表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/76

それは、ムワイの見解でした

 王城の地下。薄暗い長い階段を降りた先に、その部屋はあった。オグウェノがノックも無しで、無遠慮にドアを開ける。


「ムワイ、生きてるか?」


 地下のため窓はなく、壁に付けられた灯りが室内を照らしている。床には書きなぐられた紙が散乱し、机には本が山積みになっている。

 クリスはこの部屋に親近感を覚えた。治療院研究所にある自分の研究室と、屋敷にある研究室に似ているのだ。


 オグウェノが足で紙を払いながら進んでいく。


「せめて、床が見えるぐらいには片付けろって、言ってるだろ」


 その言葉にクリスの胸が痛む。カリストやカルラに散々言われてきた言葉だ。それでも最近は、気が付くとルドが適度に片付けているため、言われる回数は確実に減っている。


 思わぬダメージをくらっているクリスの前で、机の上にあった書類の束が宙を舞った。


「あー! 詰まった!」


 紙吹雪を浴びながら青年が立ちあがる。背中まである暗い茶色の髪を一つに纏め、茶色の垂れ目が特徴的な青年だ。筋肉質な男が多いケリーマ王国の民にしては線が細い。


 そして、この光景にもクリスは既視感を覚えた。研究が行き詰まる度に、こうして書類を放り投げ、ルドが床に落ちる前に拾い集めていた。


 クリスがなんとなく気まずくなり視線を逸らす。オグウェノは呆れながらも、慣れた様子で訊ねた。


「ちょうど良かった。聞きたいことがある」


 ここで、ようやくオグウェノの存在に気が付いたムワイが、こちらを向く。


「あ、王子。どうしました?」


「聞きたいことがあるって言っただろ? 気分転換がてら、上で茶にしないか?」


「いいですよ。あと、なにか食べるものがあると嬉しいです」


 タイミングよくムワイの腹の音が鳴る。


「わかった。用意させる」


 こうしてテラスでのお茶会が決定した。




 庭が見えるテラスに軽食とお茶が並ぶ。ムワイは軽食に飛びつき、口いっぱいに頬張る。

 その様子を眺めながら、オグウェノはテーブルに肘をついた。


「食事もちゃんと取れと言ってるだろ」


 クリスが居たたまれなくなり、顔を背けた。研究に夢中になり、空腹で倒れる寸前になったのは一度や二度ではない。ただ、最近はルドが注意するので、適度に食事を……以下略。


「だっ……興味ぶか、魔力が……ふご、ほご」


 口に詰め込み過ぎて、何を言っているのか分からない。オグウェノは紅茶が入ったカップを差し出した。


「わかった。とりあえず食べろ。腹が落ち着いたら話をする」


「ふぇい」


 その様子を横目で見ながら、クリスが安堵する。


「私はここまで、ではないな」


 紅茶とともに呟きを飲み込む。

 軽食に合わせて癖のない、後味があっさりとした紅茶だ。添えられている茶菓子は細い麺のようなものをパリパリに上げ、黄金色に輝く水あめで固めた、見ただけで激甘と分かる。その隣にはフルーツの盛り合わせがあった。


 暑い土地柄のせいか甘い菓子が多く、クリスは飽きてきていた。そのため自然とフルーツに手が伸びる。オレンジの甘酸っぱさが体に染み渡る。


 クリスが果物の自然な甘さに癒されていると、一息ついたムワイが声を出した。


「で、話とはなんですか?」


「赤狼の使った魔法について、調べていただろ? なにか分かったことはあるか?」


 オグウェノの質問に、ムワイが眉間にシワを寄せる。


「アレですか。アレについては、こっちが聞きたいですよ。とりあえず、地中の奥深くに刺激を与えた、というのは分かりました。ですが、それで、なんであんな黒い柱が出てくるのか……」


 悔しそうに菓子を口に入れるムワイに、クリスが訊ねる。


「魔法は分析したか? どんな魔法か分かったか?」


「どんな、と言われても……魔法の構成が古いのにシンプル、ということぐらいしか」


「古いのにシンプル? 普通は、古いと複雑で扱うのが難しいものだろ?」


「はい。普通は、その通りです。ですが、あの魔法は構成が古いのに無駄を一切省き、むしろ洗練されているようでした。あれなら魔力を無駄をなく魔法に使えます」


 オグウェノが疑問を口にする。


「ちょっと待て。魔法は魔力を元に発現するが、全ての魔力を魔法に使えるわけではない。どうしても無駄が発生する。しかも、威力が大きな魔法であればあるほど、それは顕著になる。それが普通だろ?」


「ところが、犬は魔力の無駄を発生させることなく、魔法を最大限発現させることが出来た。だから、巨大な竜巻を吹き飛ばせた、ということか?」


 クリスの考察にムワイが同意する。


「その通りです。どこの誰かは知らないですが、息の合った二人が、同時に魔法を使ったんですね」


「「息の合った二人?」」


 クリスとオグウェノの声が重なる。ムワイは驚くことなく平然と説明をした。


「あの場所から二種類の魔力を検知しました。あれだけ強大な魔法ですからね。少しでもタイミングがずれると、魔力が反発して爆発していた可能性もありますよ」


 クリスが確認するようにオグウェノに視線を向ける。オグウェノは慌てて首を横に振った。


「いや、あの場には赤狼一人だった。それは間違いない」


 今度はクリスとオグウェノが、ムワイに視線を向ける。


「え? そんなこと言われましても、確かに二種類の魔力が残ってました。つまり最低でも二人はいた、ということです」


 オグウェノがムワイに質問をする。


「一人が二種類の魔力を放つことはあるか?」


「いや、王子。魔力は一人につき一種類。同じ魔力を持つ人もいない。たとえ双子でも、持つ魔力は違う。有名な話じゃないですか」


「そうだが……」


 オグウェノが横目でクリスを確認する。クリスは顎に手を当てて考えこんだ。


「どういうことだ? あの場所に犬以外の人間がいたのか?」


「そんな報告はないが、もう一度確認させよう」


 デザートまで食べたムワイが、紅茶のおかわりを飲みながら訊ねる。


「そういえば魔法を使った本人は、まだ会話が出来ない状態ですか? 会話が出来る状態になったら教えてくれ、と頼んでいたのですが」


「……そうなのか?」


 オグウェノが気まずそうな顔になる。何かに気がついたムワイが怒る。


「あー! わざと忘れていましたね! と、いうことは話が出来る状態まで、回復しているんですね! どこですか! この魔法を使った人間は!」


「ま、待て、落ち着け。今ややこしいことになっていて……」


 迫って来るムワイを、オグウェノが手で制する。そこにクリスが頷きながら言った。


「その魔法を使ったのはルドヴィクスだ。以前、手から剣を出した男がいただろう? そいつだ」


「月姫!?」


 驚くオグウェノを、クリスが視線だけで黙らせる。


「直接話を聞いてきたらいい。カリスト」


「はい」


 クリスの呼びかけにカリストが柱の裏から姿を現す。


「犬のところまで案内してやれ」


「わかりました。こちらへどうぞ」


 先導するカリストの後ろを、ムワイが嬉々としてついて行く。その光景を眺めながら、オグウェノは心配そうにクリスに訊ねた。


「いいのか?」


「むしろ好機かもしれん。ムワイの性格からして、突っ込んだ質問をしても、誰も疑問に思わない。聞き出せるだけ聞き出してくるだろうし、状況が悪くなれば、カリストが上手く立ち回るだろう」


「そういうことか。なら、オレも見てこよう」


「頼む」


 悠然と歩き出したオグウェノを、クリスはどこかすまなそうな顔で見送った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