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ラブロマンスはほどほどに  作者: れんじょう
ラブほど。おまけ
44/44

附録 『ランチの約束』

  コンコンコンコン


 ガラス戸を叩く音がする。


  コンコンコンコン


 いつもと違う音がする。それに曜日も違うし……。



 「こんばんは。瞳子です」


 ―――――え?


 ソファにごろんと転がってくつろいでいた千紗は、思わぬ人の来訪に、ソファから跳ね起きてガラス戸に向かって叫んでいた。


 「瞳子?!」

 「うん。久しぶり、入っていい?」


 その声はまぎれもなく瞳子の声だった。


 「もちろん!入って入って」

 「じゃあ、遠慮なく」


  にゅるり


 白人系のように真っ白な手がガラス戸から現れたかと思うと、見慣れないさらさらとした銀髪の毛とどこぞの民族衣装か?と突っ込みたくなるほど豪華な服を着た瞳子が部屋に入ってきた。


 「千紗。元気そうだね」

 「瞳子こそ。……あっちはどう?元気にやってる?」


 お互い事情は知りまくっているので深くは突っ込まないにしても、それでも日々連絡が取れるわけでもない異世界に嫁ぐ友達に久しぶりに会った台詞が「元気?」だなんて、まるで社交辞令のようだわ。


 「……っぷ」

 「なになに?どうしてそこで笑うの?」

 「だって、なんで『元気』とかいっちゃってんのかなーって」


 瞳子から手紙をライづてで何回も貰っていて、瞳子があっちでなんとか頑張っているっていうのはよくわかっているつもりだったのに。

 それでも瞳子のことだから私に心配をかけないようにって、安心できる文面を書いているかもしれないし。


 久しぶりに見る瞳子は、少しやつれた感はあってもこちらにいたころの不安そうな影がなくなっていた。

 

 「で、急にどうしたの?この前の手紙ではこちらに来るなんてことは一言も書いてなかったわよー?」

 「あはは。そうなんだよね。だって来れるかどうかわからないから、『行く』って書いて行けなかったらショックでしょ」

 「ふーん。じゃあどうしてこっちに来れたの?」

 「え……えへへ。あのね、『字』が書けるようになったからなんだよね」


 はあ?『字』って……。瞳子、なにいってんだか。


 「ほら。私、向こうでは話せない、書けない人だったんだよね」

 「話すことはできないけれど、魔法で上手くいったんじゃなかったっけ?」

 「そうそう!さすが千紗。ちゃーんと覚えていてくれてるねえ」


 首を少しだけ横に傾けてにっこりと笑うしぐさは、色が変わっても昔の瞳子のままだった。


 「でもね。『字』が読めないし、書けないわけ。結婚式のときに書類に署名するのは直筆でしょ?それは日本でもそうだからよくわかるんだけどさ。『瞳子』って書こうとしても駄目なんだって。ちゃんとリエンの文字でリエンの名前で書かないと誓約されないみたい。だから黒綺が名付けてくれた『ミツイ』っていう名前をリエンの文字で書かないといけなくて」

 「『ミツイ』?!ミツイって……瞳子、それって普通名字じゃない。リエンじゃあ名前になるの?」

 

 とある財閥の名前を思い出しながら突っ込んでしまった。


 「そうなんだよねー。どう聞いても名字でしょ?でももう言霊が私の体に浸透したからその名前は私の名前なんだよね。反論したいけど、自分の名前だっていう認識もちゃんとあるし」

 「まあ瞳子だって黒綺を名づけたときは意味があったんだから、黒綺にもちゃんと意味があってその名前にしたんだろうからさー?」

 「うん。そうみたい。ほら、黒綺は『カイ』でしょ。で、国王さまの『ライ』……は深雷だっけ」

 「ちょっとまって。どうしてその名前を瞳子が知ってんのよ!」

 「ふっふっふ。そちゃあもうねー?いろいろ裏技っていうものがあるのですよ」


 ニヤリと笑って瞳子は懐に入れていた豪華な刺繍が施されている袋を取り出した。瞳子の瞳の色と同じ紫紺に光る絹のような布に、こちらも瞳子と同じ髪の色である銀色の糸で縫われた美しい刺繍は、丸い形の中に不思議な文様が描かれていた。

 

