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宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる 作者:羽田遼亮

第三章

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約束された必殺技

 目的地に到達する。
 第五階層、そこにある密林で暴れ猿を10匹ほど討伐すればクエスト完了である。
 楽なクエストだ。
 暴れ猿自体、強力なモンスターではない。
 その膂力(りょりょく)はすさまじいが、近接を許さなければ致命的なダメージを受けない。
 戦闘力は一匹、300~700くらいだろうか。
 二つ名付きにでも出会わなければ余裕である。

「なんて言ってると、二つ名に出くわすのがクロムなんだよね」

 と、聖剣は言うが、そんな事態には陥らなかった。
 密林に向かうなり、果実を食い荒らしている暴れ猿を一匹切り捨てる。
 猿はキキィ! と周囲の仲間に危険を知らせた。
 その鳴き声で、今の自分の実力が計れる。

 もしも猿が逃げるようならば、自分の実力は大したもので、魔物を怯えさせるに十分なものとなる。

 仮に猿が逃げださず集まってくるようならば魔物に舐められている証拠となる。
 果たしてどちらになるだろうか。
 ――結果、猿どもは集まってきた。
 僕はまだまだひよっこということだ。
 軽く気落ちしているとカチュアが慰めてくる。

「ほら、クロム君ってちょっと線が細いでしょ。だから舐められてるだけよ、あと数年、冒険者を続ければ貫禄も出てくるんじゃないかしら。それに今、貫禄がないからこそ、楽ができるのよ」

 と言うカチュア。
 たしかにそうだ。
 もしも猿が逃げ出すようならそれはそれで手間である。
 はしこい猿どもを密林の端から端まで追いかけ回さなければならない。
 そうなればどれくらい討伐に時間が掛かるか。
 こうして一カ所に集まってくれるのは、有り難いことなのだ。
 発想の逆転をすると、僕たちは暴れ猿を退治していった。
 案の定、暴れ猿は大して強くない。
 僕とエクスの剣技、それとカチュアが繰り出す魔法の前に、次々と倒れていく。
 ――問題なのは。

「じぃ……」

 という擬音が聞こえてきそうなほど、こちらを凝視しているメイド服の少女だった。

 彼女はこんなことを口ずさんでいる。

「お姉ちゃんの話と違う。お話の中のクロム様はデーモンでさえ小指で倒すのに」

 それは誇大広告の見本というか、有り得ない展開だ。
 レベル99の大英雄でもそんなことは不可能である 。
 カチュアがクスクスと笑いながら提案する。

「小指で倒すのは無理でしょうけど、ここはあまり手を貸さない方が正解みたいね。後方で援護魔法をかけながら、エリカちゃんの横でクロムをよいしょしておくわ」

 と、魔法攻撃をやめ、後退する。

 行きがけの駄賃ではないだろうが、帰り際にこれでもかと強化魔法をかけてくれた。

 筋力、体力、魔力、およそ戦闘に必要なステータスはすべてアップする。
 僕の身体は青、赤、黄色と順番に輝く。
 ステータスを開けば戦闘力は2000を超えていた。
 一時的とはいえ大台突破である。
 気をよくした僕は大技を放つ。 
 得意の剣閃である。
 聖剣に魔力を込めるが、それを制止するものがいる。聖剣のエクスだ。
 彼女はこんなことを提案する。

「ねえねえ、クロム、そろそろこの剣閃にも名前を付けない?」

「名前?」

 また面倒なことを。

「戦闘中、いちいちそんなこと言ってられないよ。剣閃で十分だ」

「いや、かのアーサー王も剣閃を放つとき、必殺技の名前をしゃべっていたよ」

「ほんと?」

「まじまじ。なんか気合いを込めて言霊(ことだま)を発することによって、魔力が供給されやすくなるんだって。試してみれば?」

「ちなみにその王様はなんて言ってたの?」

「約束された調理だったかな。ん? クッキング?」

「変な名前だ」

「ボクの記憶違いかもね。でも、格好いい方が効果あるみたいだよ。それにエリカちゃんの前で格好付ければ良い報告がしてもらえるかも」

「それはあるかもね」

 食い入るように僕を見つめるエリカを観察する。彼女は僕の英雄的な活躍に期待しているようだ。

 その期待に応えたいので派手目な演出をほどこす。
 僕は呪文を唱える。
 攻撃呪文ではなく、付与魔法だ。
 ただ、ただの付与魔法ではなく、剣に炎をまとわせる。
 《火属性付与》の魔法である。

