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宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる 作者:羽田遼亮

第三章

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火神の槌

 冒険者の仕事は迷宮にもぐることであるが、常に迷宮にもぐっているわけではない。

 一週間もぐったら、一週間は休養をとる。
 常に迷宮にもぐっていると、身体的な疲労がたまり、健康を害する。
 疲労のたまった身体は、脳を鈍重にさせ、正常な判断ができなくなる。
 迷宮で判断を間違えるということは、そのまま死に直結することである。
ダンジョンは甘いところではないのだ。

 しかし、ギルドメンバーの少ない我がフェンリル・ギルドにとってその稼働率の低さは問題となっている。

 カチュアがギルドに加入してくれてふたり体制になったとはいえ、それでもふたりしかいないギルドではろくにクエストを受注できない。

 ドラゴン退治やデーモン退治など、迷宮都市を揺るがす大事件を解決したから、一気にDランクまで駆け上がることができたが、これからはそうはいかない。

 そんな大事件は早々起きないし、起きたとしても零細ギルドである【フェンリルの咆哮】に回される可能性は少ないだろう。

 と、このギルドの会計、運営、その他もろもろをつかさどるメイドさんは言った。

「ですので、今後は地道にクエストをこなして、少しずつ貢献ポイントを上げていきましょう」

 と、提案してくる。

 それについてはなんの不満もないのだけど、問題なのは休暇期間が長いことであった。

 一週間冒険に出たら一週間休むなど、零細ギルドの冒険者に許されるのだろうか。
 僕はぴんぴんしている。
 生来、僕は頑健で、子供の頃から風邪ひとつひかない。

 家の農作業も手伝っていたし、これくらいの冒険ならば、二日寝れば体力は全回復する。

 そのことを主張するとリルさんは言った。

「少年、なにごともあせりはよくないぞ。一見、元気なように見えても疲労というのは貯まっているものだ。ともかく、我がギルドのルーキーは、一週間働いたら、最低、一週間ダンジョンに入れないのが決まりになっている」

「それはAランクギルドだった頃の規則ですよね。今はふたりしか冒険者はいないのに」

「ふたりしか冒険者がいないからだよ」

 と、談話室で寝転がっているカチュアを指さす。
 彼女はぐでーっとソファーにもたれかかっていた。
 死んだ魚のような目をしている。

「あのような若い婦女子が恥じらいもなく大股を広げて寝転がってしまうくらい疲労を溜めてしまうのだ。ダンジョンは」

 リルさんがそう言うと、カレンが小声で注意をするが、カチュアは気にした様子もない。

「大丈夫、ここには女とクロム君しかいないからぁ~」

 と、余計、ぐでんとさせた。
 僕は男としてカウントされていないのだろうか。

 女兄弟がいるのでこういう光景は見慣れているが、姉でもこのような大股は広げなかった気がする。

「それに疲れてるのは超事実なんだよね。ほら、あたしって魔術師でしょ。冒険者になる前は師匠の家に籠もって研究していたからあまり歩かなかったのよね」

 と自己弁護。
 たしかにそれはあるかもしれない。
 田舎育ちでこの迷宮都市にやってくるのも馬車ではなく徒歩だった僕。
 それと森育ちの魔術師のカチュアを一緒にするのは可哀想だ。
 カレンの妹であるエリカも先日の迷宮探索では疲れを感じていたようだし。

(まあ、カチュアさんや他の冒険者に合わせるのもメンバーのつとめかな。……ふたりしかメンバーがいないけど)

