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20 公爵、笑い転げる

 公爵の執務室では話が続く。


「あ、タンジーあれをお見せしないと!」


 ルジーに肘で押されたタンジェントは、執務室の扉の横に立てかけてある品を取りに行き、包みを開きながら公爵の側へ行く。


「それは?」

「ドレイファス様の絵をもとにした穴掘り棒です」


 もっとよく見ようと公爵は立ち上がり、タンジェントの側に来て、それを手に取る。


「私が使っていた穴掘り棒を加工したものなので、少し汚れていますが」

「構わん」


 黒い瞳がじーっと、手にした穴掘り棒を見つめている。


「タンジェント、君はこの穴掘り棒を使ってみたかね」

「はい。今までの穴掘り棒に比べ、土に差込みやすく、一度に土を掘りあげる量も多かったです。畑や庭園、建築などいろんな仕事で役に立てるでしょう」


 公爵はしばらく考え込んで、口を開いた。


「タンジェント、君はタンジーと呼ばれているのか?私もそう呼んでも?」

「はっ、はいっもちろんです」


 公爵は黒い瞳を細めて、そっと笑い、タンジェントを見つめた。手に穴掘り棒を持ったまま。


「まずは礼を言いたい。

ドレイファスの夢をひとつ形にしてくれた。ペリルも協力してくれているんだな。これからも力を貸してやってほしい」

「恐悦至極にございます」


 視線を穴掘り棒に移し、さらに見つめながら続ける。


「これをしばらく使い続けてみて、改良できそうなところがあるか考えてみてくれないか。そうだ、何本か試作してみようか」

「庭師は私だけですので、そう何本もあっても使いきれませんが」

「庭師を増やそう」

「え?増やすんですか?」


 マトレイドが反応した。


「これからペリルの方もやってもらうのだ。話しどおり畑を増やせるとしたら、数年後は手が足りなくなることも考えられるだろう。そのときに慌てるのではなく、今から仕込むべきではないか?」


 みんな納得の顔を浮かべた。


「ところで、この穴掘り棒だがもともとタンジーが使っている物に手を入れたんだったな。穴掘り棒というのは市井に売っているものだろうか?それとも必要に応じて注文するものか?」

「穴掘り棒は大工に注文して作ってもらうことが多いですね」

「そうか。では大工も雇おう」


 ドリアンの一言に皆、えっ?と漏らした。


「大工をですか?なぜ?」

「わからんかな。穴掘り棒を試作し、改良して商品化してはどうかと思ってな。いずれ公爵領は畑を増やせるようになるのだろう?今までのような自然任せではなく、人為的に。農具も需要が増えるようになるだろう?今から良い物を出すための準備をするのだよ。いちいち注文を出すより、ここで抱えたほうが早いし情報的にも安全だ」


─さすがだ─


 マトレイドやカイドは、ドリアンの先見の明に舌を巻くことが以前にもあった。


「未来を見据えて、やることがたくさんあるな」


 マトレイドが手を上げて発言を求める。


「あの。ドレイファス様に直接関わる者や、カミノメによって新たに生み出される物や事に関わる者は秘密保持のため、神殿契約をしてはいかがでしょうか」

「なるほど、確かにそうだな」

「神殿契約があると聞いて怯むなら、外せばよいですし」

「そうしよう。ああ、この件にかかる費用は当然ながらすべて公爵家が負担する。神殿契約だけではなく、穴掘り棒の試作にかかる材料から何から。ドレイファスが言うことを試そうとする際にかかる費用は私に決済を求めなくともよい。マドゥーンに自由に使える予算を預けるのでマドゥーンも理由をいちいち確認せずともよい」


「そ、そんな。不届き者がいたら・・・」

マトレイドが止めようとするも

「ん?大丈夫だ。神殿契約をするのだろう?」

「あっ!そうでした!」


 おかしそうにドリアンが声を上げて笑っている。その手にはまだ穴掘り棒があり、タンジーが削った先を指で触っている。


「ドレイファスが見る世界、私にも見るチャンスがあったのか・・・。知らずに失ってしまったことが残念でならん。見てみたかったよ本当に」


 黒い瞳が遠くを見た。

と思ったら、もう決意を秘めた瞳に戻っている。


「先日もマトレイドには話したが、資料室の調査が終わったら、マトレイドとロイダルはルジーに合流してドレイファスの護衛についてもらう。今は外にも出ないし、あまり目立ちたくないので情報室で荒事に慣れた三人で固めようと思っている。

