表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/76

それは、反撃のきっかけでした

 クリスから無詠唱で魔法が連発される。


 火球。風刃。岩石。氷塊。


 前触れなく四方から攻撃される。考えている余裕などない。とにかく逃げる。


 自分への苦痛なら、いくらでも耐えられる。だが、クリスが襲われる光景は、耐えられない。助けたくても、その頃には死ぬ寸前で動けないだろう。

 死ぬまで戦わされる。勝つまで、終わりなどない。


「攻撃するしか……ないのか……」


 どこかでボルケーノが嘲笑う気配がした。怒りで頭の血管が切れそうだ。

 ルドが歯ぎしりをして覚悟を決める。


「すみません!」


 ルドがクリスの懐に入る。腰を落とし、手に力を入れる。


 せめて痛みがないように。


 魔法を詠唱する寸前。クリスの口が動く。ルドは一瞬乱れたが、すぐに魔法を発動した。


落雷(サンダー)


 ルドの手から放たれた雷がクリスを直撃する。


「師匠!」


 膝から崩れるクリスを抱きとめる。青白い顔に金髪がかかる。深緑の目が開く様子はない。呼吸は微かにしている。


「これで、消えるな」


「なに?」


 ボルケーノがこちらを見下ろしている。ルドは眉間にシワを寄せて睨んだ。


「消えるとは、どういうことだ?」


「その女は貴様の心の中の感情。つまり、その女への感情だ。それを自分で攻撃した。心の中では、自身から攻撃をされた感情は消える!」


「なっ!?」


 ボルケーノが声高に笑った。


「これで邪魔な感情は消えた! これで勝ったも同然! あのスカしたラプラス(インテリ)の悔しがる顔が目に浮かぶわ!」


「そんな……そんなことのために自分に師匠を攻撃させたのか! 己の満足のために!?」


 ボルケーノがフンと鼻をならす。


「貴様のためでもあるんだぞ。貴様が負ければ、今の文明は消える。いいのか? こんなに早く消えても」


「そもそも、おまえたちが人間に関わらなければいいだけだろ!」


「説明しただろ? 人間は繁栄を極めれば、周りを巻き込んで衰退する。その時の被害は甚大だ。だから、そうならないように、我々が手助けをしてやっているのだ」


「本当にそうなのか? 必ず周りを巻き込んで衰退するのか? また繁栄する可能性はないのか? 未来は簡単には決まらない! それを駒同士で戦わせて決めるなど、適当過ぎる!」


「人間ごときでは、理解できないことだ」


「そんなことっ……」


 ルドが薄い琥珀の瞳を睨む。その奥に何かを見た。ルドの目が大きく開く。


「娯楽……だと? 刺激のない長い時間の、娯楽の一つ、だと?」


「なぜ、それを!?」


 余裕だったボルケーノの顔が崩れる。ルドが怒鳴った。


「しかも、神と悪魔の争いが勃発して、人間の世界を放置した!? しかも、その間に神と悪魔の存在を忘れた人間を憎んで、師匠の一族たちの文明を消しただと!? そんなの逆恨みじゃないか!」


