、機動隊のメンバーが見張っている中を普通にダンジョンに向かって歩いていったのだ。


 渋谷の現場に居た誰もが気付かずに……

 

 心霊現象か?

 判断が出来ない。

 すぐに島長官に連絡を取る。


 島はすぐに現れ、先ほどの画面を見てもらう。

 最初は何も言わずにだ。


 しかし態々(わざわざ)呼ばれて視せられた画像だ。

 すぐに違和感を感じる。


 これは……

 次にスローモーションで視せ、はっきりと人物が入っていく姿を確認した。


 全員に声をかける。

 正面に設置させられた、大型のモニターに画面を表示させる。

 丁度実働チームも三チーム十五名が戻ってきたので、一緒に視て貰う。


 同じように最初は通常再生だ。

 ほぼ全員が違和感を覚える。

 大事な事はそこだ。


 違和感を覚えるだけなのだ。


 次にスロー再生される同じように全員が、今度ははっきりと人物がダンジョン内に歩いて行った事を確認する。


 ありえない……


「この時点で、SATのメンバーとしてダンジョン内で活動をしていた熊野さんと早川さんのチームの方で、ダンジョン内でこの人物に気付いた方はおられませんか?」


 誰も返事をしない、メンバーの顔を見た後代表で熊野が発言をした。


「ダンジョン内で隊員以外の人物には、誰にも出会っておりません」


「念の為に西山さんのチームにも確認しましょう。すぐに連絡をお願いします」


 ここに戻っていなかったSAT出身のもう一つの班にも連絡を入れ、早川班と入れ替わりで戻って貰うこととした。


「他にも異変が発見できる可能性が非常に高いので、更に画像の確認を続けてください。サポート班の十九名は、十六時三十二分以降の画像で新たな情報を、実働部隊の十名は十六時三十二分以前の画像に、ダンジョン内に入って行ったと思われる人物が、映っていないかを、服装や背格好からの特徴を元に探して下さい」


 ◇◆◇◆ 


 その頃、厚生労働省から参加した『山野 美紀』は、昨日救助された二人が入院している病院を訪れていた。


 まず担当した医師の話を聞く事とし、面談を申し入れた。

 事前にアポイントメントを取っていた事もあり、すぐに医師の下に案内される。


「新しい組織でまだ名刺や身分証は出来ていないのですが、元厚生労働省に居た山野と申します。昨日の出来事を受け、内閣主導で出来た特別対策本部DITの職員としてお話を伺いに来ました」


 元々が医師や病院などを所管する部署の出身なので、抵抗無く受け入れられた。


 三十五歳と言う社会で活躍する女性として、一番脂の乗り切った時期という周りからの評価も相まって、ビジネススーツが板についている。


 エリート中のエリートである現役キャリアでの入省であるが、奢り昂った部分も無く、人当たりも優しい印象だ。


 仕事の忙しさと、唯一と言ってもいい趣味のMMORPGのせいで、現実社会での異性関係を育む時間がまったく無いことが、唯一の弱点とも言えたのだが、今回はその弱点の元となったゲームのお陰での大抜擢でもある。


「昨日の患者さんで、重傷者の『野口 環』さんを担当した、村松と申します。整形外科が専門です」

「野口さんの状況ですが、生命には別状御座いませんが、膝上10センチ程から先が完全に欠損しており、傷口も酸で溶けたような状況であったため、更に5センチ程上で切断して溶解の進行を止めたような状況です。現在まだ麻酔で眠られています」


「切断部分は、警視庁の科学捜査研究所への提出を求められましたので、すでに移送済みです。私からは以上です。もう一方の担当医と交代いたします」

「心療内科を担当している明石と申します。患者は『水野 彩加』さん。年齢は21歳です。友人の野口さんとショッピングに訪れて居た時に、被災されたそうです」


「当初軽傷部位の治療を受けていた時には、ショックでうわ言の様に、『環が…… モンスターが……』と繰り返しておられましたが、治療を終えられた頃には、落ち着きを若干取り戻され、お話を伺う事も出来るような状況になりました。私からは以上です」


「村松先生。明石先生。お忙しい中お時間を下さってありがとう御座います」


 公用では、常に活用しているボイスレコーダーのスイッチを一度切った。


「この後、水野さんへの面会は可能でしょうか?」

「丁度今から私も診察に向かうので、病室の前まで同行して、ご家族とご本人の許可が得られたら、と言うことでよろしいでしょうか?」


「それで構いません」

「まだ未知の生命体との接触から、安全が確認されておられませんので、隔離区域の無菌室で防護服を着用した上での面談となります」


「了解しました。よろしくお願いいたします」


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