表向きは専属の家庭教師とでもしておくか?」


 家庭教師という柄ではない三人だ。

笑えないが、笑ってはいけないのだろうが男たちから苦笑が洩れた。


「情報室を外すと考えていたのだが、情報室内にドレイファスのチームを作ろうと考えている。そして資料編纂のカイドとハルーサもこちらへ移す」


 ええっ?とカイドが声を上げた。

資料編纂はカイドのライフワークと言える。楽しくてたまらない仕事を取り上げられる?と情けない顔を浮かべたのを見て、黒い瞳の公爵は面白そうに笑う。


「ドレイファスが我らに与えてくれるものが、この世界に既にあるものか調べる者が必要になるだろう。世界は広いからな。意気揚々と出しても、他にもっと優れたものがあったら恥をかくことになる。公爵家の資料係は他に雇い、カイドとハルーサはこちらを専門に。調査に必要になるだろうから王城図書室の通年の入室許可証を申請しておこう」


 カイドが、絶望から喜色満面の幸せに満ち溢れた顔に変わった!

ドリアンはもう我慢せずに笑っている。


「マドゥーン、マトレイドをチームリーダーとして、今名前をあげた者たちが出入りできるよう鍵魔法をかけた部屋を用意してくれ。広い部屋をな」


 マドゥーンがすぐ使命を果たそうと扉に向かったのを、ドリアンが止めた。


「まだ話は終わっていないぞ、マドゥーン」


 執事長が足を止めて、こちらへ戻る。

ドリアンは、少しの間何かを考えているように瞳を宙に彷徨わせてから、大きく一呼吸した。


「真面目な話、ドレイファスの能力が外に知られたら間違いなく狙われるだろう。故に屋敷にいる者は信用のおける者を配置することを徹底してもらいたい。

ドレイファスの五歳という年齢を考えるとそろそろ側近候補を考えねばならん。従者もだ。いずれ学院へ入学するときの学生護衛の候補も育成せねば。まずは遊び相手を選び、その中から見極めたいが、候補に相応しいものがいたら推薦してくれ」


「専属侍女のメイベル嬢はこのままで?」


マトレイドが訊ねるも


「メイベルとグレイザールのリンラ、ノエミののトロイラはマーリアルの従姉妹の娘だ。マーリアルは彼女らがこどもの頃から可愛がっており、信頼はしているが神殿契約をするよう伝える。

輿入れまではこのままでよいと思っているんだが、念のためもう一人侍女をつけようか?」


(おお、知らなかった!メイベルは奥方様の血縁か。って!輿入れだと?)


 そう、気づいたときにはルジーは手をあげ、食いつくように質問してしまっていた。


「あの、メイベル嬢は輿入れの予定があるんでしょうか?」


 黒い瞳がこちらを見た。

じーっと見ている。瞬きもせず、じーっと。

ルジーは息がつまりそうになって、ふはぁと息を吐いた。


「ない。少なくとも今のところは婚約なども聞いていないが、あの器量とせいか・・・くはまあ、だいぶ元気いっぱいかもしれんが、そのうち気に入って申し入れてくる貴族もいるだろう。男爵家の後継だしな」


「え、後継?なのに侍女を?」


「婿をとって家を継ぐ娘だが、いっとき高位親族に行儀見習いに行くのは珍しくはないだろう?メイベル、リンラ、トロイラとも我が家で良い縁を結んでやりたいとマーリアルが言っているしな」


─確かにそうだ。そっか・・・跡継ぎ・・・─


「ルジーがメイベルを気に入っているなら、話をしてやってもよいぞ」


 まさかのドリアンがニヤニヤしている!

それだけではない、そこに居合わせた全員がニヤけてルジーを見ている。

それに気づいて、ルジーは真っ赤になった。


「い、いや・・・」

「ああ、いやならいいんだ。誰かほかに」

「い、いやさばゃだ・・・」


 ぷっははは!とみんなが笑い出す。

ドリアンもだ。


「冗談だ、そんなに噛むほど焦らなくてよい」


 と言いながら、ケラケラ笑っている。

感情を抑えていることの多い公爵の、ちょっとお行儀悪いその笑い方は、ごっきげんなドレイファスのそれとそっくりで。ああやっぱり間違いなく親子だ!と、ルジーは考えていた。

 堅苦しい生真面目な公爵だと言われているが、意外とそうでもないのかもしれない。

ルジーだけでなく、接することの多いマトレイドまでもそう感じていた。


「皆がいるところでからかって悪かったな。だが、バルモンド子爵家の末子のルジーなら、家格も年齢も、どちらにとっても悪くないと思うぞ。公爵家としても、どちらも信頼のおける傘下の家だから結束が強くなる縁組は大歓迎だ。私から政略結婚を勧めてやってもよいぞ。ふふふ」


ふふふふふとまだ笑っている。


「ルジー、少し考えてみてはどうだ。答えは急がない。さあ、それでは本日はこれにて解散だ」


お読みいただき、ありがとうございます。

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