それは、決着と脱出でした
クリスが勢いよく体を起こす。
緊迫した空気。
カリストたちが一点を見ている。クリスも自然と視線が動いた。
そこには、怒りで顔を歪めているボルケーノの姿が。
「駒といい、貴様らといい、人間ごときが調子に乗るな!『電雷!』」
電流が縦横無尽に走る。予測不能な電流の動きに、全員が飛び散る。バチバチと音がうるさい。
カリストが大きな声で花子に訊ねた。
「回路の特定まで、あとどれぐらいですか!?」
「三分ちょうだい!」
切迫した声をカリストがクリスにつなげる。
「だ、そうです! 時間稼ぎをお願いします!」
「三分とは、なんだ!?」
「時間の単位です! 紅茶の茶葉を蒸らすぐらいの時間です!」
「長い!」
クリスが怒鳴りながら、右手を上げた。電流がクリスの手の中に集まる。そこにボルケーノが、突進してきた。
「女! 貴様だけは、この手で引き裂く!」
クリスが直前で攻撃を避ける。次々と繰り出される拳を、紙一重でかわす。風圧で髪が揺れ、飛んだ汗が拳に殴られる。
軽いステップで避けるクリスに、ボルケーノが吠える。
「何故だ!? 何故、当たらん!?」
「おまえの攻撃など丸見えだ。脳筋」
「くぉのぉぉぉお!」
クリスの安い挑発にボルケーノの顔が赤くなる。拳の速度が上がったが、動きは雑になった。
攻撃を避けながらクリスがボルケーノに訊ねる。
「なぜ、そんなに人間を恐れている?」
「恐れるだと!?」
「そうだろ? 人間が進化し、おまえたちに追い付くのを恐れている。だから、そうなる前に文明を消しているのだろ?」
「そ、そのようなことはない! 人間ごときが、我らと同等になるなど! ありえん!」
否定ながらも攻撃は乱れる。クリスが言葉で追い詰めていく。
「本当にそうか? 神や悪魔を名乗っているが、それは本当の姿か? それとも、おまえが知らないだけか?」
「うるさい!」
怒り任せの攻撃は単調になり、動きがよみやすくなる。クリスはひたすら攻撃を避けながら会話に専念した。
「薄々、気づいているのだろう? だから犬の体を使い、近くで人間を観察をした」
「黙れ!」
「神や悪魔と大差なかっただろ?」
「黙れ! だまれ!! ダマレェェェェェ!!!」
ボルケーノが我を忘れて攻撃をしてくる。どうにか攻撃を避けていたが、服や体をかするようになってきた。
目では追えているが、徐々に早くなるスピードに体がついていかない。いつ攻撃をくらってもおかしくない。
その光景にオグウェノが叫ぶ。
「月姫!」
「ダメです」
飛び込もうとしたオグウェノをカリストが止める。
「魔力もなく、どうにか動けているあなたでは、邪魔になるだけです」
「……クソッ!」
オグウェノが吐き捨てる。ギリギリと奥歯を噛むオグウェノの肩に手が触れた。
「これを持っていてください」
自然に渡され、オグウェノは状況も忘れて受け取っていた。手の中には藁で出来た人形と楔。
「おまっ!? おい! これ……」
オグウェノの前で赤髪が揺れる。その先では、バランスを崩したクリスが倒れかけていた。
ここぞとばかりに、ボルケーノが踏み込む。腕に力をため、腰を捻る。
「終わりだ!」
ボルケーノが拳を振り下ろす。が、その先にクリスの姿はなかった。床が風圧で砕ける。
「どこだ!?」
「ここですよ」
ルドが左手でクリスの腰を支え、右手は手を添えて立っていた。まるでダンスのエスコートをしているような姿勢。
クリスが顔を上げてルドを睨んだ。
「遅いぞ」
「すみません。寝坊しまして」
思わぬ返しにクリスが笑う。
「おまえでも寝坊することがあるんだな」
「人間ですから。あと、師匠も」
クリスの顔から笑顔が消える。ルドは悲しそうに微笑むと、クリスと置いて前に出た。そこに花子の声が響く。
「回路特定完了! 門開放!」
天井に大穴が現れる。闇のような漆黒一色で、ゆっくりと渦巻いている。底なしで、全てを吸い込むような不気味さが漂う。
その穴にボルケーノが驚愕する。
「まさか、人間ごときが門を!?」
「大量のエネルギーを使用しますので、長くは維持できません」
「そういうことは早く言え!」
カリストの説明にクリスが怒る。ルドが前に出る。
「ボルケーノをあの穴に、ぶち込めばいいんですよね?」
「ぶち込……はい、そうです」
ルドの言葉使いに、カリストは少し驚きながら同意した。