 「この刺繍。これで『ミツイ』って読むんだよ。……書けないでしょ?だって絵にか見えないんだから」

 「たしかに!これは……難しいね。こんなひとくくりみたいに丸い形で名前を現すの?」

 「うん。そうなの。だからこれを美しく書けといわれても、すっごく難題だったのよ」

 「そうだよねー。これは難しいね」


 まじまじと袋を見ようとすると、ひょいと瞳子が取りあげて、その袋の中に入れてある小さな粒を私に差し出した。


 「この粒、すっごく美味しいの。だから千紗にあげるよ。ただ、この粒は私が帰ってから舐めてみて?」

 「?うん、わかった」

 「無くさないように、どこかに置いておきたいんだけど」

 「じゃあここに置いて」


 そういって小皿を差し出すとコロンと粒が転がってその小皿の上できらきらと光った。

 不思議な色をした小さな光る粒。

 じっと見ていると、ふと黒壇色のにゃんこを思い出した。


 「ああ、そうそう。それで、なんで私の名前が『ミツイ』かってことでしょ?」

 「あ、そうだそうだ。で、どうしてなの?」

 「王族の男子は二文字で、最後の音が『イ』なんだって。だからカイだったりライだったりするんだけれど。ちなみに女子の王族も二文字で最初の音が『イ』。変わってるよね」

 「へええ?それは変わっているね。名前がすごく限られてくるし」

 「そうなんだよね。で、私の名前は三文字で最後に『イ』がつくでしょ?それは王族に準じていつつ魔力が強い血筋のものに与えられる名前なんだって。だからおじいちゃんは『アオイ』だったらしいよ」

 

 ということは、瞳子は王族に準ずる血筋だっていうことになる。

 

 「あはは。そうなんだよねー。私のおじいちゃんってばリエンの王族もどきらしかったんだー」


 こらこらこら!

 そこはちゃらけていいところ?!

 

 思わず瞳子をがん見してしまった。

 たしかに黒綺が瞳子を『アオイさまの血筋』だとは言っていたような気がするけれど。だけど王族の血筋って!?

 

 そう言われてみれば、ライや黒綺が『アオイさま』と敬称をつけて瞳子の祖父を呼んでいたから、その時点で彼らより位が上かもしれないということは理解しなければいけなかったはずなんだけれど。でもそれは『魔法使い』としての位であって、まさか王族関連だとは思ってもみなかった。といっても何が変わるわけでもなく、たんなる知識の一部でしかないんだろうけど。


 「そんなわけで、王兄と結婚しようとしている女がいくらほとんど異世界の人間だといってもアオイさまの血筋ですから?リエンの人間扱いなんで、自分の名前を書けないなんて言語道断なわけです」

 「まあ、そう言われればその通り、でしょうねー」

 「でしょ?なので『綺麗に』書くことができたらご褒美に軟禁生活から脱却させてもらえて、こちら側に遊びに行っていいとお許しがでたわけ」

 「瞳子ったら、軟禁生活送ってたのー?」


 好きな人と一緒になる、たった一つだけの願いのために、軟禁生活をおくんなきゃいけないのか、リエンは。


 「そりゃあ、私はリエン初心者だから、軟禁生活にもなるって。いろいろ勉強しないと訳がわからな過ぎて生きていけないしね」


 そりゃあそうだろうけど。


 「それにこちら側に来るの魔法を私はまだ習得できていないから、黒綺に案内してもらわないとどうしようもないし。あ、黒綺は『狭間の家』にいるんだけどね」


 『狭間の家』とは黒綺が瞳子のために作った、この世界とリエンの間の異空間にある、瞳子の感情に反応して天候が変わるというちょっと変わった家のことだ。


 「じゃああまりここには長く入れないのね?」

 「そうなるのかな。少しくらい黒綺をまたしていても大丈夫だと思うし、それに黒綺はちょっと頑張りすぎだから『狭間の家』でゆっくり休んでいてもらいたいなあって思ってるから」

 「おおっ?すでに女房みたいに体調の心配なんかしちゃってー」


 瞳子がリエンに渡ってから一ヶ月近く。結婚していなくても瞳子にはすでに向こうの生活が当たり前になっているんだろう。

 それがさみしくないといえば嘘になるけれど、でもそれでなくてはいけないということも分かっている。



 もしかしたら私もその立場になるかもしれないから。



 「でも、とりあえずは今日は顔見世だけ。今度はランチか何かしようよ。約束して?」


 急に真顔になって瞳子がそう話しかけてきた。

 一体どうしたんだろう?

 そんなに真剣に話すことじゃないと思うんだけれど。


 それでも瞳子の真剣さに押されて、今度は外でランチを取る約束をした。

 そして瞳子は満足したように、唐突にリエンに帰って行った。


 瞳子がどうして熱心に私と約束を取りたがったのか本当の意味がわかったのは、この日からたった半月たってからのことだった。

 

 



 

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