№32 ― ジャンになったコウモリ ―
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風にゆすられた草が音をたて、誰かが通るように、きれいにわかれた場所に、ジャンが突然現れた。
「ジャン!無事だったか?」
寄ろうとするポールに片手をあげると、乱れた息をととのえる弟が「おれは、おまえの弟じゃねえよ」と言い切る。
「な、―― コウモリか?なんだってんだ?こんなとこに」
「いいか、あんたの本物の『弟』は無事だ。 っていうか、《背中鬼》は、あんたの方しか狙えねえよ」
「ならそれでちょうどいい。おれのところに《背中鬼》がくれば、そのまま捕まえればいいだけだ」
言い切った人間を、《ジャン》の姿をした《コウモリ》が、眉をよせて見返す。
「あんた、・・・《背中鬼》のことなんだと思ってんだ? いいか、人間の犯罪者を捕まえるようなわけにはいかねえぜ」
「そんなことわかってる。いちおう、下調べはしてるからな」
いやいや、と《ジャン》は手をふった。
「―― まさか、『鬼の種類と区分』で勉強したとか言わないでくれよな? あれは、大昔におれが人間に書かせた本だぜ?あてになるかよ。だいたい、《背中鬼》はいまじゃ、十人以上の人間を喰ってんだから、―― 」