「早く済ませましょう」
「イディでも、あれだけやられたんだぞ。そう簡単には……」
クリスがオグウェノを止め、ルドに視線を送る。
「やるぞ」
「はい」
ルドがボルケーノに飛びかかる。すぐにボルケーノが飛び退くが、そこにクリスが手に持っていた電流を放出する。
『防壁!』
ボルケーノが魔法で防ぐ。そこに、ルドの蹴りが飛んでくる。
蹴りを避けながら、その反動を利用して、ボルケーノがルドに拳を繰り出す。ルドはワザと体のバランスを崩し、床を転がりながらボルケーノから離れた。すかさず追いかけるボルケーノに、クリスが連続で魔法を飛ばす。
「クソッ!」
ボルケーノが魔法を避けながらクリスを睨む。
「調子にのるな!」
意識がクリスに向いた瞬間、ルドが飛びかかる。ボルケーノの懐に入り、腕を掴んで投げ飛ばす。そこにクリスが竜巻を起こし、ボルケーノを穴へと吹き上げた。
『消滅!』
ボルケーノの魔法により、竜巻があっさりと消える。クリスが悔しそうに呟いた。
「普通の魔法は効かないか」
「残り一分!」
花子の声に全員が焦る。
「このまま逃げ切れば、我の勝ちだな」
「クソッ!」
ルドが突進するが、ボルケーノが体を傾けるだけで避けた。走り抜けたルドが、勢い余って床にこける。
「フッ、無様な……なにっ!?」
こけたフリをしていたルドは、床に手を付き、油断していたボルケーノに足払いをした。
「しまっ!?」
足払いが決まり、ボルケーノが前へ倒れていく。そこに、ルドがボルケーノの背中を踏みつけた。
「グハッ!」
ボルケーノが床に叩きつけられる。ボルケーノの背中を踏み台にして飛び上がったルドは、両手を床に向けて詠唱した。
「噴火!」
床から火柱が上がり、ボルケーノの体を押し上げる。逃げ出そうとするが、火柱の勢いから逃れられない。
「クソッ! このままで済むとおもぅ……」
火柱が穴の中に突き刺さり、そのまま黒い柱となって塞ぐ。
「門封鎖!」
すかさず花子が叫ぶ。天井から穴は消え、黒い柱だけが残った。
地面に転げ落ちたルドが咳き込む。呼吸を整えながら、体を起こす。
そこに、クリスが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?」
「だぃ、じょぅ……ゴホッゴホッ」
返事をしたいが、息をするだけでむせる。
「あの魔法を使うとは無理をしすぎだ。また魔力が枯渇するぞ」
「加減した、ので、ゲホッ。大丈っ……ゴホッ」
「話すな。カリスト! これで終わりか!?」
カリストが操作している花子を見る。少しして、花子が頷いた。
「よしっ! 隔離完了! これで神たちの世界から干渉されなく……」
大きく床が揺れた。
「なんだ!?」
「地震か!?」
揺れが続き誰も動けない中、爆発音が響く。
カリストが宙を撫でる。そこに半透明のモニターが現れ、映像が映し出された。
「現状報告。図面の提示」
『地下C3地区より爆発、出火あり』
モニターの地図上の一部が赤く光る。カリストが花子に指示を出す。
「皆を連れて、居住区へ移動してください。あそこが一番安全です」
「おまえは、どうするんだ!?」
花子が答えるより早く、クリスがカリストに飛びかかった。爆発音が耳を突き刺し、床が揺れる。
クリスの中で、幼い頃の記憶が甦る。
爆発音と炎が迫ってくる中、必死に走って逃げていく。仲間を犠牲にして、残して、最後は一人だけ脱出した。嫌でも今と重なる。もう、あんな思いはしたくない。
「おまえも、来い!」
「月姫!」
揺れが静まり、オグウェノがルドを支えて立ち上がる。だが、クリスはカリストから離れようとしない。
「ダメだ! カリスト、おまえも……」
カリストが白く綺麗な指でクリスの口を塞ぐ。
「申し訳ございません。話している時間も惜しいので。花子、後は任せます」
「任せて!」
花子が明るいく答える。クリスは怒りながら振り返った。
「おまえ、仲間ならっ……」
「ウォッ!」
「なっ!?」
突然、床が消え浮遊感が体を包む。
「クリス様。生きて、幸せになってください」
「カリストォォォ……」
四人は暗い穴の中に落ちていった。
クリスの過去の記憶については
「ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる」の
82話 「ルドによる精神的な崩壊」の後半にあります




