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ツンデレ治療師は軽やかに弟子と踊る(タイトル詐欺)~周りは二人をくっつけたい~   作者:


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24/76

それは、終わりの始まりでした

 クリスとルドが遠出して帰って来た翌日。

 久しぶりにオグウェノ・クリス・ベレン・ルドの四人で朝食を取った時のことだった。


 ベレンがクリスとルドに訊ねた。


「一昨日と昨日は、どちらへ出掛けられていましたの? 姿を見かけませんでしたが」


 果物を食べていたクリスの手が止まり、顔が真っ赤になる。一方のルドは平然と珈琲を飲んでいる。


 ベレンがクリスに狙いを定めて詰め寄る。


「なにかありましたの? それとも、なにかしました?」


「い、いえ。なにも!」


「本当ですの?」


 クリスが何度も頷く。


「本当に! 本当です! あの、なにか用事がありましたか?」


「せっかく出掛けるなら、私もご一緒したいと思いまして」


 椅子に座り直したベレンが、クリスとルドを交互に見ながら意味ありげに微笑む。


「それとも、私がいたらお邪魔虫になりますかしら?」


 ルドが珈琲カップを置いて頷いた。


「そのようなことは、ありません。一緒に行きましょう」


 ルドの様子と発言にベレンとオグウェノが固まる。少し前なら、この手の話をすると、ルドは顔を赤くしたり狼狽えたりしていた。


 ベレンがルドの頭から足先までジロジロと何度も見返す。


「どうしましたの? 変な物でも食べました?」


「え?」


 心外な言葉にルドが目を丸くしていると、オグウェノが気の毒そうな顔で肩に手を置いてきた。


「なにか辛いことがあったなら言えよ。相談ぐらいのってやるぞ」


「な!? 別になにもありません! なんですか、二人して!」


 オグウェノとベレンが顔を見合わせる。


「いや、なあ?」


「えぇ」


 頷き合う二人に、ルドが少し不機嫌な顔になる。


「では、第四王子が街を案内してください。ケリーマ王国の名産品とか、風景とか」


「オレが? んー、名産品かぁ。そういえば、月姫は第三皇子に土産を買って帰るって話をしていたな」


「はい。寝室に飾る置物などを希望されていました」


 オグウェノが顎に手を当てて考える。


「置物かぁ……でも、寝室なら(こう)なんかもいいぞ。ケリーマ王国の香は良質で有名だからな」


「香……ですか?」


 聞きなれない言葉にクリスが首を傾げる。その隣でベレンは嬉しそうに手を叩いた。


「確かにケリーマ王国の香は、上品な匂いで人気が高いですわね」


「なら、香を扱っている店へ行こう」


「まあ! それは楽しみですわ!」


 ベレンが上機嫌となり、本日の行き先が決定した。




 朝食を終えたクリスたちが馬車で街中へと移動する。


 到着したのは、白い塗料で塗られた立派な建物だった。木製の立派なドアを開けると、様々な草花の匂いが出迎えられた。


 そこに恰幅がいい中年男性が笑顔で現れる。


「オグウェノ第四王子、お久しぶりですな」


「久しぶりだな、支配人。景気はどうだ?」


「おかげ様で、まずまずです。ただ最近は南の国境沿いの検問が厳しくて物流が滞ることもありまして」


「そんな話は聞いてないな。確認しておこう」


「助かります」


 二人の会話を聞きながら、ベレンが護衛として付いてきたイディに小声で話しかける。


「ちゃんと王子らしいこともしていますのね」


 イディが誇らしげに頷く。

 次に支配人はクリスとベレンを笑顔で迎えた。


「本日はお可愛らしいお嬢様をお連れですな。お嬢様方に合う香もありますよ。こちらへどうぞ」


 店内は高い位置にある窓から室内が照らされ明るい。直接日光が当たらないため、室内でも暑くなく、日中でも意外と涼しい。


 支配人に案内され、奥へと移動する。そこには細かい彫刻が施された豪華なテーブルと椅子があった。


「おかけください」


 ベレンたちが椅子に座ると、支配人はテーブルの上に木箱を並べた。


「若い女性の方々に人気がある香です」


 支配人が一番端の木箱の蓋を開ける。小さな円錐の形をした橙色の香が入っており、爽やかな柑橘の匂いが立ち上る。


 ベレンは嬉しそうに香を手に取った。


「いい匂いですね」


「火を点けると、また少し香りが変わります。香は草花を乾燥させ、粉にしたものを混ぜて作っております。草や花の種類や混ぜる量によって香りの種類は無限に広がります」


「では、他にも匂いがありますの?」


「はい。ご自身で調合して、オリジナルの香を作ることも出来ますよ」


 香の匂いを楽しんでいたクリスが顔を上げる。


「面白そうですね」


「興味がおありでしたら、あとで調合しましょう。あと、こちらの香も女性に人気ですよ」


