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ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


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それは、巨大な竜巻でした

 ケリーマ王国の王都は防壁で囲まれていた。

 その防壁の中でも、竜巻に一番近い場所に三人が到着する。そこに通信機を持った兵士が走ってやってきた。

 サイレンの音に負けじと兵士が大声で報告をする。


「王子! 王都の外にいた人々の避難は完了しました!」


「城に連絡はついているか!?」


「はい!」


「通信機を貸せ!」


「どうぞ!」


 通信機を受け取ったオグウェノが怒鳴る。


「オレだ! 防護の魔法陣は発動できそうか!?」


『いつでもいいですよ!』


 相手も怒鳴って返す。聞き覚えがある声にオグウェノが軽口を叩いた。


「ムワイか! オレが帰っても顔を見せなかったから、ふて寝しているのかと思っていたぞ! いままで、何をしていた!?」


『新しい魔法の原案を思いついたので、研究室に籠っていたら、王に引きずりだされました!』


 その光景をリアルに想像できたオグウェノが吹き出す。


 言葉通り、王であるビィグが机にかじりついていたムワイの首根っこを掴み、引きずって研究室から出したのだろう。しかし、この判断は正解である。

 これだけの巨大竜巻から王都を守るには、ムワイぐらいの大きな魔力が必要だ。中途半端な魔力で発動した魔法の防護壁では竜巻に負けてしまう。


「なら、しっかり働け!」


『みんなして人使い荒すぎですよ!』


「無事にやり過ごせたら、いくらでも研究室に籠ってろ!」


『言質とりましたからね!』


 防壁が微かに光り始める。ルドが足元を見ると、巨大な魔法陣が輝いていた。これまで感じていた不気味な風と、飛んできていた砂がピタリと止まる。


「これは……」


 驚くルドにイディが説明をする。


「王都を丸ごと魔法陣で守る」


「どれだけの魔力を使うんですか!?」


 オグウェノがニヤリと笑う。


「普段から大地の魔力を備蓄している。それとムワイの魔力を使えば、ある程度の暴風や砂から街は守れる。だが……」


 三人の視線が目前にまで迫ってきている竜巻に向く。


「さすがに、でかすぎだな」


「どうしますか?」


「オレの魔法で竜巻の進路を逸らす」


「そんなことが出来るのですか!?」


「出来る。ただし」


 深緑の瞳がまっすぐ見つめてくる。ルドはゴクリと息を飲んだ。


「ただし……なんですか?」


「オレの魔力だけだと足りない」


「自分の魔力を使ってください!」


 間髪いれない申し出に、オグウェノが口角を上げる。


「そう言ってくれると思った。イディ、護衛は任せたぞ」


 イディが無言で頷く。再びオグウェノがルドに視線を向ける。


「オレは巨大な風をおこして、竜巻の進路を逸らすことに集中する。だから、そっちの魔力には気を向けれない。オレの体に負担にならない程度で、必要な量の魔力を流し込むことは出来るか?」


「相手の魔力の流れを感知して、相手に合わせた魔力を流す修行は散々してきました」


「よし! なら、任せるぞ」


 オグウェノが迫って来る竜巻に両手をかざす。ルドはオグウェノの肩に手をのせた。


『古より契約せし、風の精霊たちよ。そなたたちと分かち合った地を守るため、我に力を貸さん』


 竜巻を押しのけるように横風が吹き、こちらに向かっていた竜巻が進路をずらしていく。


「クッ!」


 オグウェノが見えない何かに押される。負けじと腰を落として足を踏ん張るが、それでもジリジリと後退していく。


 オグウェノの肩に手を置いているルドも、力を入れて支える。同時に、凄い勢いでオグウェノから魔力が抜けていく。ルドがすぐに魔力を注ぐが、まるで巨大な穴に投げ入れているかのように、いくらでも必要になる。


 ルドはオグウェノの体に負担にならない量の魔力を流し続けた。その結果、目前まで迫っている巨大な竜巻が少しずつ横にずれていく。


 オグウェノが気合いを入れて叫ぶ。


「もうひと踏ん張り行くぞ!」


 竜巻を押している風の威力が増す。目前には地上にある物を全て巻き上げながら移動する壁が、嘲笑いながら通りすぎようとしている。偉大な自然の驚異に恐怖が勝りそうになる。


 周囲にいた兵士たちが腰を抜かしたり、逃げ出したりする中でイディが仁王立ちでオグウェノを護衛している。


 ルドはオグウェノに魔力を流し続けながらイディに訊ねた。


「怖く、ないのですか?」


「怖さは……ある。だが、守りたい者を守れなかった時のほうが、怖い」


 ルドの脳裏にクリスの顔が浮かぶ。守れなかった時のことなど考えたくない。


「同意です」


「うむ」


 イディが大きく頷く。


 竜巻は三人の前で、魔法陣をかすめながら進んでいた。竜巻の風に削られ、魔法陣の防護壁がバチバチと音を立てる。さすがに王都全体を覆っている防護壁と巨大竜巻では、こちらのほうが分が悪い。

 竜巻が防護壁を破って王都内に侵入すれば、建物は軒並み風で巻き上げられて、死傷者が出る。


 オグウェノがヤケ気味に叫んだ。


「国一つ守れずに、惚れた女を守れるかあぁぁぁぁ!」


 横風が威力を増し、竜巻が王都から少し離れる。そこでオグウェノの意識が切れた。


「王子!」


 倒れるオグウェノの体をイディが受け止める。同時に、竜巻を押していた横風も消える。


 進路を決めていた横風がなくなり、巨大な竜巻はフラフラと進みだした。これでは、いつ再び王都に近づくか分からない。


 ルドは二人を置いたまま、一人で駆けだした。王都を囲んでいる防壁の上を走りながら、竜巻と並走する。


「あと少し。あと少し、竜巻を街から離すことが出来れば……」


 そこで再び竜巻が王都に近づいてきた。バチバチと魔方陣の防護壁を削り、そのまま王都を囲んでいる防壁を巻き上げていく。


「まずい!」


 ルドは足元を蹴り、上空へ避難した。ルドが走っていた防壁が砂糖菓子のようにあっさりと崩れ、竜巻の中に飲み込まれていく。


 王都の端とはいえ、すぐ近くに民家もある。このまま竜巻が進めば、ここは瓦礫の山になる。


 ルドは空中に体を踊らせたまま、必死に考えた。


「あんな横風は自分には出せない。そもそも自分は風より火のほうが扱いやすい。もし、大きな魔法を使うなら炎系だが、竜巻の進路を変えられる魔法など……あれがあったか!」


『無理は、しないでください』


 出かけに言われたクリスの声を思い出す。ルドはこちらに向かってくる竜巻を睨みながら下唇を噛んだ。


「師匠、すみません」


 ルドは落下していく中、受け身のことも着地のことも何も考えず、両手を竜巻に向けた。


 クリスの屋敷の書庫にある本に書いてあった、地中からマグマという熱い物体を地上に引き出す魔法。


噴火(ボルケーノ)!』


 巨大な火をおこせば周囲に風が起こる。それをぶつければ竜巻の威力を少しでも落とすことが出来るのではないか。

 そう考えたルドは全魔力を使って魔法を詠唱した。


 その結果……


 落下していくルドの目前で、竜巻の下から火柱が吹き出した。その威力はすざましく竜巻を消し飛ばし、空を覆っていた砂煙を突き破った。


「……やり過ぎた」


 まさか、ここまでの威力があるとは予想もしていなかった。


 燃え上がった火柱が黒くなり固まっていく。その光景を眺めながらルドは瓦礫の中へと落下した。


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