 火属性をまとい、炎の武器となったエクスカリバー、もともと神々しいまでフォルムがより一層輝く。

「あ、そういえば熱くない? エクス」

 急に心配になったので尋ねる。
 エクスは呆れながら言う。

「今さら心配する? ボクで鉄のように堅いドラゴンに斬りかかったり、くっさいアンデッドを斬ったりしたじゃん」

「それもそうか」

「そうだよ。中身は可愛い乙女だけど、その刀身は世界最強の聖剣だよ、気にしないで」

「分かった」

 と言うと、僕は猿どもに斬りかかった。
 炎の剣を切り上げる。
 赤い軌道が目を引く。

 派手なだけでなく、獣である暴れ猿には効果的な一撃だったようで、一撃で戦闘不能に陥った。

「やるじゃん、クロム!」
「さすがだね、クロム君」
「クロム様、すごいです」

 と称賛の声をもらう。
 その後、残った暴れ猿に斬りかかる。
 炎の剣は効果的に猿どもにダメージを与えた。
 辺りに猿の体毛と肉の焦げる臭いが充満する。

 このままでも全滅に追い込めるだろうが、今、僕が欲しいのは勝利ではなく、圧倒的な勝利だった。

 エリカが思わず僕を尊敬してしまうような、英雄だと誤認してしまうような力が欲しかった。

 なので僕は最後に残った一匹に全力を傾ける。
 最後に残った暴れ猿はひときわ大きかった。大猿である。
 右目に古傷があり、貫禄がある。
 たぶんであるが、この群れのボスなのだろう。

 カチュアが、
「クロム君、気をつけて、そいつだけ戦闘力の桁が違う」
 と、教えてくれる。

 たしかにこの大猿は別格だった。

 他の猿が三桁台の戦闘力だったのに、こいつだけ1000以上、少なくとも1200くらいはある。

 やはり見た目と戦闘力は比例するのだな、と思った。
 僕は怒りにまかせた大猿の一撃をトリネコの円形盾で受ける。
 ずしり、という重い一撃が腕に伝わってくる。

 もしも安物の盾だったら、そのまま破壊され、腕を粉々に砕かれていたかもしれない。

 この盾を買ってくれたリルさんとカレンに感謝すると、僕はシールドで相手を殴りつけた。

 いわゆるシールド・バッシュというやつである。

 本来、シールド・バッシュは金属の盾、それも(スパイク)がついた盾で行なうのがいいとされているが、木の盾でやってはいけないという道理はない。

 そもそもこの攻撃は大猿にダメージを与えるのが目的ではなく、よろめかせ、隙を作るためにやったものだ。

 そしてそのもくろみ通り、大猿は不意打ちの盾攻撃によろめき、あとずさりした。
 残っていた左目も痛めたようで、一時的にではあるが、視力も失っている。
 これで数秒は隙だらけだ。
 無論、その隙は見逃さない。
 僕は聖剣のつかに力を込める。

「ええと、なんか 必殺技の名前を叫べばいいんだよね?」

「うん、叫んで、叫んで」

 と、ノリノリのエクス。

 素直にそれに従うと、僕は必殺技の前口上を詠唱した。


「大気の微塵に眠りし火の力よ、覚醒せよ!!
 敵を焼き尽くす炎の舌となれ!」


 必殺、ファイア・ブレード!!


 そう叫ぶと同時に聖剣の刀身から剣閃が放たれる。
 さらにその剣閃には炎魔法が追加される。
 螺旋のように渦巻きながら黄金の剣閃にまとう炎。
 それは炎の渦巻きのようになり、大猿に襲いかかる。
 大猿に直撃したその一撃、瞬間、大猿は爆炎を上げ、燃え上がる。
 圧倒的な力によって消し飛ぶ。
 大猿は痛い、と思う暇なく、あの世に旅立ったことだろう。
 それほどの一撃だったのだ。
 その光景を見ていたカチュアはつぶやく。

「す、すごい、まるで上位魔法のような威力」

 エリカは声にならない声を上げる。

「これが英雄の一撃、お姉ちゃんの恋人の強さ……」

 ふたりは僕に感心していたが、それ以上に感心したのは僕だ。
 まさかこのように威力のある一撃を放てるとは夢にも思っていなかった。
 エクスに感謝する。

「ありがとう、エクス、君のアドバイスのおかげで必殺技が完成したよ」

「…………」

 しばしの沈黙のあと、エクスは言った。

「……えへへ、そうでしょう、感謝してよね」

 いつものように明るくまとめると、僕らは後処理に入った。
 暴れ猿の素材を集め、それをギルドに持って帰るのである。
 討伐クエストは討伐の証をギルドに持って帰るまでが討伐クエスト。
 基本中の基本であったが、ちょっとだけ難儀した。
 最後に倒したボス素材がボロボロになっていたからである。
 これはカウントしてくれるかな?
 そんなことを思いながら家路についた。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

今月2月28日発売予定です。なにとぞ、よろしくお願いいたします。

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