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ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


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それは、クリスの策略でした

「「じゃーんけん、ポン!」」


 クリスはパーで、オグウェノはチョキを出していた。


「くそぉ!」


「よっしゃ!」


 クリスは地面に膝をついて悔しがり、オグウェノは握りこぶしを天高く掲げ歓喜した。

 その光景をカリストが生温かい眼差しで見守る。


「これで世界の在り方が決まっていいのでしょうか……」


「楽しいからいいじゃん」


 花子の無邪気な声にカリストは耳を殴られた。




 ひと悶着もようやく終わり、カリストが禁書に載っていた魔法の情報を出す。


「クリス様、こちらで間違いないでしょうか?」


「なぜ、ここにあの本の内容が!?」


「ここには、神と悪魔の交代劇で消された、歴代の情報を出来る限り残しています」


 クリスが宙に現れた魔法の説明文を読む。


「この魔法で間違いない」


「……オレは初めてみる魔法だ」


 見たことも聞いたこともない言葉の羅列と、手の甲に描くという魔方陣らしき図。

 オグウェノが呆然と魔法の説明を読んでいると、カリストが右手に触れた。


「なんだ!?」


 反射的に手を引っ込めたオグウェノに、カリストが淡々と説明する。


「手に、この図を描こうと思いまして。本当は術者の血が良いそうですが、代用の血でもいいでしょう」


「血が良いなんて、どこにも書いてないぞ!」


 花子が補足説明をする。


「こういう系の魔法って、血を使うことが前提なんだ。だから、少ない魔力で魔法が使えるの。でも、他人の血って気持ち悪いだろうから、人工的に作った血にしておいたよ」


「人工的に血が作れるのか!?」


「月姫! そこ、喰いつくところじゃない!」


 オグウェノが慌ててツッコミを入れる。その隙にカリストがオグウェノの右手を捕獲した。


「はい。では、描きますね」


 拒否をする間もなくカリストが図を描き上げる。文字なのか、柄なのか、よく分からない図が完成した。


「できました。あとは魔法を詠唱して、変化したいモノをイメージするだけです。できそうですか?」


「やってみないと分からん」


「そうですね。あ、少しお待ちください」


 カリストの黒い瞳から光りが消える。焦点が合わなくなり、気配が揺らぐ。


「どうした?」


 クリスが見守る。数回の瞬きの後、カリストにいつもの微笑みが戻った。


「犬の状態を確認していました。最初は影から出ようと暴れていましたが、今はおとなしくしています。体力を温存するためか、脱出の機会をうかがっているのか……なんにせよ、影から出した時に暴れたら困りますので、強制的に眠らせてきました」


