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20.二人の令嬢は事情を語る。

 「酷いですわ、あんまりですわっ」


 ライサは顔を覆い、シクシクと涙を流す。リューティアは鞄からハンカチを取り出し、ライサの頬を流れる涙をそっと拭った。

 何故私が慰めているのか。リューティアは何とも言えない気分になる。


 ある意味盗賊のアジトを乗っ取ったリューティアは、ライサに強請られるまま、旅の経緯を話していた。

 カイとは幼馴染であること。リューティアの両親の死。領地を奪われ、六年間部屋から出して貰えず、奴隷商人に売られそうになった事。屋敷を逃げ出し、カイと再会し、ナーリスヴェーラとの国境の街、エッゲリングを目指している事。


 リューティアの身の上を知ったライサは大きな瞳から涙をぽろぽろと零していた。


「許せませんわ、そんな狼藉が許されるなど、ハルヴォニー国王陛下は何をなさっているのでしょう! 貴族としての務めを果たさない臣下などゴミでしかありませんわ! 貴族の風上にも置けませんわ、くたばっちまえ! なのですわ!」


 ──と思ったら今度は怒りだした。

 感情豊かな方だ。愛らしい頬をぷっくりと膨らませぷんぷんと怒る姿に思わずほっこりしてしまう。


「私の事はこれで全部、だと思うわ。ライサの事を聞きたいわ」

「わたくしは──」


 ライサは迷う様に視線を彷徨わせた。が、意を決した様にリューティアへと視線を向ける。


「ハルヴォニーには婚約者がおりますの。まだお会いした事は無いのですけれど、婚約者が留学から戻られたとかで、婚姻までの間にハルヴォニーの見聞を広める為に両親から離され、ハルヴォニーの王立学園へ留学の為に参りましたの」

「ライサは、今幾つなの?」

「十四ですわ」


 ハルヴォニー王立学園は貴族の通う全寮制の学校だ。十三から十六までの三年間、通う事が義務付けられている。他国からの留学生も多い。

 最もリューティアは通わせてなどもらえて居ないのだが。


「わたくしも貴族の娘ですもの。いずれは政略の為、望まぬ相手に嫁ぐ事になる覚悟はしておりましたけれど、母国を離れ、お父様やお母様と離れるのは寂しゅうございましたわ。旦那様となられる方がどのような方か判らない不安も御座いましたし…。ですからわたくしが気落ちしているのを案じた侍女が少しだけならと連れ出してくれましたの。侍女はハルヴォニーの出身で、近くにとても綺麗な湖があるから、と」


 (くだん)の侍女はライサに仕えてもう十年になるそうだ。侍女は今のルフタサリの現状を知らなかったらしい。

 美しく整えられていた街道は酷く荒れ果て、目的の場所に到着する前に車輪が溝に嵌って立ち往生してしまったらしい。

 護衛を一人付けていたが、車輪を外そうと少し目を離した隙に、盗賊に襲われ、此処へ連れて来られたのだそうだ。

 カイの聞いた『無礼者!』という叫びは、盗賊の一人がライサの胸元に着いた宝石を取ろうとしたかららしい。

 宝石ではなく、乙女の胸に手を伸ばすとは何事かという怒りからだったそうだ。


 因みに件の盗賊一味は、縄でグルグルに縛られて小屋の片隅で膝を突き合わせしょぼんと項垂れていた。

 彼らの話では、街道を通る商人を狙い張っていた所、悪路に車輪を取られた馬車を見つけ、馬車に描かれた紋章から、貴族だと言う事が判ったから、つい怒りの矛先を向けて襲ってしまったのだそうだ。つまるところ、八つ当たりである。

 曰く、『貴族の金は俺達平民から搾り取った金なんだから俺達が返してもらって何が悪い』という事らしい。

 ライサの連れていた唯一の護衛兼御者が離れた隙を狙い、馬車を襲ってはみたが、馬車には金目のものはなく、侍女とライサしか居なかったそうで、ライサが殴る蹴ると反撃に出たため、咄嗟にライサを押さえつけ、浚って来てしまったのだそうだ。

 言われてみればカイが遣ったにしては不自然な、ほっぺたにモミジを張り付けた男や猫に引っかかれた様な爪痕の付いた男や、明らかにヒールの付いた靴で蹴られたと思われる足形を腹に付けた男が数人しょぼくれている。


「けれど、ルフタサリ家が没落寸前だとは知りませんでしたわ。ハルヴォニーで一番安全で豊かな領土だと伺っておりましたもの」


 ですから、油断をしてしまっていたのは否めませんわ、とライサが眉を下げる。

 通常であれば、こんな人気の無い場所でそんな危険は冒さない。だが、ルフタサリが現状を漏らさなかったのは当然とも言えた。

 ルフタサリが盤石であるからこそ、ハルヴォニーの平穏は保たれていると言っても過言ではない。

 もし、そのルフタサリが崩れようとしている事が隣国ナーリスヴェーラに知られれば、一気に攻め込まれる恐れがある。


「エッゲリングやヒルトゥラはルフタサリの窮地は匂わせて無いからなぁ。影響が出てるのは街道から逸れた小さな村や街くらいなんだ。俺もルフタサリの街に入って旅人に話を聞くまで半信半疑だったくらいだし」


 ずっと黙って干し肉を齧っていたカイが不意に口を開いた。

 という事は、王家もルフタサリの現状は届いているのではないだろうか。

 流石にそこまで大掛かりな隠蔽を、あのアーグウストが出来るとは思えなかった。


「彼らも、ルフタサリの──アーグウストの被害者だわ」


 リューティアは小屋の隅で項垂れている盗賊一味へ視線を向けた。

 やったことは許されないが、そうさせてしまったのはリューティアの叔父を名乗るあの男だ。

 助けを求めたリューティアを匿おうとしてくれた事や、ライサを連れて来てはみたものの、ライサに暴力などは振るっておらず(寧ろライサがフルボッコにしていたけれど)情状酌量の余地があると思う。


「力が、無いのが悔しいわ。無知なのが悔しいわ。お父様もお母様も、ルフタサリの地を愛していらしたわ。私もこの領地の民が大事だわ。貴族の娘だというのに、私には僅かな金品さえ無くて、彼らを救う事が出来ないのが、悔しい。逃げる事しか出来ないのが悔しいわ」


 噛みしめる様に呟くと、そっと無意識に握りこんだ拳を、ライサの嫋やかな手がそっと包み込んだ。


「リティの領地を取り戻すには、その叔父を名乗る男の事を、調べねばならないでしょう。今すぐとは参りませんが、わたくしも助けて頂いた御恩がございますわ。微力ながら、お力添えをさせて頂きましてよ」


 僅か十四歳の子供とは思えない、凛と大人びた口調に、リューティアはふわりと笑みを浮かべた。


「そう、ね。ありがとう、ライサ。とても心強いわ」


 手を握り合い、笑みを浮かべて見つめ合う二人の少女を、カイが目を細めて眺めていた。

ご閲覧・ブクマ有難うございますー! 感謝感謝です! 今日はもうちょいUp出来るかな? 深夜になるかもですが、頑張ります!

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