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13話「戦闘?」


 俺とリヴの口ゲンカは数十分経っても、最初よりは2人とも勢いがないとはいうものの、お互い一歩も引かず、遠回しに言うのではなく一直線に自分の言い分を発言し合う、まさに男同士のケンカに、高校生のときを思い出しているのだろうか、時々無意識のうちに笑みが溢れてしまう。人を自分の手ではないが、間接的に殺してしまった罪悪感や、リヴへの怒りも、今消えてはいけない感情が自然と薄れていくのを止めることは俺には出来なかった。

 論点が変わりつつも続いているケンカの最中に、牢の外側から聞こえた軽く、高い足音がこちら側に近づいてき来る音がした。


 「お、おい、そこの囚人!う、うるさいぞ!!」


 近づいてきた足音は、俺のいる牢の前で止まり俺に話しかけてきた。見た目は大雑把にいうと、ヒースのまでとはいかないがゴツめの鎧を着た、俺より年下の10代半ばの少年がいた。この見た目からすると、この牢獄の警備員という立場だろう。元々気が強い人には見えないが、俺の腕を見て少し怯えているのか、額には多少だが汗がへばりついている。


 「《なんだよ!邪魔すんな!》」


 バキッ!


 俺は、リヴとのケンカを邪魔されたのが嫌だったのだろうか、無意識に発した言葉はリブと重なり、それと同時に、俺の手首についていた鉄の手錠が、食パンをちぎるように、簡単に壊れた。その光景を目の前で見ていた警備員はさっきまでの顔色が嘘のように真っ青になり、すぐに俺がいる牢の正面にある、レバーのような棒を下に動かした。

 

 カーン!カーン!


 「き、緊急事態発生!398号の収監者が脱走します!この牢を管理している操作室の方、直ちに対処をお願いします!」


 その警備員の少年が、緊急時のマニュアルブックに書いてありそうな台詞を大声で言うのと同時に、鐘の音が牢獄内に響き渡る。その鐘の音の振動は、俺の鼓膜と体を揺らし、俺の腕についていた鉄の手錠の音は聞こえなくなった。

 鐘が鳴り始めてから少しすると、俺とその少年警備員の間にある鉄格子が、グニャグニャと変形して、隙間ひとつもない一枚の大きな鉄板になった。その鉄板によって、外側の光は一切入らなくなり、俺がいる牢の中は暗闇に包まれる。


 「す、すまん!俺は別に脱走とか、そういういのをしたくて手錠を壊したんじゃなくて………そう!まだ体に慣れてなくて……。」


 「そんな、あんたの都合の良い言いわけに、ぼ、僕は騙されませづっ!」


 ガコンッ!


 少年が舌を噛んだ鈍い音と一緒に、さっきのとは違う別のレバーが下された音が聞こえる。すると今度は、目の前の鉄板に、紫色の複雑な円形の模様が浮き出てきた。

その模様から、ゆっくりと冷たい何かが放出される。模様はうっすらと光っているとはいえ、暗くて何も見えない。


 《これは……ちょっとやばいな!っと〜》


 「うっ!………………。」


 リヴはそう頭の中で呟いたあと、俺の腕は自分の意思では動かしていないのに勝手に動き始め、両手で俺の顔を掴み始めた。石壁に繋がっていた鎖は今の動作で根本から弾け飛んだ。俺は、この動作にどんな意味があるのかについての理解が遅れる。少しだが、この世界に来る前よりも大きくなっている俺の手は、頭蓋骨が折れるくらいの握力で頭を握る。だんだんと掴む力が強くなり、俺はこの痛みで声が出なくなった。


 【スキル】「創生」を発動します。

 【報告】創生物の実体化時間が周囲の魔素の量によって変更されます。この周辺は魔素が少ないため、3分が最大です。 

 【スキル】頭蓋骨に損傷が見られたため「超再生力」が発動されます。


 俺の頭の中で、リヴとは違う聞き覚えのない声が響いた。その声が聞こえた瞬間に、骨が軋むような痛みが消え、俺の顔の周りで、暖かい光が発生する。その光は俺の顔の正面を覆うようにして変形していく。


 《サ、サク!?大丈夫?……キツくない?サイズミスったかも……。》


 リヴが、喋れなかった俺を心配して声をかけてくれる。その後、俺の腕はゆっくりと顔から離れていく。その動作を目で追うと同時に俺は、リヴが何故俺の頭を掴んだのかを理解した。


 「い、いや。ありがとう。助かった」


 そう、俺の顔にはガスマスクが付いていたのだ。俺の呼吸が、いつもより機械音のように聞こえる。俺が吐く息は、正面の透明な部分を少しだけ白く曇らせている。リヴが、わざわざ俺の腕を動かして作ってくれたということは、この模様から出てる冷気は何か体に影響を及ぼすものだと思われる。そうなると、俺の頭の中にある真っ先に浮かんだ次の行動は、マスクの時間も考えると、この空間からの脱出だった。