 もしも僕が馬車馬のように働き続け、それが他の冒険者の耳に入ったら、【フェンリルの咆哮】はブラック・ギルドとして名をはせてしまうかもしれない。

 そんな噂が駆け巡れば、ただでさえ寄りつかない冒険者たちがさらに寄りつかなくなるだろう。

 それはギルドの経営的にも、僕の夢的にもよくないことだった。

「ちなみにクロムの夢ってなにさ」

 と腰の聖剣が尋ねてくる。

「最終的な目標は迷宮都市イスガルドのダンジョン制覇、そして大英雄と呼ばれることかな」

「じゃあ、手近な目標は?」

「とりあえず5人パーティーで迷宮を探索したい」

「それは切実な目標だね」

「切実だよ」

 実際、Dランクになったというのに面接にやってくる冒険者の数はそんなに増えない。

 なぜだろう、と口にすると、カレンが事情を話してくれた。
 彼女は小声で話す。

「実はリルさんがやってくる冒険者に圧迫面接をしていて」

「圧迫面接?」

「ええ、男性冒険者には元々厳しい方なのです。リルさまは軟弱な男子がお嫌いですから。ですから、お前は長髪だから駄目。お前は小汚いから駄目、お前は挨拶ができないから駄目、いちゃもんをつけます」

「元々、このギルドはカレン目当ての助平が多いからね」

 とは腰の聖剣の言葉だ。
 リルさんはそんな不純な目的な冒険者は排除しているのだろう。
 ならば女性冒険者ならばいいのだろうか、となるが、それも厳しいらしい。

「君はうちの少年に気があるのだろう。少年は可愛いし、頼りになるし、将来、有望だからな」

 と、女性冒険者にも同じようなことをしているらしい。

「過保護というか、心配のしすぎだね」

 そう言うとカレンもなんともいえない表情で首肯する。

「ですが、元々、この【フェンリルの咆哮】は少数精鋭のギルドとして知られていました。ですので冒険者をえり好みするのは昔から一緒ともいえます」

 Aランクだった頃も10人前後のメンバーしかいなかったんですよ、とカレン。
 ちなみに平均的なギルドは30人、大手ともなると100人以上の冒険者を抱えているのでフェンリル・ギルドはたしかに少数精鋭であった。

「百匹の猫よりも一匹の獅子が勝る、がリルさまの口癖ですから」

「となると僕は場違いな気がするけど」

 その言葉にリルさんが割って入ってくる。

「今は子猫のように可愛らしいが、少年は獅子の子供だよ。私が保証する」

「僕が獅子の子供ですか」

「ああ、なりは子猫みたいだが、才能は眠れる獅子だよ。いや、なかば覚醒しつつある。少年に必要なのは時間だけだ。経験と実績を積み上げれば数年のうちに迷宮都市でもその名を響かせるだろう」

「だといいのですが」

 半信半疑に言う。
 だが、やる気がないわけではない。
 自信がないわけでもない。

 数年とは言わないが、10年後、僕はこの迷宮都市で一番の冒険者になるつもりであった。

 そのためにはもっと経験を積まなければならない。
 もっと実績を積み上げなければならない。
 そしてもっと良い『装備』も手に入れないと。
 そんな結論に至った僕は、リルさんに相談する。

「あの、そろそろ僕も防具を買いたいのですが」

「防具だって?」

 リルさんは突然の話に驚いているようだったが、すぐに「ふむ」と腕を組む。

「失念をしていたが、少年は出会ったときからその装備だものな」

 その装備とはこの『旅人の服』を差しているのだろう。

「好んで軽装を好む剣士もいるが、その場合でも魔法の加護が負荷された衣服を着ている。少年は荒事をこなす冒険者なのだから、もっと良い装備をまとった方がいいかもしれないな」

 そう言うと装備を新調する件を推奨してくれた。
 ただし、と付け加える。

「我がギルドには武具買い換え優待制度や補助金制度はないからな」

 と釘を刺してくる。

 また尻尾の毛を売る払う羽目になったら可哀想なので、それは求めないが、それでも防具を買い換えるときのアドバイスは欲しかった。

 その旨を伝えると、リルさんはほっとした顔をし、次いで嬉しそうに犬歯を見せる。

「ならば一緒に鍛冶ギルドに行こうか。たしかカレンの妹の紹介で安く買えるのだよな」

 僕が「はい」と言うと、リルさんは嬉しそうに犬耳を立て、尻尾を振る。
 この辺は神獣でもやはり女性、値引きやバーゲンという言葉に弱いようだ。
 こうして僕とリルさんは一緒に鍛冶ギルド【火神の槌】に向かうことになった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

今月2月28日発売予定です。なにとぞ、よろしくお願いいたします。

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