「貴様! それを、どこで知った!?」


 激怒しているルドはボルケーノの言葉を蹴った。


「人間をなんだと思っている!? 神や悪魔に比べれば、生きる時間は短い! だが、それでも一生懸命生きているんだ! それを!」


「落ち着け。怒りで自分を見失うと、正常な判断ができなくなる」


 ルドの頬に白い手が触れる。それだけで怒りが消えた。ルドが腕の中に視線を落とし、微笑む。

 その光景にボルケーノが驚愕した。


「なぜ、そこにいる!? なぜ、消えておらぬ!?」


「攻撃を受けていないからな」


 クリスが立ちあがる。ボルケーノがルドを睨んだ。


「どういうことだ!?」


「攻撃をする直前、師匠から提案がありまして。自分が攻撃する魔法を相殺する魔法を、師匠が同時に発動したのです」


「で、私は攻撃が当たったフリをして倒れた」


「くそっ。無詠唱魔法を逆手にとったか。いや、それより女! 貴様は何者だ!? こいつの感情の一部ではないな!?」


 クリスがボルケーノを無視して自身の全身を見る。


「この服……記憶が戻った日の朝、夢の中で着ていた服と同じだな。で、ここはおまえの心の中で間違いないか?」


「そうらしいです」


 肯定しながらルドがクリスを見つめる。クリスが一歩引く。


「な、なんだ!? なにか文句でも、あるのか?」


「いえ……」


 呟きと共にルドがクリスに手を伸ばす。そして、ゆっくりと抱き寄せた。


 あたたかな体の温もり。変わらない深緑の瞳の輝き。ずっと、この目に会いたかった。柔らかく腕に収まる体は同じなのに、なのに違う。


「やっと、やっと会えました」


 壊れないように。逃がさないように。そっと、確認するように。しっかりと抱きしめる。噛みしめるように、堪能するように。深く、深く、クリスを全身で感じる。


 ルドが感極まっている一方で、クリスは突然のことに硬直していた。まさか、ルドがこんな行動をするとは思っておらず、反応できない。


 各々の世界に浸っている二人に、ボルケーノが怒鳴る。


「女! 貴様は何者だ!?」


「見たら分かるでしょう? 師匠です」


 ルドが手を緩めることなく、顔だけを上げて説明をする。その動作は、少しでもクリスを離すことを惜しみ、尚且つ、ボルケーノにクリスの顔を見せるのも、惜しんでいる。


 ボルケーノが語尾を荒げる。


「そうではなく!」


「そういえば、師匠。どうやって、ここに?」


 ルドがボルケーノを無視して、腕の中に視線を落とす。クリスが顔を上げると、ルドが今まで見たことがないほど穏やかで、嬉しそうな顔をしていた。

 クリスの顔が噴火しそうなほど顔を赤くなる。


「ま、前に、おまえの魔宝石を飲み込んだことがあっただろ? その時、おまえの心の中のような場所に行ったから、今回も……」


「……師匠、自分の魔宝石を飲んだんですか?」


 明らかにルドの声が下がる。クリスは気まずくなって、視線を足元に逃がした。いつもなら必要性を説明して、無理やりにでも自分の意見を押し通す。それが、なぜか今は出来ない。


「あ、あぁ」


「そうですか」


 説教されると思ったクリスは、ルドがあっさり納得したので不思議に感じて顔を上げた。そして、後悔した。


「そのことについては、あとでしっかりとお話ししましょう」


 とてつもなく良い笑顔なのに、その背後には不気味で不穏で得体が知れない、何かが渦巻いている。クリスは、ルドがエルネスタの息子であることを確信した。間違いなくエルネスタの血を受け継いでいる。


 クリスが顔をひきつらせる一方。余裕のルドはもう一度、愛おしそうにクリスを抱きしめた。


「師匠、ありがとうございます。あなたが来てくださったおかげで、すべてが分かりました」


「どういうことだ?」


 ルドが名残惜しそうにクリスを離す。


「まずは、ボルケーノをここから追い出しましょう。話はそれからです」


「それは、おまえが起きればいいんだろ?」


「はい。ですが、ただ起きて追い出すだけでは、少し癪ですので」


 ルドの姿が消える。次に姿が見えたのは、ボルケーノの前だった。


「お返しです『業火!』」


 複数の火柱がボルケーノの足元から噴き上げる。ボルケーノが間一髪で横に飛び退く。その先には、剣を振りかざしたルドがいた。


「チッ!」


 ボルケーノが左腕に付けている手甲で受け止める。そのまま右腕をルドの横腹めがけて殴り込む。が、その前に、ルドが一歩後ろに下がった。


『激流!』


『電撃!』


『噴岩!』


 攻撃魔法の連続にボルケーノは逃げる。なぜか体の動きがいつもより鈍い。

 ルドと距離を取ったボルケーノが、足元を見る。そこには、ドロリとした形のない、何かがへばりついていた。


「な、なんだ、これは!?」


 ボルケーノが剥がそうとするが剥がれない。ルドは口角を上げた。


「嫉妬、憤怒、憎悪。様々な負の感情ですよ」


「なに!? おまえ、まさか!?」


「今まで、ずっとこの感情たちから目を逸らしてきました。ですが、こうした使い方も出来るなら、悪くないですね」


「まさか、心の中をコントロール出来るように? いや、人間がそのようなこと……待てよ。貴様、さっき我の思考を読みとったのか!?」


 ルドが答えることなく右手を高くかがげる。


『氷牙!』


「なっ!?」


 円形闘技場の上空を埋め尽くす氷山が宙に浮いている。


「人間は、神と悪魔(あなたたち)娯楽道具(おもちゃ)ではない!」


 唖然と見上げているボルケーノに、ルドが右手首をクイッと下げる。迫りくる巨大な氷にボルケーノが初めて焦りの顔を見せた。


「クソッ!」


 ボルケーノが姿を消す。展開の速さに、クリスは見ていることしかできなかった。


 ルドがクリスに近づく。


「師匠も戻ったほうがいいですよ」


「あ、あぁ」


 呆然としているクリスにルドが首を傾げる。


「どうかしましたか?」


「おまえ、本当に犬か?」


 手際の良さと、先ほど見せた顔。いや、元々ルドは手際とか要領は良かった。ただ、負などの醜い感情を嫌っており、見ることも出すことも避けていた。


 ルドが悪戯をした子どものように笑う。


「自分の気持ちから目を背けることは、やめました。すべて自分なのだと、昔師匠が教えてくれましたから」


「教えたか?」


「すべて、受け入れてくれるんでしょう?」


 ルドがクリスの頬に触れる。それだけでクリスの脳裏に記憶が甦った。ルドの魔宝石を飲み込んだ時、ルドの心の中で言った。


 ポンと顔が赤くなったクリスが、口をパクパクと動かす。しかし、声にはならない。


「ここは自分の心の中。いわば、自分はこの世界の(あるじ)です。そんなところに、こんな無防備に入ってきたら、師匠の感情も記憶も全て見えてしまいますよ?」


「……まさか!? ぜ、全部見たのか!?」


 クリスが頭を抱えて下がる。ルドは意地悪そうに微笑んだ。


「いえ。師匠が一番大切にしているところは、見ていません。ですが、長くいると……」


「出て行く!」


 声とともにクリスの姿が消える。


「すぐに、会いましょう」


 世界がクニャリと歪み砕け散った。


 ルドの心の中~すべてを受け入れる~云々の話は

「ツンデレ治療師は軽やかに弟子に担がれる」の

80話「クリスによる新たな癒しの発見」

にあります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