 「おい!そこにいる少年!マジで、俺は別に脱獄するつもりじゃなくて、今どんな状況に置かれているのか知りたいだけなんだ。とりあえず、このヤバそうなの止めてくれない?」


 「ダ、ダメです!俺はただ、ここで働いている父さんの言うことを守るだけです!絶対に止めません!」


 そして、俺と少年のお互い自分の意見しか言わない一方通行の言い合いが始まった。



 *3分後

 冷たい何かは、すでに俺の全身を包み込んでいる。肌寒い感覚から、だんだんと体が凍るような痛みが生まれる。マスクを付けながら話しているからだろうか、俺の呼吸は荒々しくなる。向こう側にいる少年も、大声で俺に反論していたので、同様に呼吸が荒くなっている。


 【報告】周囲の魔素が枯渇したため、創生物の実体化が10秒後に解かれます。


 「はあー。しょうがないな、言ってもダメなら」


 このアナウンスを聞いて、俺は一番やりたくなかった方法を行うことにした。俺は、喋るのをやめてゆっくりと腰を落とした。そして、右手を鉄板にかざして左手を思いっきり握り、腰の後ろあたりまで引く。深呼吸して目を瞑る。俺は、リヴが町の一部を壊したと言っていたのをしっかりと頭の中に入れて、目を思いっきり見開いて、左手の拳を前に動かす。

 俺の拳が鉄板当たる直前に、リヴはこんなことを呟いた。


 《あーあ、多分力入れすぎだなぁ………》


 「え」


 ドガーン!!!


 俺の拳は、鉄板だけを貫くつもりが、鉄板を貫くと同時に反対側の壁も吹き飛ばした。壁は3メートルほどの奥行きができたが、そこから崩れることはなく、その状態が保たれていた。その後、1秒も経たないうちにガスマスクが、小さな光の粒に分裂して次第に消えていった。牢の中に籠もっていた冷たい空気は、殴った時の風圧と一緒に通路に満遍なく広がって薄れていく。俺はすぐに少年が無事かどうかを確認すると、少年は俺が壁に開けた大穴を見て、目と口を大きく開けて膝から崩れ落ちていた。足元には、汗や涙とは違う液体の水たまりができている。


 「何から何まで………すまんね。なんせまだ不慣れなもんで………」


 俺が頭に手を置きながら少年に話しかけるが、彼はまだこの状況を理解し切れていないのか、穴と俺を交互に見ている。まあ、この状況は誰でも困惑するだろう。

 もう少年に話しかけても無駄だと思った俺は、彼がこの牢にきた方向に体を向けた。とても申し訳ないことをしたとは思っているが、彼も彼だ。「お互い様だな」と自分の中で勝手に終われせた。


 「冒険者サクラは貴方ですか?」


 すると、俺が体を向けた方向にまた、新たな人影が見えた。目を凝らして見ると、またもや鎧を着ている人影だった。でも、鎧にしてはスマートで、声からすると女性だと思われる。しかし、何故だろう。この女性からは何か、強いオーラのようなものを感じる。俺は、その女性を見ると、反射的に構えてしまった。額からは、さっきまではなかった汗が滴っている。


 《おいサク、こいつ気をつけた方がいい。……多分、今の俺らよりも全然強い。》


 リヴの口から、いつもとは違う声色で放たれたその言葉は、さらに俺の緊張を高める。そして、その女性が俺の名前を呼んでから少しの沈黙が流れる。


 「はぁ。今は戦うつもりはないですよ。不本意ですけど」


 女性はそう言うと、剣の柄に置いていた手をどかして、腰に手を置いて姿勢を崩した。それと同時に、さっきまで感じていた強いオーラのようなものは、彼女のため息と共に一瞬で消え去った。俺もそれを見て少し安心したのか、構えを崩す。今もし戦いになっていたら、俺は負けていただろう。少しは気が楽になったものの、まだ緊張感はなくならなかった。


 「冒険者サクラ、貴方にクエストの依頼が届いています。」


 「依頼?この状況の俺にですか?誰ですか、そんな馬鹿は」


 俺が少しふざけて言葉を返すと、彼女はまた手を剣の柄に置いて、オーラが再び浮かび上がった。俺は、「ヤベェ……言いすぎたかも。」と心の中で思いながら再び構える。すると、彼女は何か我慢するように、手を剣から離してさっきの姿勢に戻り、オーラはまた消えた。俺はそれを見て、再び構えを崩す。そして、これからは言葉にも気をつけようと思った。その後彼女はまた、ため息をついて話し出す。


 「国王です。」


 「………へ?」


 俺の代わり映えありすぎの日々はまだまだ終わりそうにないらしい。


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