これで いいんだ
《背中鬼》から逃げられた安心感と、この小さな命をおきざりにした後悔とで、大声で泣き出したポールに驚いたジャンは、つられたように泣き出し、幼い兄弟は、《湿地》の中でしばらく、抱き合って泣き続けた。
「・・・そういうわけで、・・・おれは、おまえのおかげで、《背中鬼》につかまらずに済んで、・・・人殺しにも、 ならずにすんだわけだ・・・」
肩から力をぬくようにして息をつき、両手をテーブルの上におくと、ようやく、赤く潤んだ目をジャンとあわせた。
「 ―― 反省したおれは、それから心をいれかえて、おまえの面倒をみてきた。 だけど、やっぱり、小さかったって言っても、どっかでおぼえてるんだろうな。 ・・・おまえが、おれのことを嫌いだしてくれて、ようやく、おれは、・・・《心が落ち着いた》ってのが正直なところだ。 ・・・おまえのこと、殺そうとしたのに、いつまでも《慕われるいい兄貴》ってポジションじゃ、おかしいもんな。嫌っていいんだ、おれのことなんて。 ・・・今度のこの事件に《背中鬼》がからんでるってわかったとき、―― そっちの州にいくのは間違いないだろうとおもったから、ベインに頼んだんだけど、失敗だったな。 ・・・おれの予定だと、ベインに紹介してもらったジョーと《湿地》に行って、おれが『おとり』で《背中鬼》を捕まえようかとおもってたんだ。 ・・・本で読んだ限り、鬼ってのは《一度かかわった人間》のこと、よく覚えてるってあったから、こんどこそ、おれがつかまりゃいいと思ってたし・・・。 ま、そんときはまだ、おれをつけてる《コウモリ》が、《背中鬼》だと、勘違いしてたんだけどな」
わらいながら灰皿横に置かれた煙草をつかみあげると、上着のポケットに押し込み立ち上がる。




