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方向は無くなる
「ジャン!どこだっ!」
彼の仕事仲間にあんなことを言ったくせに、けっきょく、自分が弟をここに連れてきてしまった。
着いたときにさわったジャンの車のボンネットは暖かかった。
それほどの時間差はないはずだと、願うように考える。
ざざざざざっ
草がとつぜん分かれ、しらない男が銃をかまえ現れた。
「あんた、どっちのクレイグ?それともコウモリ?」
「本物で兄貴のほうだ。おまえ、警官か?」
うなずいた男は自分が現れた方角をさし、おっかしいな、と首をまげた。
「相棒とはぐれちゃったよ。おれ、北から南コースのはずなんだけど、もしかして方向まちがえてる?」
「ここで、そんな作戦は通用しない。銃をしまえ。仲間はもう穴に落ちてるかもな。先にそっちをさがせ。ジャンはおれがさがす」
銃をしまう男を置いて、その男が現れた方向をめざす。