第九章 殺人と望まれない命
金子殺害計画当日の朝、水は清々しい気持ちで目を覚ました。
制服に袖を通すとボロボロの体とは対照的にいい気分で投稿した。
もちろん金子からいつも通り暴行を受けたが、今日の事を思うと耐える事が出来た。
「なんだコイツ、ボコボコにされてるのに笑ってやがる!気持ちわりぃ」
金子はそういって一通り痛めつけると水のもとを去っていった。
「いよいよ今日だね、、」
南は緊張した顔で水に話しかける。
「うん」そう一言放って水は深く頷いた。
そして待ちに待った給食の時間が来た。
同じ班である水と南は割烹着に着替える。
水の割烹着のポケットには夾竹桃の葉が15枚入っている。
南が気を逸らしてその間に水が金子のサラダに混入させる作戦だ。
クラスの皆が配膳の列に並び、1人2人と給食を受け取り席に戻っていく。
犯行の時は迫った。
金子が南からカレーを受け取るとき、南はわざとカレーをこぼした。
するとそれが金子の制服を汚した。
金子は「てめぇ!どうしてくれるんだ!」と南の胸倉を掴む。
周囲の注意が南と金子に移る。
その隙に水は皿を下に下げて誰からも見えない位置で夾竹桃を入れる。
そして、その上からサラダを持って混ぜる。
都合よく夾竹桃に似た葉のサラダが混ざっているため、バレる事はないだろう。
「ごめんごめん!ごめんってば!」
南が必死に謝り、金子は南を突き飛ばすと乱暴にカレーとサラダを受け取って席に着いた。
「南ちゃん、大丈夫?」
「へへへ、大丈夫」
2人はそんな会話をしながら金子を見ていた。
無事に配膳が終わり、食事の時間となった。
水と南は席をくっつけて元気に雑談しながら食事をしている。
一方で皆から嫌われている金子は窓際に席を付けてスマホをいじりながら食事をしていた。
水と南は視線でやり取りしながらチラチラと金子の方を見るが、サラダに混じった夾竹桃の葉を当たり前のように食べていた。
2人が「やった!」みたいな顔をする。
気が付けば金子は給食を間食していた。
給食を食べ終わる人が増えてきて、30分ほどで全員が間食した。
水と南は台車を使って食器を給食室の前に戻した。
すると、具合悪そうに口に手を当てた金子が廊下にいるのが見えた。
階段を降りた先の流し場で吐こうとしているのかふらふらとした足取りで階段へ向かう。
その時、金子は足を滑らせ転倒した。
そのまま頭を階段の角にぶつけ、踊り場まで滑り落ちた。
周囲に生徒たちがいたが皆金子を無視して通り過ぎたのだった。
そして、なんと金子はそのまま放置されたまま午後の授業がスタートした。
西が丘では授業をバックレるのが普通のために出席を取った教員は金子がいない事を異常だと感じていない。
当たり前のように授業が始まって終わり、また次の授業が始まって終わり、放課後を迎えた。
水と南はこの事を部室の桜彩に伝えた。
「2人ともよくやったね、、」
そういうと桜彩は2人を抱きしめてくれた。
その日は皆晴れやかな気持ちで槍の練習をし、帰路に付いた。
翌朝。
登校すると担任から金子の死が告げられた。
死因は階段で転倒し、頭部を強打した事によるくも膜下出血だそうだ。
放課後、戸締りの確認をしていた教員が発見して救急車を呼んだがとっくに死亡していたようだ。
それを聞いた水と南は目線を合わせる。
「やってやった!」みたいな顔をする。
一方で他の生徒は他人の死に無頓着みたいで机の上に足を乗っけてスマホをいじっていたり、爆睡していたり、隣同士で雑談なんかをしている。
そう、人の死などは実はこんなものだったりするのだ。
誰しもが平等に尊い命であると言うのは綺麗事に過ぎない。
そして、金子の両親も出来の悪く素行の悪い次男が亡くなった事を内心喜んでいた。
父親は家業を出来の良い一流大学に通う長男に継がせるつもりであるし、相続も長男に全額渡せる事を喜んでいた。
そう、生きている事を望まれない命もあるのである。