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№33 ― 背中鬼 ―
猿の腕を、もっともっとのばしたような、細長い腕に、濡れたように光る毛が、からまるように生えている。
その腕をもった《モノ》が、草をふみわけて現れた。
『 お ま え 』
腕をつきだした黒くおおきな《かたまり》が、こわれたスピーカーがだす音のように、ガガガ、とか、ザザザ、という雑音をともない、低く響く声をだす。
がざがさと草をわけながら、黒い《かたまり》が、寄ってくる。
『黒いかたまり』にみえるのは、体とおぼしきものも腕と同じように、濡れてからまった毛でおおわれているからだ。
丸まった背から、髪の毛のように生えた毛が、長く足元までたれている。
膝は曲がって外をむき、毛からのぞいた足先は人間とおなじように五本にわかれているが、指も爪も長い。




