『鬼』はジャン
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はっ、はっ、と吐く息が自分の耳にひびいている。
左右にたかく生える枯れた草をかきわけるようにすすめば、水気をなくしたそれらがガサガサと抗議するように音をたてる。
音をたてるな、と言いたかった。
前はみえない。
たよりないこの細い道がどこに出るかもわからない。
ガサガサガサ
右おくの方から、枯れ草がさわぎだす。
くるな くるな
両手をにぎりあわせ、ゆれる枯れ草の中、せまりくるモノに願った。
「 っばあっ 」
「っ!?」
左側の枯れ草の中から、喜びにみちた表情をうかべた
―― 《鬼》がとびだした。
※※※
ポールは下をむき、喉がつかえたようなわらいをもらして首をふった。
「・・・おまえだよ、・・・おまえが、枯れ草の下のほうからとびだして、―― おれに、だきつきやがったんだ・・・。おれに置き去りにされて、きっとずっと泣いてさがしてたんだな。涙と鼻水でぐしょぐしょの顔で、 ―― それでも、おれを見つけられたのがうれしくて、おれの名前をよんで、・・・・・だきついてきた・・・」
ジャンは高い声でポールの名前をなんどもよび、みつけられたのが嬉しくてしかたないというように、足にぎゅっとしがみつき、小さな手でたたいてくる。
 