「その影の魔法って便利だよな。どうやって使うんだ?」


 オグウェノは何気なく聞いたのだが、花子は顔を青くしてオグウェノの口を押えた。


「聞いちゃダメ! 聞いたら魂を取られちゃう!」


「ふが、もが、ふぐぅ……」


 オグウェノが何か言おうとするが、言葉にならない。カリストがにっこりと口角を上げる。


「そんな恐ろしいものではありませんよ。まあ、大抵の術者は発狂したため、禁術になったそうですが」


「魂を取られちゃうんだよ」


 オグウェノが花子の手を外す。


「関わったらいけない魔法ということは分かった」


「いつでもお教えしますよ?」


 一点の曇りのない優雅で美麗な微笑み。だからこそ、余計に恐ろしさが増す。

 オグウェノが首を横に振る。カリストが残念そうに微笑んだ。


「また、気が向いたら言ってください。では、犬を影から出しますよ」


 カリストの黒い影が形を変える。三つ首の竜が現れ、ペッと吐き出す。ルドは床を転がり、赤髪が散らばった。

 クリスが身を乗り出す。


「……ッ」


「近づくな」


 駆け寄りそうになったクリスを、オグウェノが止める。

 オグウェノは床に仰向けで眠っているルドに、ゆっくりと近づいた。動くどころか、起きる気配もない。微かに息をしているのは、胸の動きから分かる。


 オグウェノは大きく息を吸うと、両手を合わせて目を閉じた。


『幻想』


 詠唱が終わると同時に、オグウェノの体が崩れ落ちる。倒れた体の隣には、黒い毛艶を輝かせた動物がいた。


 クリスが首を捻る。


「これは、猫か? だが、猫にしてはでかいな」


「豹です。しかも黒豹とは珍しいですね」


 黒豹は自身の体を見回した後、スンと鼻を上げた。それからルドに近づき、匂いを嗅いだり、周囲を歩いたりした。その後、前足を体にのせた。しかし、何も起きない。


 黒豹は困ったように、前足でペシペシとルドの頭を叩き、胸の上に顎をのせた。だが、変化はない。


 黒豹が、どうにもならないと判断し、助けを求めるようにクリスの方を向く。カリストと花子もつられるようにクリスを見る。


 クリスは落胆する様子なく、ルドの頭元に移動した。そこで片膝をつき、体を屈める。


「予想通りだな」


「ガゥ!?」


 黒豹が驚きの声をあげる。クリスはルドの右耳に付いている魔宝石のピアスを外して立ち上がった。その動きを全員が見守る。


 クリスが指の中で魔宝石を転がしながら、すまなそうに黒豹を見た。


「コレをすると言ったら、絶対に止められると思ってな。悪いが、コレは誰にもさせたくなかったんだ」


「ガウッ!」


 黒豹がクリスを止めようと飛びかかる。だが、それより先にクリスが魔宝石を呑み込んだ。

 状況を瞬時に判断した黒豹は、すぐにオグウェノの体に飛び込んだ。体に吸い込まれるように黒豹が消える。


 体に戻ったオグウェノは、クリスに飛びついた。青筋を立て、両肩を掴んで激しく揺する。


「月姫! 吐き出せ!」


「しばらくは無理だな」


「自分が何をしたのか分かっているのか!? 赤狼の魔力はただでさえ膨大なんだぞ。その魔宝石を体内に入れたら……」


「以前、この方法で犬の心の中? のような場所にいったことがある」


 クリスが床で眠るルドに視線を落とす。その穏やかな寝顔に深緑の瞳を緩める。クリスは顔を上げて微笑んだ。


「たぶん、大丈夫だ」


「月姫!」


「あとは、任せる」


 笑顔のままクリスの体が崩れ落ちる。髪の色が茶から金へと変わった。

 オグウェノがクリスの体をゆっくりと床に下ろす。


「なんで、こんな……」


「クリス様は、始めからこうするつもりだったようですね。魔宝石を飲むと言えば、止められるか、代わりに飲むと言われる。だから、こうして止めることが出来ない状況を作り出したのでしょう」


「まさか、ジャンケンもワザと負けたのか!?」


「その可能性は高いですね。クリス様なら筋肉の動きで、相手が出そうとしているものを予想することが出来ますから」


「クソッ!」


 オグウェノが床を殴る。カリストが屈み、散らばった金色の髪をまとめる。


「犬の魔宝石を、誰にも触らせたくなかったのでしょう」


「だが、魔宝石を飲むということは!」


「犬の魔宝石ですからね。普通なら犬の膨大な魔力によって、体の内側から自身の魔力共々食い破られてしまうでしょう」


「こんな悠長に話している場合か!? すぐに魔宝石を吐き出させないと!」


 カリストが並んで眠る二人を見る。


「もう少し見守りましょう」


 オグウェノが悔しそうに唇を噛んだ。


※※※※


 多くの観客が収容できる巨大な円形の闘技場。その中心にルドは倒れていた。手足は形を残しておらず、息もかろうじて吐いている。それでも琥珀の瞳は閉じることなく、空を見つめる。


 こうして極限まで傷つき、最後は殺され、そして生き返る。これを何度も繰り返された。繰り返されすぎて、回数は覚えていない。


 ここは自分の心の中だと、説明はされた。だが、どうしてここにいるのか、何故こんなことをされているのか、その説明はない。

 しかも、痛みは本物と差異がない。現実的で、悪夢より酷い。


 ルドが痛みから意識を逸らしていると、呆れたような声が振ってきた。


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