 支配人が別の木箱の蓋を開ける。そこには花の形をした桃色の香があった。バラのような華やかな香りが漂う。

 その見た目にベレンが歓喜の声を上げる。


「まあ、可愛らしい!」


「あとは少し変わっていますが……」


 その隣にある箱の蓋を開ける。そこには丸い形をした黄色の蝋があった。


「こちらはレモンの匂いがする蝋燭でして、明かりと匂いが楽しめるようになっております。あとは、石鹸なども……」


 支配人が残りの木箱の蓋を開け、中から紙に包まれた石鹸を一つ一つ取り出していく。丸や四角だけでなく、葉や花、彫刻が施されたものまであり、色も様々でカラフルだ。


 クリスが感心しながら呟く。


「香だけではないのですね」


「香りに関する商品を幅広く扱っております。香りの元は草や花ですから。そうだ。せっかくですので、珍しい物をお見せしましょう」


 支配人がいそいそと背後にある部屋に入る。そして、すぐに鍵が付いた箱を大事そうに抱えて出てきた。


「この中で一番高価な香になります」


 支配人が鍵を開け、箱の中から乳白色の飴のような物を取り出した。ベレンが興味深そうに覗き込む。


「こちらは?」


「乳香といい、ある特別な木の樹液が固まったものです。良質な物になりますと、一粒で金貨一枚の価値になります」


「「えぇ!?」」


 これにはベレンとルドが驚く。金貨の価値がいまいち分かっていないクリスだけは不思議そうに首を傾げた。


「美味しそうにも見えますね」


 クリスの正直な感想に支配人が目を丸くしたあと、和やかに微笑んだ。


「見た目は飴のようですからね。嗅いでみてください」


 クリスが鼻を近づける。


「ふぁ……まるで、森の中にいるような、木々の瑞々しい匂いがします」


「私もよろしいですか?」


 クリスの感想に興味を持ったベレンも匂いを嗅いで驚く。


「こんなに小さいのに、しっかりとした匂いですのね」


「すごいで……」


『ヴーーーーーー!』


 意気投合した二人を引き裂く爆音が響いた。建物の中にいるのに、壁を越えて耳を突き刺してくる。


「何事ですの!?」


 ベレンが椅子から立ち上がり周囲を見回す。オグウェノが落ち着いた声で説明をした。


「竜巻がこちらに向かっている合図だ」


「竜巻?」


「すべての物を巻き上げながら通過する、大きな風だ。だが、地下にいれば、やり過ごせる」


 オグウェノが支配人に確認する。


「この店に地下シェルターはあるな?」


「はい」


「お姫さんと月姫は、地下シェルターに避難しろ。赤狼はオレたちと来い」


 オグウェノの指示にベレンが素早く反応する。


「あなたたちは一緒に避難しないのですか!?」


「オレたちは竜巻から街を守る」


「そんなっ……」


 ベレンが心配そうにイディを見上げる。イディは不器用に少しだけ笑うとベレンの肩に手を置いた。


「心配ない」


「ですが……」


 オグウェノが安心させるように軽く話す。


「オレたちのことは心配するな、慣れているからな。それより、お前たちの護衛をどうするか……」


 ルドがクリスの影に視線を落とす。


「カリスト、いますか?」


「はい」


 ルドに呼ばれたカリストがクリスの影から現れた。


「二人をお願いします」


「わかりました」


 カリストが優雅に頭を下げる。オグウェノは訝しげにカリストを見た後、軽くため息を吐いた。


「今回は仕方ないか。行くぞ」


「あの!」


 歩き出そうとしたルドの腕をクリスが掴む。ルドが振り返ると、クリスが今にも泣きそうな顔で見上げていた。


「無理は、しないでください」


「はい。必ず帰ってきますから、待っていてください」


「約束、ですよ?」


 ルドが安心させるように微笑む。


「はい」


「赤狼!」


 ドアの前で待っているオグウェノにルドが叫ぶ。


「すぐ行きます!」


 クリスが名残惜しそうに手を離す。ルドは優しくクリスの頭を撫でると走り出した。




 建物から出ると、サイレンの音に耳を踏みつけられた。相手の声も聞こえないため、オグウェノがジェスチャーで指示をだす。


 三人は魔法を使って、建物の屋上を軽やかに駆けた。


 あれだけ輝いていた太陽が雲と砂埃で隠れ、昼間なのに薄暗い。気持ち悪いほど冷えた空気と、湿った雨の匂いがする。


「あれは……」


 思わずルドが呟く。三人が足を止めた先には、遠くにあるにも関わらず、ハッキリと形が分かる巨大な竜巻があった。砂だけでなく、草や木など、様々なものを巻き上げている。


 オグウェノの額に一筋の汗が流れた。


「あのレベルの竜巻は久しぶりだな。そりゃあ警報も最大音量で流れるか」


「王子」


 イディに声をかけられてオグウェノが頷く。


「あぁ。行こう」


 三人は再び移動を始めた。

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